第19話 特訓とイケメンエリート②
三人を正座させ、大人の癖に何しているのかと説教した。
上半身裸で三段腹の少女が、オバハンメイドと強面料理人、伝説級美女を正座させて叱りつけている様は、端から見れば意味不明な光景だろう。
三人とも興奮しすぎたことに反省し、ようやく特訓を開始することになった。
ほんと勘弁してくれ。この手のギャグはいらねえよまじで。
デブの裸を見て誰が得するんだよ。
「エリィは本当に上位魔法が使えないの?」
「そうなの。そういう事例ってあるの?」
「聞いたことがないなぁ。複合魔法は、必ず上位魔法を組み合わせないと発現しないよ」
「姉様はできる?」
「できないよ。上位魔法は“木”しかできないから」
「じゃあ今の私の状態で雷魔法が使えるのって……」
「はっきり言うと、異常だよね」
エイミーは割とひどいことをにこやかな笑顔で言った。
「でもエリィは天才だから」
そしてさらりと問題を回避した。
いやそこは原因追及しようぜ。
「とりあえず、魔力を練ることからやろうよ。エリィってあまり魔力操作が上手くないでしょう?」
「うん」
エイミーは杖を出して魔法を唱えようとしたが、ぴたっと動きを止めた。
「そういえば……さっき杖なしで魔法使ったよね?」
「ええっと……そうだけど………」
「エリィ!!」
がばっと抱きついてエイミーは俺の頭を撫でた。替えのワンピースまで破られたら洒落にならないので、飛びつこうとしているクラリスとバリーをたしなめるように睨んでおく。
「お嬢様は天才でございますからね」
クラリスはエイミーに言った。
「クラリス、ちょっとあなたの杖貸してくれない?」
「もちろんですお嬢様!」
試しにクラリスの杖で
杖で指したあたりに、
「杖だとやりにくい」
「ええっ! そうなの?」
エイミーが驚きの声を上げる。
杖を持っていると、勝手に魔力が杖へと引っ張られていくのだ。地味に制御しづらかった。杖なしでやったほうがよっぽど効率がいい。
おそらく杖は魔法を発動させる補助の役割をしているみたいだ。使い慣れると、これなしで魔法を使うことが難しくなるのではないだろうか。オートマに慣れるとマニュアルの運転が下手になる、そんな感じだろう。
次にエイミーから教えてもらったのが魔力循環の練習だ。
まず力を抜いて立つ。
へその辺りに魔力を集中させて体内で循環させるイメージ。
高速回転させ、ゆっくり回転させ、何度も繰り返す。
十分もやると汗が吹き出てきた。
これダイエットにいいかもしれん!
「私は毎日やってるよ」
「姉様は美人で努力家でえらいなあ」
「エリィ、恥ずかしいこと言わないで。エリィのほうが可愛いんだから」
「ないない。姉様それはない」
エイミーと話し合ってしばらく学校を休んで特訓することにした。
スカーレットの顔を見ると怒りで
○
それから一週間、朝から晩飯の時間までみっちりエイミーと練習した。
魔力循環の練習。
エイミーと模擬戦。
さらに元冒険者であったバリーと、魔法を使わない相手との戦いを想定した模擬戦。
日に日に強くなっていく自分がわかるので楽しい。
ジムに通って自分の体がでかくなっていくのと同じだな。
この強くなっていく感覚はやり出したら止まらない。
魔法について色々とわかったことがある。
基礎魔法が使えるようになれば、あとは応用で自由が利く、ということだ。
例えば風の中級基礎魔法「ウインドブレイク」は突風と小さな風の刃を作り出し相手を攻撃する。「ウインドブレイク」を薄く細くすると、「ウインドカッター」になる。イメージすればカッターの形を半月型にしたり、円形で飛ばすこともできる。
風の上級基礎魔法「ウインドストーム」はつむじ風と中ぐらいの刃を作り出し相手を攻撃する。「ウインドストーム」を薄く細くすると「ウインドソード」になる。「ウインドカッター」よりも強力な切断力で、岩をも両断する。
不思議なのは、どれだけ「ウインドカッター」に魔力を注いでも「ウインドソード」にはならないことだ。魔力を注げない、という表現が正しいかもしれない。茶碗に入れられる米の量が決まっているのと同じだろう。魔法によって器があり、魔力を注げる量が決まっているようだ。
新しい基礎魔法を憶えるには魔法の詠唱が必要だ。
とりあえず片っ端から詠唱してみた。
「光」上級
「風」上級
「土」初級
「水」初級
「土」「水」を習得できた。
残念なことに「闇」と「火」ができなかった。もっと修練を積めば誰でも初級ぐらいまではできるようになる、とエイミーは言っていたが、彼女も天才の部類に入るようだからあまりその言葉は信用していない。
それを言ったら泣きそうになっていたので、可愛い姉をいじめるのはそこそこにしておこう。
○
「姉様、学校をこんなに休んで大丈夫なの?」
魔力循環の練習のあと、汗をクラリスに拭いてもらいながら聞いた。
特訓は十日目に突入している。さすがにまずいんじゃないかと思った。
「六年生は自由研究だから平気。それに卒業資格はもうあるしね」
「上位魔法ができればいつでも卒業できるんだよね?」
「そうそう」
「どれくらいできる人がいるの?」
「うーん六年生の中だと十分の一ぐらいかな」
「やっぱり姉様はすごいね。あと可愛いし美人だし優しいし」
「だからエリィってばからかわないでよぉ」
顔を赤くして、ぽかりと俺の腕を叩くエイミーは、それはもうとてつもなく可愛い。
「考えたんだけど、エリィは雷魔法が使えるんだから上位の白魔法と空魔法ができる下地はあると思うんだよね」
「うーん試したけどできなかったよ?」
昨日、すんげえ小っ恥ずかしい詠唱をしてみたものの、「白」と「空」は習得できなかった。雷魔法を使ったときの魔力の暴走みたいな熱さを感じたが、あと一歩、コツがつかめない。何度か試して魔力切れを起こし、ぶっ倒れそうになった。魔法は失敗すると魔力のロストが激しい。
「私のイメージだと、土魔法を体内で循環させて、木魔法に変換する感じだよ」
「そのときどれくらい魔力を使うの?」
「なんていうんだろう、いっぱい? たくさん? 木が私の中で生えてくる感覚。こう、中を突き抜けていく感じかな」
今の表現がちょっとエロいと思った自分は健全な男子だと思います。
「光魔法も同じような感覚なのかな」
「習得したくて聞いてみたけど、みんな言うことがバラバラなんだよね」
「感覚に個人差があるってことか…」
「そうなんだよねぇ」
「光魔法ができたら便利だよね」
「私ができていればエリィに教えてあげられたのに」
エイミーは悔しそうな顔して俯いた。
「ううん姉様。私が憶えて教えてあげるわ」
「そうだね。そうなったら嬉しいな」
「あら、ありがとうクラリス」
クラリスがぬるめのハーブティーを俺とエイミーに出してくれる。
そろそろお昼の時間だ。
クラリスが作った即席の野外テーブルの席に着き、ノートに書いた魔法を確認した。
――――――――――――――――――――――――
炎
白 | 木
\ 火 /
光 土
○
風 闇
/ 水 \
空 | 黒
氷
習得した魔法
下位魔法・「光」
下級・「ライト」
中級・「ライトアロー」
「
「
上級・「ライトニング」
「
下位魔法・「風」
下級・「ウインド」
中級・「ウインドブレイク」
「ウインドカッター」
上級・「ウインドストーム」
「ウインドソード」
「エアハンマー」
下位魔法・「水」
下級・「ウォーター」
下位魔法・「土」
下級・「サンド」
複合魔法・「雷」
――――――――――――――――――――――――
いやーめっちゃ憶えた。
結構凝り性なところあるんだよな。
近づいてきた奴は空気の拳、エアハンマーで遠くへ吹っ飛ばす。
距離を取ってウインドカッターとウインドソードで切り刻む。
傷ついたら光魔法で回復する。
今のところ誰かに襲われたらこんな感じで戦う予定だ。
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