データ:ローラのメモ
前回は姉さまのメモだったけど、今回は私が書いてみるね!
〈第五章〉第一話より、ガルム。
いわゆる、魚醤のこと。魚の内臓を細切れにし、塩水に漬けて発酵させて作るの。完成品はまろやかで繊細な風味だけど、発酵中はひどい臭いがするんだよ……。
ちなみに、兄さまは細心の注意を払って、一週間に一度、香草を入れて風味を調整していたよ。兄さまはえじぷと? いたりあ? とかで教わったとか。
〈第五章〉第三話より、トロールとゴーレム
新しく召喚した仲間たちだね。トロールは兄さまの世界では北欧の方に伝わっていたみたい。そこでは、毛むくじゃらで悪意のある存在らしいけど、この世界ではそんなことはなくて、背の高くて気の優しい妖精さん。で、とっても力持ち。
あまり殺し合いとかが好きではないから、武器の使い方はあまり得意ではないの。ヤシの実が大好物だって。
ゴーレムは、石の巨人。石くれでできていて、頭か胸、どちらかに核が存在するの。地中の浅いところなら潜って移動できて、そこにある鉄とかも拾ってくれるよ。(ただし、移動しているときは明らかに土が波打つからバレやすいんだ……)
その二つの種族、どちらも寡黙だけど、心優しい仲間たちだよ。
〈第五章〉第七話より、エルフ
魔物の種族の一つで、森に生きる精霊の一種だよ。美男美女揃いだから、人さらいに狙われる一面もある。だから、彼らは少し苦労していたんだね……。
ただし、木々のことに熟知していて、農作などはお手の物。頼りになるね!
ちなみに、兄さまの世界だと、北欧神話に出てくる妖精で、いろんな伝承があるみたい……兄さま曰く、アニミズム的な、自然の象徴? らしいんだって。
〈第五章〉第九話より、ドウェルグ
魔物の種族の一つで、地中に生きる精霊の一種だよ。小柄で角を生やしているのが特徴。鉄の扱いに慣れている、寡黙な職人気質の人々。
兄さまの世界の北欧神話だと、ドウェルグは『黒いエルフ』と呼ばれていたらしいよ。あと、ドウェルグ=ドワーフという考えがあるみたいだけど、この世界では全くの別物。むしろ、そんなことを彼らやエルフに言ったら、怒られるから気をつけないとね!
〈第五章〉第十話より、たたら場
いわゆる、鍛冶場のことだね。長い煙突とふいごを使うことで、窯の中が白熱するくらいまでに温度をあげられるんだよ。
中の構造については兄さまもよく知らなくて、鋳鉄の製法もよく知らないんだって(というか、作者の知識不足なんだよねぇ……)
だから、基本的に運営はシエラ任せ。彼女が感覚で必要な成分を加えて、火の中で馴染ませる。そうすることで、純度の高い鋳鉄を作れるんだとか。
〈第五章〉第十四話より、フェイ
姉さま曰く、精霊族の女狐……じゃなくて、こほん(咳払い)
魔物の中でも、完全に人間に擬態する能力を持った妖精だよ。その姿は、絶世の美女。小麦肌の美人さんもいれば、色白儚げな乙女さんまで。
ただし、それ以外は取り柄はない。断言していいほど。
せいぜい、普通の人間より身体能力が心なしか上、くらいだけど。
ちなみに、人間たちが何故、彼女を探知できないかは謎に包まれているの。私たちは察することはできるのだけど……。
カイト様は、若干だけど、薄々感づいてはいるみたい。さいぼーがく? についてヒカリさんと話していたから。だから、きっと今後明らかになっていくのかな?
〈第六章〉第三話より、トロイ計画
兄さまのいた世界の古代の戦術、トロイの木馬、から引用したって。
ギリシア軍がトロイア軍を攻めていたけど、城が頑強で力押しではとても叶わない。その中で、オデュッセウスが人を入れた木馬を作り、それを敵城の中に運び込ませることを提案したの。ギリシア軍はその策を採用。敢えて撤退を装い、その木馬を置いて逃げた。
トロイア軍は何も知らずにその木馬を城の中に運び込む。寝静まった頃に、中にいたギリシア軍は飛び出し、暴れまわって形勢逆転してトロイアを滅ぼしたとか。
つまり、木馬をトロイア軍に自陣へ持ち帰らせたように、美女であるフェイたちを冒険者たちに自陣へ持ち帰らせよう、という計画なんだね。
その計画は的中し、彼女たちはグランノールの中に潜入できた、ってわけ。
〈第六章〉第十二話より、釣り野伏せ
兄さまのいた世界の中世の戦術――伏兵の作戦だって。
島津義弘が考案した戦術で、敗走を装うことで相手の油断を誘い、兵を引っ張り出し、突出した兵を伏兵で呑みこむ、という罠。あくどいよねぇ……。
ちなみに、言うのは簡単だけど、統制を取った状態で撤退するのはすごく難しいらしいよ。そりゃそうだよね、一歩間違えれば死んじゃうから。それに、慌てて逃げる様子も演出しないといけないし……。
これを成功させている島津って国は、とても精強な兵士ばかりだったんだね。
前の姉さまのメモでも書いてあった、泗川の戦いでも、これは使われていたよ。
〈第六章〉第十三話より、ヴァンパイア
魔物の種族の一つで、血を糧に生きる妖霊の一種だよ。精霊は昼にいるけど、妖霊は夜に生きる種族。あまり両者は仲良くないかな。
(だから、もしかしたら、ヘカテがあんなぐうたらしているのは、ちょろちょろ動き回ると逆にみんなの迷惑になる、って分かっているからなのかも……)
ちなみに、すごく長生きで、普通に暮らしている分には、不老不死、といっても過言ではないかな。
ただ、その分、弱点も多くて、銀や薬草が苦手。あと、食料でも命を繋げるけど、定期的に吸血しないと本来の力を発揮できず、不死の力も保つことができないの。
(だから、あんな連中にヘカテは捕まっていたんだね)
ただ、吸血して力を得た彼女は、本当に強い。身体能力は私たち火竜に匹敵し、血液を操り、武器にすることもできる。必殺の光線は、血液を熱に変えて打ち出す、文字通り、命を燃やす一撃なんだよ。火力は、ドラゴンブレスに劣るけどね。
〈第七章〉第三話より、半人半魔
私や姉さまは、時々、身体の一部を変身させるよね。それを限界まで引き出した状態のことを、半人半魔。
人の身体を保ちつつ、魔の力を全力で出せる状態で、瞬間的出力は本来の姿に匹敵――ううん、もしかしたらそれよりも強くなるかも。
私たちが本来の姿になってしまうと、身体も大きくなって動きにくくなるから、ダンジョン戦ではこの戦い方が一番なの。持続時間は、およそ、レベルの二倍くらい。つまり、レベルが30なら、60分くらいだね。
ちなみに、ヘカテに関しては、どれだけ血をストックしているかで時間が変わるかな。半人半魔になると、大人の身体になるの。ずるいよねぇ、私も大人の姿になれれば、兄さまを誘惑できるのに。
〈第七章〉第十話より、魔導鏡
ポイントで作った道具。実は5000ポイントもつぎ込んでいるんだよ。
ただ、その性能は折り紙付きで、ピントを合わせれば透視が可能。他にも赤外線で熱源を探知したり、望遠機能があったりの優れもの。
これ一つあれば、兄さまのお風呂も覗き放題……って、姉さまが言っていたよっ! 私はそんなこと考えていないからね!
〈第八章〉第七話より、水攻め
兄さまが言うには、本当は敵陣にやるべきものらしいのだけど。
たとえば、敵のお城を堤防で囲み、その中に一気に水を流し込む。そうすることで、敵を水の中で孤立して補給線を潰し、また要衝を沈めることができる。
堤防を作るのには手間や暇もかかる。だけど、その分、援軍や補給も潰すことができる作戦だね。有名なのは、秀吉の中国攻め? だって。
火計といい、水攻めといい、よく兄さまは思いつくよねぇ……。
〈第八章〉第十二話より、シエラ銃改
前のシエラ銃は、
弾丸は丸い鉛玉、火薬と弾丸も銃口から突っ込む、
で、シエラはこれをどう改良したか、というと。
まずは銃弾を、どんぐりみたいな形にした。さらに、
もちろん、威力も段違い。前までは着弾すると、打撃の衝撃が強かったのだけど、貫通性も上がったことで……まぁ、死体は見るに見れない状態になったね。
(兄さまの世界では、南北戦争で使用されて、被弾した兵士は手足切断の銃創を負ったらしいよ……)
さらに、銃の後ろから弾丸を入れる構造――
(ただ、火薬が炸裂したときのガス圧が逃げないように加工するのに、シエラはすごく工夫していたよ……)
これで発射速度は従来の五倍。四秒に一発撃てるようになったんだ。
射程距離も四百歩。多少の狙撃も可能になった。
だけど、まだ着火方式が火打石だから、精密狙撃は難しい。冒険者を狙撃できたのは、シエラしかできない離れ業だったんだよ。
参考にしたのは、ミニエー銃とドライゼ銃だよっ。
〈第八章〉第十四話より、エリコーピテロ
うーん、これは実物を見ないと分からないんじゃないかな?
一応、メモで残しておくけど……要するに、兄さまが習得した、カポエイラの技の一つ。側転をしながら、足を旋回させて蹴るの。
全体重に、遠心力を加えた蹴りになるから、一応、体術最強の蹴りの一つとか言われているみたい。
姉さまは逆立ちからのキックだったけど、兄さまは壁を蹴って三角跳びしながらとか、バック転しながらできるよ。兄さま、本当に人間?
あ、でも、最近少し思うのだけど、兄さまの身体能力、上がっていると思うの。
私を探しに岩山を登ってきたけど、あの岩山、プロのクライマーでもないと登れないと思うの。それを易々と登っているし、最近は姉さまや私の本気の打撃を片手で受け止めるくらいの力があるの。
兄さまが強いのか格好いいのだけど……なんだろう、よく分からないけど。
私たち、火竜に匂いが似てきているような……?
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