第130話 イケメン砂漠の誘拐調査団・闘争②


※作者です!ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。

この回、後半の文章がかなりはっちゃけててます。

書き直そうと思ったんですが、当時これが好きという方もいたのでそのまま掲載します。書籍版は綺麗にまとまっていますよ(言い訳)。苦手な方用にまとめ文を最後に載せておきます・・・!


―――――――――――――――――――――――――




 もはや人質という盾をなくした敵魔法使いに気を回す必要はない。

 魔力が底を尽きそうなので精度がイマイチだが、この好機を逃す俺じゃねえぞ。


 向こうに残るのは、アイゼンバーグ、フェスティ、指揮官らしき神父風の魔法使い、そのとりまき五名、計八名。


 対するこちらは、俺、アリアナ、アグナス、トマホーク、ドン、クリムト、バーバラ、女盗賊、ジャンジャン、上位ランカーのポー、その他八名、計十八名。内、四名が魔力切れ寸前のため、子ども三人を連れて後方の陣地へと下がっていく。


「“電衝撃インパルス”!!」


 ギャギャギャギャギャ!

 指揮官を狙った稲妻の奔流が前方へと駆け抜け、守っていた取り巻きの魔法使いにぶつかって放射状にその強烈な電流をまき散らした。

 直撃を食らった魔法使いは感電しながら後方へ吹っ飛び、放射状に広がる電流を受けた三人の魔法使いは「アババババババビバァ!」とパソコン教室の名前っぽい悲鳴を上げて白目を向き、仰向けに倒れて砂の大地とお友達になった。

これで向こうの残りは五人だ。


「はぁ…はぁ…」


 ダメだ、息が上がってきた。

 浄化魔法の連続使用と落雷魔法の連発で魔力切れ寸前だ。

ふらついて、片膝をついてしまう。


純潔なる聖光ピュアリーホーリー”は練習不足で魔力効率が相当に悪い。無事帰ったら練習しねえとな。


「落雷魔法ですか……」


 アイゼンバーグは未だに余裕しゃくしゃくの表情で杖を握りしめている。


「あなたはセラー教への信仰を持つべきですね」

「フェスティ! 目を覚ませ!」


 ジャンジャンが魔力切れ寸前で顔を真っ青にしながら、アイゼンバーグの言葉を無視して声を張り上げる。


「この子はセラー教の熱心な信者です。以前の記憶が戻ることはないでしょう」

「なっ……!」

「それをあなたが見届ける術はありません。なぜならあなたはここで――」


 そこまで言って、アイゼンバーグはにぃと口元を上げ、杖を振りかざした。


「死ぬからです。“強制改変する思想家グレート・ザ・ライ”!」


 ぶわっと地面に紫色の禍々しい魔法陣が浮かび上がる。


「なにっ!」

「くっ……?!」

「なんだと?!」

「詠唱なしだと!」


 再び“強制改変する思想家グレート・ザ・ライ”が俺たちの心をかき乱し、アイゼンバーグへと気持ちが引き寄せられる。アグナス、アリアナ以外のメンバーが頭を抱え、あまりの激痛で地面に倒れた。


「くくく…。誰も詠唱が必要とは言っていませんよ?」


 そう言ってアイゼンバーグはもっている樫の杖に頬を擦りつけ、べろりと舌を這わせる。

 きもっ! リアルにきもいんですけど!


 フェスティが攻撃を封じられた俺たちを何の感情も籠もっていない目で見つめながら、黒のローブを揺らしてこちらへ向かってくる。


「“落雷サンダーボルト”!」


 アイゼンバーグとフェスティが離れた隙を逃さず、魔力を振り絞って“落雷サンダーボルト”を撃った。


 だが敵の魔法使いの一人がそれを予期していたのか、アイゼンバーグを突き飛ばして庇う。

 ピシャアアンという雷音と共に、その魔法使いは感電して地面に倒れた。


「敬虔なるセラーの子に慈悲を」


 アイゼンバーグは魔法を発動させたまま起き上がり、身を犠牲にした魔法使いへ呟く。

 間髪入れずに、残った魔法使い、指揮官らしき男、フェスティの三名がこちらへ魔法をぶっ放してくる。


「“エアハンマー”」

「“ファイアボール”」

「“鮫刃シャークナイフ”」


 不可視の風の拳がポーを吹っ飛ばし、炎の玉が冒険者にぶちあたり、水の刃が女盗賊を切る。

 三人が声にならない声を上げて意識を手放した。


 次々に魔法が撃ち込まれ、冒険者たちが戦闘不能に陥っていく。


「ぐわ!」

「ちっ」

「ぐ……」


 頼りにしていたアグナスパーティーの三人、トマホーク、ドン、クリムトまでもが無防備の状態で魔法を食らって意識を失った。さらに、バーバラ、ジャンジャンも魔法の攻撃をモロに受けた。


「きゃあ!」

「うぐぅ…」

「バーバラ! ジャンジャン!」


 “エアハンマー”でバーバラはかなり後方まで吹き飛ばされ、“サンドボール”をもろに受けたジャンジャンがうめき声を上げて、地面に転がった。


「“落雷サンダーボルト”!」


 雷鳴を轟かせ、一筋の稲妻がアイゼンバーグの五メートル横に着弾する。砂が弾け飛んでアイゼンバーグの黒服にパラパラと力なくぶつかった。


 くそ! 魔力切れで落雷魔法の照準が合わない。

 ジャンジャンは腹部を押さえて身もだえながらも、アイゼンバーグを睨んでいる。

 あの様子だと魔法の一発も撃てないだろう。魔力切れ寸前と魔法直撃で意識があるのが不思議なぐらいだ。


待ってろ、あとで絶対に回復してやるからな。


 アグナスとアリアナは何とか魔法を凌いで、じりじりとこちらに後退してくる。“強制改変する思想家グレート・ザ・ライ”の影響下にあるいま、自己防衛で手一杯になっているようだ。

 向こうに身体強化を使われたら一瞬で距離を詰められてしまうが、とにかく散開するよりも合流したほうがいい。


「“落雷サンダーボルト”!」


 ドパァン!


 魔力不足と“強制改変する思想家グレート・ザ・ライ”のせいで精度が最悪。アイゼンバーグに当たらず、砂が弾け飛ぶ。


「“落雷サンダーボルト”!」


 今度は指揮官らしい神父男を狙う。

 フェスティに当たらないよう調整しているため狙いが逸れてしまい、“落雷サンダーボルト”が雷光をきらめかせて砂をえぐった。


 こういうときこそ冷静になれ。


落雷サンダーボルト”は見た目の派手さと威力のおかげで牽制になる。

 みんな死んではいない。白魔法を唱えれば治癒できる。


「エリィちゃん、これを!」


 アグナスが“強制改変する思想家グレート・ザ・ライ”に浸食される頭を押さえながら、手のひらサイズの小瓶を投げた。

 弧を描いて飛んでくる瓶を片手でキャッチする。

 魔力ポーションか! さすがアグナス!


 その間に飛んできた魔法をアリアナが身体強化し、鞭で弾き飛ばす。

 かなりきついのか、彼女の額から汗がだらだらと流れている。


「我が家に代々伝わる秘伝の魔力ポーションだ! それを――」


 アグナスの言葉を待たずに蓋を開けて一気飲みした。


「一口……って全部?!」


 うおおおおおおおおおおおおおおおっ!

 これ酒じゃねえかよ!

 焼ける! 喉が焼ける!


「こほっ! けほっ、こほっ!」


 口から勝手に可愛らしい咳が出るけどまじ何十度ある酒だよ!

 ぜんぜん可愛げねえよ!?

 飲み込んじまったから腹も熱いっ!


「あああああああああっ」


 焼ける。身体が焼けるように熱い。

 思わず身もだえる。


「だ、大丈夫かい?!」

「エリィ…!」

「……っ」


 アグナスが心配した声を上げ、アリアナが飛び付いてくる。

 喉が焼けるみたいに熱くて何もしゃべれない。


「魔力の回復はすごいがキツイ酒なんだ! 気持ち悪いなら吐いたほうがいい!」

「私のポーションを…」

「……」


 アグナスは叫びながらどうにか敵の“ファイアボール”を身体強化した片手剣で切り裂き、アリアナがポケットから魔力ポーションを出そうとする。


「このままじゃやられる! アリアナちゃん、魔力ポーションを飲むんだ!」

「でもエリィが…」

「……」


 アグナスは飛んできた“サンドボール”を片手剣の腹でいなして進路を変え、“ウインドソード”を上段から振りかぶって迎撃する。

 ギィン、という鉄と鉄がぶつかる甲高い音が響き、アグナスがよろめく。


 アリアナは喉を押さえている俺を見て、魔力ポーションを握りしめた。


 それを飲んで“トキメキ”を使ってくれ、と言いたいのに、アグナスから貰った魔力ポーションのせいで声が出ない。


「くくくく……セラーの教えを乞わない愚か者ども。我が前にひれ伏し、セラーの慈悲にすがりなさい」


 アイゼンバーグがそう呟くと、より一層“強制改変する思想家グレート・ザ・ライ”の禍々しい輝きが増し、紫色の光が生物のように纏わり付いてくる。

 かろうじて残っていた冒険者もあっという間にやられてしまい、立っている冒険者はついに俺とアグナスとアリアナだけになってしまった。


「ぐっ……なんて強力な……洗脳魔法…」

「エリィ…」

「………」

「さあフェスティ。セラーの教えをあの者たちへ伝えるのです」

「はい」


 無機質な声色でフェスティが“下の上”の身体強化でこちらに突進してきた。

 援護射撃の“ウインドカッター”と“ファイアボール”を、下っ端っぽい魔法使いと指揮官の神父が撃ってくる。


「ちぃっ!」

「ダメ……!」

「………」


 アグナスとアリアナがなんとか二つの魔法を迎撃したが、フェスティへの攻撃が間に合わない。

 フェスティが目の前へきて、ぼんやりした表情のまま、ショートソードを上段から振り下ろした。


「エリィちゃん!!!」

「エリィよけてっ!!!!」

「………」


 鋭い刃が当たる。

 そう思ったそのときだった。


 フェスティのショートソードが、俺の目の前でぴたりと停止した。


「な……?!」

「エ、エリィ……?!」


 自分の両手が、フェスティの握っているショートソードをがっちりと真剣白刃取りしていた。


 ふっふっふっふっふっふ…。

 はっはっはっはっはっはっはっはっは!

 この天才小橋川、伊達に時代劇ドラマを毎週かかさずチェックしてねえぜ。


 わずかばかり驚いたのか、フェスティの幼さが残る顔がぴくりと反応する。

 これにはアイゼンバーグも驚いたらしく、眉間に皺を寄せている。


 まあ、別にこんなのね、この天才にかかれば造作もないことなんだよ。




「白の女神エリィちゃん! 悪を討つため、砂漠の大地に降ーーーー臨ッ!」



 エリィが絶叫した。

 そりゃもう喉がはち切れんばかりに叫んだ。


「えっ……??」

「え……??」


 アグナスとアリアナが心底驚いて、口をあんぐりと開けた。


 ええええええええええええええええええっ!?


 ここにきて勝手に叫ぶのまじやめようねエリィちゃん!

 一番びっくりしたの俺だわ俺っ!!

 何よ「悪を討つため」って?!

 何よ「降ーーーー臨ッ!」って?!

 お兄さん恥ずかしくてもうお嫁にいけない!



 ―――ッ!!!!?


 

 ボグッ、という嫌な音がしてエリィの蹴りを受けたフェスティが後ろへ吹っ飛んでいく。


 うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!

 ちょっと待て!!

 勝手に足が動いてフェスティに蹴り入れてる?! 

 思いっきりフェスティ蹴り飛ばしちゃったよーーい!


 これ何なの?!

 酒癖悪い?! まさかのエリィお嬢さん酒癖めっちゃ悪いパティーン?!


 オッケーオッケー落ち着いて考えよう。

 ビークール。BE・COOL。クールビズ。半袖短パンノーネクタイ。


 じょぶじょぶ大丈夫。向こうも身体強化してるから。

 きっと、たぶん。


 ともあれ魔力は回復したし、いくぜ!

 おりゃああああ!


 さらに飛び出す天才小橋川アンド宇宙一優しき美少女エリィ。

 あーなんかめっちゃ気分いいかも。


 これ完全に酔ってる? 酔ってるよなぁ?

 最高のきぶぅん。

 絶好調ナリ! 魔力満タン!


 フェスティが素早く後退するの、いい判断。

 でも俺は突撃だぜっ。

 おしおきだ!


「おしおきよーーーーーっ!」

「な、なんだあの娘! 急にっ!」

「バカ、魔法を撃て!」


 下っ端魔法使いと指揮官神父が慌てて杖を構えるけど無駄無駄。


「“ファイアボール”!」

「“エアハンマー”!」

「それっ。えいっ」


 炎の玉を最小限のステップでかわし、空気の拳にこちらの拳打を合わせて相殺する。


「な……!」


 指揮官神父の右横へ回り込み、右拳打をわき腹へ一発ぅ。


「う゛ッッ!」


 さらに左拳打を腹の中心へぶち込んで内臓をかき回すぅ。


「ぐほわぁっ!」


 そんでもって身体がくの字に折れたところへ脳天狙ってかかと落としぃ。


「ひぎいっ!」


 見たか、十二元素拳「火の型」!

 かかと落としで見えたであろうパンツは敗北への選別だ。


「それそれそれそれそれそれぇ!」

「はひはひはひはひはへはひぃ!」


 ちょちょちょちょちょちょちょーーーーーーっとお嬢さぁぁん?!?!

 どんだけ攻撃的になってんのまじでぇ?!

 勝手に他人の背中を踏みつけるのやめようね!

 もー本気でびっくりだよお兄さん!


 つーかまじでエリィ酒癖わりいぞこれ!

 手に負えねえって!


 ってこいつむかつくから別にいいか。

 じゃあ俺もエリィに便乗してと。


「リピートアフターミィ」

「はひ?」

「それそれそれそれそれそれそれそれそれそれぇ!」

「はひはひはひはひはひはひはひはひはへはひぃ!」


 どうだ乙女に踏みつけられる気分はぁ!

 散々子ども達を苦しい目に合わせた罰だ!


 ふぅーーー、いい感じに指揮官神父がボロボロになった。

 ブーツの足形がおっさんのローブに無数に残って、死ぬ寸前のゴキブリみたいにぴくぴくしてる。

 グッジョブ、俺とエリィ!


 まさにほろ酔いまっただ中って感じだな。

 もーちょっと飲めばテンションマックスになるんだが、エリィは完全に酔っ払っているらしい。リアルに手癖が悪いぞこのお嬢さま。


 だが……もっと酒をよこせ。

 異世界に来て色々なぁ、俺だって辛かったんだよ。久々に酒飲んだからこのほろ酔い感覚をすっかり忘れてたわ。


 むっ!

 それにしてもあの下っ端、かかと落としのときに絶対パンツ見たな…。

 エリィのパンツを見るなんて万死に値する!

 よし! おしおきだ!


「おしおきしりゃうんだかりゃっ」


 酔いが回って呂律が回らねえっ。

 にっこりと笑顔のまま砂の地面を思い切り右足で蹴り、一気に下っ端魔法使いへと肉薄する。


「なぜ? なぜ“強制改変する思想家グレート・ザ・ライ”が効かない…?」

「ア、アイゼンバーグ様っ!」

「逃がしゃないわよおっ」

「エリィちゃん酔ってる?」

「みたい……」


 アグナスとアリアナが心配半分、驚き半分といった声が聞こえてきたような気がする。

 うむ、あとで酒盛りじゃ。くるしゅうない。

 もっと酒をよこせ。


「捕まえたっ、アハ」

「ひいいいいいいいいいいっ」


 なんて酒のことを考えつつ、下っ端魔法使いの肩をがっちりと掴んだ。

 そこにフェスティが無表情のまま身体強化で突っ込んでくるが、下っ端を盾にしてガードする。

 バックステップでフェスティがアイゼンバーグの元へと下がった。


 では、異世界初公開。

新たに考案したオシオキを下っ端くんにプレゼントしようじゃあないか。


「魔法のおべんきょ楽しいなぁ~」

「放せ! 放せええぇぇぇぇっ!」

「じたばたしてもダ~メッ。身体強化してるかりゃね」

「酒くさっ!」

「はい、ご一緒に♪」


 身体強化を切って、一気に魔力を練り、落雷魔法へ変換。

 そして開放“電打エレキトリック”!


「エ♪」


――バチィッ!


「ペッ!」


「レ♪」


――バチィッ!


「ペッ!」


「キ♪」


――バチィッ!


「ペッ!」


「トリィィィィィィィィィィック♪」


――バババババババババババチィッ!


「ポペエエエエエエエエエエエエエッ!」


 お勉強を頑張る下っ端がいい感じに電撃を浴びてアヘアヘしている。

 うんうん、やっぱ何事も努力が大事だよな!

 俺がさぁ、日本にいたときもさぁ、みんなちゃーんとやってたよ。

 一生懸命勉強して仕事がんばったもんなぁ。でもオンとオフも大事だぜ!


 そっかー。そうだよなー。

 これじゃ足りないか……。


「それりゃもう一度。アハッ」

「ひいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

「りぴーとあふりゃーみぃ」

「ひい!」


「エ♪」

「ペッ!」


「レ♪」

「ペッ!」


「キ♪」

「ペッ!」


「トリィィィィィィィィィィィィィィィック♪」

「パペエエエエエエエエエエエエエエエエエップ!」


 ババババババババババババババチバチィッ!

 電撃音が静まりかえる魔改造施設の中庭に響く。


 下っ端の髪型がアフロヘアーに変わって皮膚がこんがりと焼けたので手を放すと、建造物が倒れるように、ゆっくりとぶっ倒れた。


「いい子いい子。お勉強はたのしゅいわねぇ~」

「セラーの威光に跪け! セラアァァァァァァァァァル!」


 アイゼンバーグが額に青筋を浮かべて杖を掲げ、訳の分からない叫び声で魔力を増大させた。

 うっとおしい紫色の光が足元に絡みつき、得体の知れない異物が頭の中へ勝手に入ってこようとする。

そんなもんは今のほろ酔いのハッピーさで塗りつぶす。

全員を守るんだ。

 ここでやらないで誰が男だ。


「それそれそれそれそれそれそれっ!」

「ほげふげほげふげほげふげほげぇ!」


 ちょっと待ってーちょっと待ってーお嬢さぁぁぁんん?!?!?!

 足が勝手に動いて思いっきり相手の背中踏んづけてるんですけどパート2!


「それそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれっ!」

「ほげふげほげふげほげふげほげふげほげふげほげふげほげぇ!」


 だぁーーーーーーーーーーーーやめんかこの酔っ払いぃっ!

 横! 横からフェスティが斬り込んできてんだよぉい!


「むむっ」

「ほげぇぃ………」


 よし、やめてくれた。いい子だエリィ。

 でも下っ端の背中の上に、さも当然ですって感じで乗るのやめようね。


「セラーの教えです」

「―――ッ?!」


 眼前に迫っていたフェスティの袈裟懸けを軽いステップで躱し、斬り上げをひねってよけ、スピード重視の打ち下ろしを、右足、左足、とツーステップで華麗に回避しつつ、懐へ飛び込む。


 頭が冴える、視界はクリア、オールグリーン発射オーケー!


 剣士との戦いは懐に入ればこちらの勝ち。中距離で攻撃され続ければこちらの負け。ポカじいの教えのとおりに動く。

 でも残念。フェスティは攻撃しねえんだよーい。


「“電衝撃インパりゅしゅ”!」


 フェスティの懐へ滑り込み、安全地帯を確保して身体強化を切ってアイゼンバーグへ“電衝撃インパルス”を撃ち込んだ。

 それと同時に再度身体強化をかけ、攻撃される前にフェスティの懐から飛び退いた。

 ふっ、見たか。この蝶のように舞う俺とエリィの姿を。


「なんだと…!」


 アイゼンバーグはあわてて“強制改変する思想家グレート・ザ・ライ”の行使をやめて身体強化に切り替え、ごろごろと砂の大地を転がった。

 “電衝撃インパルス”が奴の身体をかすめて後方の壁に激突し、稲妻を放射線状に撒き散らして施設に無数のヒビを入れた。


 アイゼンバーグの魔力供給が絶たれたため、紫色の禍々しい魔法陣が足元から消える。

 フェスティはアイゼンバーグの元へ戻り、安否を確認した。


 にしてもアイゼンバーグめ。

電衝撃インパルス”を躱すとは妙に勘のいい野郎だ。


「アリアニゃ! アグネスぅ! いみゃのうちに魔力ぽーちょんを飲みなさぁい!」

「お、オーケーだ!」

「うん…!」


 アリアナとアグナスに指示を飛ばした。

 “強制改変する思想家グレート・ザ・ライ”のくびきから解放された二人が、持っていた魔力ポーションを開けて一気にあおる。


 ちぃっ、アグナスちゃん、もうあの魔力ポーション持ってねえじゃねえか!

 あとで酒盛りしようと思ったのにYO。

 セイ、ホーオオゥ。


「アグニャスちん、にゃんでさっきの魔力ぽーちょん持ってにゃいのよ」

「え……? あ、あれはね、秘伝のポーションなんだよエリィちゃん」

「あるのかにゃいのか聞いてりゅんだけろ」

「ごめん、もうないよ!」

「にゃんでよ~ぷんぷん」


 い、いかん。

 ほろ酔いでつい「ぷんぷん」とかふざけたことを言ってしまう。


「“落雷さんだぁぼりゅと”!」


 ピカッ、と雷光がきらめいてアグナスの真横に突き刺さり、砂の地面を爆散させた。


「うわ!」


 ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっとエリィお嬢さまぁぁぁぁぁっっ?!?!

 酒がねえからってアグナスちゃんに“落雷サンダーボルト”撃っちゃダメ!

 まじでダメ! ダメダメダメダメ!

 謝らなければ! 一刻も早く!


「ごめんにゃさい!」

「ははは……いいよ、うん」


 思い切り頭を下げると金髪ツインテールが勢いよく一緒についてくる。


 そんで顔を上げたときに視界へ飛び込んできた、アグナスのすべてを諦めたあの遠い目ね……。

 心に突き刺さるんですけど……。


 もうどんだけー。

 どんだけエリィ酒癖悪いのー。

 禁酒! 禁酒令発動!

 これ以上飲んだら何するかわからん!


「酔ったエリィかわいい」


 アリアナがそんなことを呟いている。

 エリィが酔っ払っているせいでめちゃくちゃじゃねえか。


 そして勝手に頬を膨らませないでくれますエリィさん。

 お酒はもうないんです。それは事実なのです、はい。


 頬を膨らませたまま、アイゼンバーグを睨みつけた。

 続いてフェスティ、後方で倒れているジャンジャンを見つめる。


 アリアナとアグナスが魔力ポーションを飲みながら身体強化で駆けつけ、俺の両隣に並ぶ。


 気を取り直したらしいアイゼンバーグが杖を構え、フェスティがショートソードを鞘へ収めて杖を引き抜いた。


 しばらくの沈黙。


 が、その短い沈黙はすぐに破られた。

 大きな悲鳴が聞こえて大地が揺れる。

 施設の壁が粉々に吹き飛んで、雪崩のように崩落しながら魔改造施設の内部をむき出しにし、もうもうと上がる煙と砂に包まれた“何か”が現れた。


 全員、その異形なモノへと視線が釘付けになった。





――――――――――――

まとめ

・魔力なくなる

・アグナスのポーションもらう

・ポーション酒入りで酔う

・魔力回復して手下倒したけど施設から“何か”が現れた

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