第6話
同刻、鬱蒼と茂る森を進む一行がいた。
言わずと知れた、冒険者たち。だが、一見して、普通の冒険者たちとは異なる。まとう雰囲気はぴりり、と引き締まっており、動きも無駄がない。
その威圧感に魔物はおろか、獣たちすら敬遠するほどだ。
それが勇者のパーティー――ウィリアム・ベルザックの仲間たちだ。
「……っ!」
ぴくり、と一人の仲間が足を止めたのを見て、全員が足を止める。中心に立つ、ウィリアムはその仲間――女魔術師に声を掛ける。
「クレア……入ったのか?」
「はい。ここからすでに、ダンジョンの領域です」
はっきりと女魔術師のクレアは断言する。ん、とウィリアムは頷く。
彼女の実力はB級。治癒や探索における魔術の腕前はこのパーティーに右に出るものはいない。ダンジョンまで真っ直ぐに向かって来られたのも、彼女のおかげだ。
ウィリアムは疑うことなく、前に進み出て低い声で告げる。
「戦闘陣形だ。クレアは後ろに。リーグ、俺の隣は頼んだぞ」
「あいあいさ、お任せあれ」
おどけるように言いながら、冒険者の間からふざけた調子の青年が出てくる。その手に握られているのは、巨大な盾だ。ウィリアムの胴体ですらすっぽり隠すような盾。それを彼は軽々と持ち上げ、ウィリアムの隣に並ぶ。
二人は頷き合い、前衛を努めて歩き出す。慎重に進んでいく中、ウィリアムは鋭く告げる。
「ゲルダ、罠の気配には気をつけろ。リーン、レックスも気は抜くなよ」
「了解」
五人の仲間たちがすぐに応える。ウィリアムは口角を吊り上げると、慎重に前へと進んでいく。ふと、その中で隣のリーグが眉を吊り上げる。
「……ウィル、前に何かあるぞ。人工物だ」
「……あれは、柵……と、建物? ゲルダ、クレア、罠の気配は?」
「家の裏手に、何か気配はするね。けど、目の前にはない」
「奥の方に、魔物の反応があります。獣人……いえ、エルフ……?」
身軽な軽装の女性と、女魔術師が答える。それに眉を寄せながら、ウィリアムは進んでいく。やがて、その家が立ち並ぶ一帯へ足を踏み入れる。
そこに広がった光景に、全員は一瞬だけ言葉を失った。
「ここは……村?」
あるいは、集落。そのような光景が広がっていた。のどかに広がる家々と奥の方には畑や広場も見える。穏やかな風景に面食らっていると、不意に澄んだ声が響き渡った。
「その通り、ここは、私たちの村だ」
一斉に視線を奥の方に向ける。奥の建物の一つに、一人の女性が立っていた。
金髪のエルフ。その手には弓がある。目尻を吊り上げ、気の強そうな声で続ける。
「招かれざる客人だな。友人を害する者は、許さない。立ち去るといい」
「ほう? なるほど、ダンジョンに住んでいるのか、貴様は」
ウィリアムが訊ねると、そのエルフは口角を吊り上げて頷く。
「いかにも。ここのマスターに慈悲をいただき、住まわせていただいている。ここは、魔物と共存する村――平穏を乱すのなら、容赦はしない」
「俺も不本意だが……一応、仕事でね。ダンジョンを潰せれば、余計な命は取らないつもりだ。ここは、退いてくれないか? エルフよ」
「残念だが、ダンジョンを潰されるとあっては、黙っていられないな」
その声と共に、エルフは手を挙げる。それを合図に、建物の屋根から気配。
屋根の上を軽やかに移動する人影が無数にある。それらが、勇者たちの周りの建物に配置。その気配に、仲間たちは身構えた。
ウィリアムは深くため息をつき、首を振る。
「残念だ――みんな、仕事の時間だ」
「させると、思うかッ!」
エルフがその声と共に、弓に矢をつがえ、中空に放つ。その鏑矢が駆けた瞬間、甲高い音が空に響き渡る。それを合図に、周囲の建物の屋根で、エルフたちが立ちあがった。
その手に握られているのは、銃――。
「リーグッ!」
「おうッ!」
瞬間、ウィリアムとリーグ、前衛の二人が弾かれたように動いた。左右に分かれ、仲間たちの守るように盾を構える。同時に、魔力が迸り、全員を守るように膜が発生。
直後、左右の建物から銃声が一斉に迸った。集中した弾雨が、勇者たちに襲い掛かる。
だが、その弾丸は一発たりとも、勇者に届かない。
結界が全てを受け止める。それを確認した一人の着物の弓手が立ち上がり、矢を構え――。
ちっ、と短く舌打ちする。
「くそ、逃げ足の速い……全員、離脱しやがった」
視線を上げれば、すでに屋根には人影がない。どうやら、銃を撃つと同時に逃げを打ったらしい。まだ張り巡らせている結界の表面には、丸い弾丸が浮かんでいる。
それを全て受け止めた二人の魔術師――クレアとレックスは一息ついた。
「旧式のマスケット銃ですね。レックス師匠」
「この程度なら余裕――まあ、現行の銃でも、私たちなら耐えられますが」
「いずれにせよ、奇襲を防げた。あいつらは、今、どこにいる? クレア」
「……地下に、逃れたようです。ゲルダ、どう見ますか」
「この下に、地下階層があるみたいだね……ふぅん、五階層。あまり、魔物はいないみたいだね。毒の反応は……なし」
ゲルダは地面に触れ、微かに鼻を動かして目を細める。その様子を見て、うむ、とウィリアムは重々しく頷いて全員を振り返る。
「問題なさそうだ……ダンジョンの攻略を、始めるぞ」
そして、全員の士気を確かめるように、ウィリアムは一人一人を見る。
巨大な盾で、どんな攻撃も弾き返す剛力鉄壁のタンク役、リーグ。
軽快な動きと共に、剛弓はどんな障害も貫き通す弓手、リーン。
手先の器用さ、道具、五感を駆使して援護するシーフ、ゲルダ。
主に攻撃を司る、爆発的な火力の持ち主の青年魔術師、レックス。
防御や治癒を司り、全員を敵の攻撃から守る女魔術師、クレア。
五人の、勇者の仲間たち。その全員がやる気に満ちている。それに口角を吊り上げると、そのリーダーであるウィリアムは背から大剣を抜いた。
「では、カチ込むぞ」
「入り口はあっち、だけど?」
ゲルダは首を傾げる。だが、ウィリアムは首を振り、豪快に地面に刃を突き刺し。
「ここから、ぶち抜いてやる」
紫電を、迸らせた。
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