第20話 特訓とイケメンエリート③


      ○



 さらに三日、新しい魔法の開発に成功した。


 ヒントはバリーの魔法にあった。

 バリーの適正魔法は「闇」で、彼が使う魔法の中に“消音バニッシュ”というオリジナル魔法があったのだ。


「何度も脳内でイメージしながら、自分でつけた名前を唱えていたらできるようになりました」

「自分で魔法を作ったの?」

「左様でございます」

「他の人は知ってるの?」

「冒険者同士で自らの秘技をしゃべることはありません」


 気づかないうちにバリーが近くにいるのは、この“消音バニッシュ”のせいだった。

 魔法使って近づくとかほんとやめて。


 どうにかして雷魔法、“落雷サンダーボルト”が有効活用できないかと思って試行錯誤していたので、バリーのアイデアは素晴らしかった。その結果、確固たるイメージを構築して自ら命名すると、新しい魔法が作れることが判明し、三つの雷魔法が使えるようなった。



 スタンガンみたいな、触れた相手にショックを与える魔法。

電打エレキトリック



 前方に電流を放出して相手をはじき飛ばす魔法。

電衝撃インパルス



 落雷サンダーボルトを一点に集中させて放出する魔法。

極落雷ライトニングボルト



 極落雷ライトニングボルトはあまりに強力で、特訓場からまた温泉が噴き出る、というアクシデントが起きたためエイミーに使用を禁止された。


「姉様。私の目に見えている範囲すべてへ雷を落としまくる雷雨サンダーストームっていうのも思いついたんだけど――」

「エリィ、お願いだからやらないでね」


 釘を刺したエイミーは必死だった。


「なんかごめんなさい…」


 ちょっとやり過ぎたと反省する。

 ノートに新しい魔法を追加した。


――――――――――――――――――――――――


      炎

白     |     木

  \   火   /

   光     土

      ○

   風     闇

  /   水   \

空     |     黒

      氷

習得した魔法


下位魔法・「光」

 下級・「ライト」

 中級・「ライトアロー」

    「幻光迷彩ミラージュフェイク

    「治癒ヒール

上級・「ライトニング」

   「癒発光キュアライト


下位魔法・「風」

 下級・「ウインド」

 中級・「ウインドブレイク」

    「ウインドカッター」

 上級・「ウインドストーム」

    「ウインドソード」

    「エアハンマー」


下位魔法・「水」

 下級・「ウォーター」


下位魔法・「土」

 下級・「サンド」


複合魔法・「雷」

落雷サンダーボルト

電打エレキトリック

電衝撃インパルス

極落雷ライトニングボルト


――――――――――――――――――――――――


       ○


 夕食はいつも通り家族全員で取っている。

 ダイエットをしっかり継続し、甘い物の誘惑を断ち、余計な炭水化物は摂取しないようにしている。


「それでエリィ。特訓はどうなの?」


 母アメリアがついにしびれを切らしたのか尋ねてくる。

 驚かそうと、俺もエイミーも特訓の成果をずっと黙っていたのだ。


「それがお母様……」


 とりあえず、わざと残念そうな顔をした。

 ピクッと母の眉がつり上がる。


「ダメ、だったのね?」

「そうなんです。幻光迷彩ミラージュフェイク治癒ヒール、上級のライトニング、癒発光キュアライト、中級のウインドブレイク、ウインドカッター、上級のウインドストーム、ウインドソード、エアハンマー、それから水魔法の下級と土魔法の下級しか習得できなくて……」

「え? なんですって?」

「今言った魔法しか習得できなかったんです」


 母アメリアは目を見開いて愕然とし、父ハワードは持っていたスプーンを落とし、長女エドウィーナはパンをかじったまま動きを止め、次女エリザベスは音を立てて立ち上がった。


「あなた、四種類魔法が使えるように……?」

「そうですよお母様。エリィはスクウェア魔法使いになりました」


 エイミーがどうだ! といわんばかりに胸を張った。大きい胸がこれでもかと強調される。


「エリィィィィィッ!」

「うおおおおおおおお!」

「エリィーーーーーー!」

「エリィーーーーーーーッ!」


 四人は急に立ち上がって俺に抱きついてきた。

 父はどこにそんな力があるのか、俺を抱きしめる妻と娘二人ごと持ち上げてぐるぐると回った。


「く、くるしいッ!」


 何か事件か、と食堂に飛び込んできた使用人達は、嬉しそうな俺たちを見て「どうしたんですか!?」とせき立てる。


 エイミーが事情を説明し、スクウェア魔法使いになったことを説明すると、一気に集まってきて、ぼろぼろ泣いて「ばんざぁぁい!!!!」と叫ぶ。


 しばらくして、ようやく父親から下ろされた。


「わたくしがどれほどエリィのことを心配したか…」

「俺は嬉しいぞ! 嬉しいぞ!」


 母と父が口々に言う。


 嬉しいときはすぐに飛びつく。

 これはクラリスやバリーだけではなく、ゴールデン家の家風のようだった。


 ワンピースが破られないようにガードしながら笑った。

 ゴールデン家の温かさに、なぜか涙が出てきた。


 日本に戻れず、異世界で女になったことで、さすがの俺も精神的に結構きていたのかもしれない。新しい家族の心地よさに身を任せながら、日本のことを思った。


 向こうに戻りたい。でもこっちの世界も、悪くない。



「お嬢様。明日からの魔物狩り演習合宿、ご活躍に期待しております!」


 使用人の歓声の中から、クラリスのそんな言葉が聞こえたような気がした。

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