第70話 イケメン、ルイボン、商店街③
「うまっ!」
「これはうまい!」
「な、なんだこの美味さは!」
もはや三人組だろとツッコミを入れたいほど息がぴったりな獣人の三人が、たこ焼きの美味さに驚嘆する。
アリアナと、ドクロをかぶった天然系女子コゼットがたこ焼きを頬張っている。美味いもの食べてる女子ってほんと幸せそうな顔するよな。
ポカじいもたこ焼きがお気に召したようだ。
「ほほう。これはまた一風変わった料理じゃな。この形がなんともいえんのぅ。そうこの柔らかくて丸い形、まさに若いおなごの――」
「
「オシシシシシシシシシシシシシシシシシシシリィィィッッ!!!」
「ちょいちょい下ネタ挟むのほんとやめて」
「エリィ、美味しいね…!」
「そうね。よかったわねアリアナ」
「うん…!」
アリアナの尻尾が臨界点を突破せん勢いでぶるんぶるん揺れている。
彼女は自然体でスケベじじいの残骸を踏んづけていた。
食べ終えて落ち着いたところで、俺はみんなを見た。
「ということでこれが商店街の呼び込みのメイン商材ね」
「なるほどな。これだけで客は来そうだな」
「ギラン。あとは呼び込み用のフックが必要よ」
「フック?」
「消費者を惹きつけてメイン商材を買ってもらう、補佐のような役目ね」
「ほほう。ダテに領地経営はしていないようだな。で、そのフックとやらは一体なんなのだ?」
「ずばり、治療院ね」
「んん? あんなさびれた治療院でどうにかなるのか?」
現在、サンディは戦争中で治療ができる白魔法士が圧倒的に不足している。会議の際に確認したら、案の定この町でも白魔法士が不足し、怪我人があぶれている状態らしい。町の北東にある治療院には連日長蛇の列ができているそうだ。怪我人をさばききれていない。
この政治事情を使わない手はない。
つぶれかけている『西の商店街・治療院』を普段より安価に解放し、客寄せを行う。治療に来た怪我人が元気になり、目の前で売っているたこ焼きを買う。美味いから噂になる、という寸法だ。
「仕掛けるのは勝負の五日前あたりからがいいでしょうね。集客勝負開始の当日からでは口コミで店の情報がうまく広がらないわ」
「口コミ?」
「噂よ。う、わ、さ」
「どうしてだ?」
「初日に噂が広がっても、広がりきるのに四日、五日かかるでしょ? そうしたら最終日前後でようやく集客が爆発するって案配になっちゃうじゃない」
「ほほう。早めに仕掛けておいて集客を前もってしておく、ということか」
「別に今から何かしちゃダメってルールじゃないからね。あくまでも集客のカウントが一ヶ月後スタートってだけだから」
「お嬢ちゃん、なかなかのワルだな」
「勝負とは非情なものよ」
「だが治療院には肝心の治療士がいないぞ」
「ここで伸びているじいさんと私が治療するわ」
「このスケベじじいが?」
「この人、こう見えて白魔法士なのよ」
「なんと!?」
白と黒はレア適性。驚くのも無理はない。ましてや人の尻を触って下ネタを言うじいさんだ。
じじいよ、キリキリ働いてもらうからな。
治療魔法の修行にもなるし、もってこいだろ。
「さらにポイントカードを作るわよ」
「ポイントカード?」
今度はコゼットが首をひねった。
「商店街で買い物をするとポイントが貯まるようにするの。スタンプの数で景品が交換できるわ。たこ焼き店でポイントカードをもらった客が、商店街の奥へと足を運ぶ理由づけね。景品交換所をこの店かヒロシの店の前に設置しましょう」
「おもしろい! エリィちゃんは天才か?!」
ギランが高々と笑った。
「そうなの。わたしって天才なの」
「はははっ!」
「それでね……。三人とも仲が悪いのはわかるけど、この勝負期間だけは休戦ってことにしましょうよ。ねッ?」
俺の言葉を聞いた、ギラン、ヒロシ、チャムチャムはお互いを睨みつける。
この三人がどうして嫌い合っているかはわからない。会話を聞いていると、きっと昔は仲が良かったのではないだろうかという予想がつく。これをきっかけに関係が修復すればいいと思う。
見かねたアリアナが、喧嘩はめっ、と言い、その言葉を合図に三人はぎこちなく握手をかわした。
「休戦だ」
「おうとも」
「この勝負期間のみ、だ」
○
そのあと、俺は商店街を見て回った。客としてではなく、営業として、ビジネスマンの目で視察する。
一言で言うならば「ひどい状態」だ。
アイキャッチがなけりゃ商品陳列にまったく意味を持たせていない。
ただ並べて、売れそうな物を前面に出すだけ。
これは店舗ごとにテコ入れが必要だな。
たこ焼きとおにぎりの準備にポイントカード、商店街のテコ入れ、あとは治療院の改装。やることがありすぎる。人員の分配はギランにまかせ、細かいことは商店街の大人たちに丸投げし、俺は最小限の動きで済むようにしよう。修行を投げっぱなしにはしたくない。
「ポカじいしか白魔法が使えないのは痛いわね。重症患者がきたらどうしましょ…」
「ほっほっほっほ。エリィ、おぬしもう使えるぞぃ」
「え?」
酒を片手についてきたポカじいが、あっさりとそんなことを言う。
「白魔法じゃよ」
「何言ってるの。使えないわよ」
「基礎が終わってからまだ一度も試してないじゃろうが」
「それはそうだけど……」
グレイフナーで何度詠唱しても魔法が発動しなかった。
それが今ならできるって?
「おそらく白の中級までいけるじゃろうな」
「中級までッ?!」
「上位の中級使用者は魔法学校でも一握り…」
アリアナが真面目な顔でおにぎりを頬張る。
「ちなみにアリアナ。おぬしも上位の黒魔法までいけるぞい」
「えっ………?」
驚きのあまり彼女がおにぎりを落としそうになり、俺があわててキャッチする。
「ほんとに? ポカじいウソついてないよね…?」
「ほんとじゃ。尻は触るが嘘はつかん」
俺たちは日が落ちて暗くなってきた西門から急いで外に出る。
門番が「夜はあぶないぞ」という警告をくれたので「すぐ戻るわ」と叫んだ。
俺とアリアナは早速、上位魔法の詠唱を開始した。
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