第2話

 ローラは少しだけ拍子抜けしていた。

 フェイの召喚。一人あたり9000ポイント、つまり総額で27000ポイントを支払い、カイトは三人の美少女を呼び寄せた。

 カイトも、男だ。木石ではない。その上、召喚された美少女たちは誰もが奮い立つような美貌の持ち主なのだ。少し、カイトも色気を出すのではないかと思った。

 だが、彼は必要最低限な聞き取りと、役割について簡単に話すと、すぐに彼女たちをヒカリの管理下においたのだ。それ以降は、至っていつも通りだ。

 そんな主にほっとする一方で、少しだけ申し訳ない気がしてしまう。

(もしかしたら――私たちに遠慮して、我慢しているのかな……)


 結論から言うと、そんなことは全くなかった。


「ローラは、いつも自分のことを卑下するな……全く」

「う……ごめんなさい」

 夜のゆったりとした時間――その穏やかさとは裏腹に、ベッドの上は一戦交えた後のように、ぐちゃぐちゃに乱れていた。

 そこで寝そべる二人は肌に何もつけていない。身体にかかった一枚の布だけが、彼らの身体を覆い隠している。カイトは逞しい腕を彼女の枕にし、ローラの髪を撫でつけながら目を細める。

「どんな美女でも、食指は動かないな。フィアとローラのことが、一番に好きだから。まだ信じられないなら、また骨の髄まで思い知らせるけど?」

「だい、じょうぶです……というか、これ以上、されたら腰が立たないよ」

「……そういうローラも、見てみたいな」

「うう、兄さまはベッドの上だと肉食だ」

 いつも大人しい顔をしているカイト。仕方なさそうに笑いながら、ローラたちの我がままを許してくれるが、閨の中では一段と激しい。

 むしろ、ローラを可愛がるように虐めて、楽しんでいる気配すら感じる。

 さっきも、敏感なところの周りをじりじりと焦らすように指先で可愛がり、思わず声を上げてしまうローラの顔をじっと優しく見つめている。

 だけど、その目は明らかに熱が滾っていて、食い入るようにカイトが見つめてきて、その視線だけでも背筋にぞくぞくと刺激が走る――そんな、甘美な時間だった。

 そのおかげで、今はローラの身体はぐったりとしている。上気した肌。膨らんだ胸を呼吸で上下させながら、軽く咳き込む。

「おっと、大丈夫か?」

「……兄さまが、激しいから」

「悪い、悪い――ほら、水」

「ん……」

 気づけば、ローラの顎に手が添えられていた。覆いかぶさるように、ローラの唇にカイトが優しく口づける。その合間から、冷たい水が入り込んでいく。

 少し驚きながらも、それをゆっくりと受け止めて飲み干す。喉に浸み込み、体内へと入り込んでくる。喉を通っている水は冷たいはずなのに、熱く感じる。

 唇を離すと、こぼれた水がローラの頬を伝う。思わず視線を逸らし、小さく言う。

「――兄さま、大胆」

「嫌いか?」

「……大好き」

「なら、よかった。これくらい、しっかり可愛がらないと、またローラが勝手に勘違いして、空回りしそうだからな」

「これは、これで勘違いしちゃうかも……」

 なんだか、彼のお姫様になったような気分だ。そんな存在であるはずもないのに。ローラは視線を戻すと、横で彼は目を細めながら髪を梳いてくれる。

 飽きもせずに指先でそっと。その指先が地肌をくすぐるたびに、心地よい刺激が背筋に流れる。甘くてとても優しい感覚。

「――姉さまにも、いつもこんなことを?」

「いや? フィアはもっと容赦ない。搾り取られる」

「え……兄さまの体力が追いつかないくらい?」

「ああ、最近やっと慣れてきたが、かなりしんどいぞ」

 彼は思い出したように、苦笑いをこぼす。その仕方なさそうな笑みに浮かんだ優しい目の色に、どきっとしてしまう。

「その点、ローラは乙女で助かるけど」

「兄さまが、ぐんぐんリードしてくれるからだけどね」

 少しだけ満足させられているかな、と不安になる。実務でも不安なのに、女として閨で満足させられなければ――。

 そう思った瞬間、彼のしなやかな腕がそっとローラを抱きしめた。目をぱちくりさせると、彼が顔を覗き込みながら低い声で訊ねる。

「また、変なことを考えたな? ローラ」

「え、いや、あの……」

「……もっと、可愛がらないと自信がつかないか?」

 彼の指先がそっと背中に回され、肩甲骨を撫で、背筋をそっと滑っていく。それだけで甘美な刺激がぞわぞわと駆け抜ける。その指先が尾てい骨に至る直前に、ローラは音を上げた。

「だ、大丈夫! 大丈夫だから……!」

 その指先で撫でられるだけで、どうにかなってしまいそうだった。狂おしいほどの刺激に身震いしていると、カイトは喉を鳴らすように笑みをこぼす。

「全く、ローラはいつもからかうくせに、からかわれ慣れてはいないんだな」

「わ、悪かったね……うう」

 でも、からかわれるのは悪くない気分だった。なんだか、自分の胸が満たされていくような感覚。ローラはそっと甘えるように胸板に頬をつける。

 とくん、とくんと鳴り響く鼓動。穏やかで、心地がいい。

 カイトは優しくそれを抱き留めながら、水差しに手を伸ばした。それを口に運び、彼は一息に水分を補給する。ふと、見上げればその喉仏の動きがよく分かる。

 ごく、ごくとなまめかしく動く、彼の喉。ほのかな灯りでそれが浮き彫りになり、まるで誘うように蠢いている。それを見ているうち、自分の口の中も乾いてくる。今すぐ、水が欲しい。彼の、水が。

「にい、さま……」

 はしたない、そう思いながらも止まらない。ローラがねだるように彼の腕に手を添える。それだけですぐ分かったのだろう、目を細めてカイトが顔を近づけてくれる。

 逞しい手が、ローラの頭に添えられる。彼に包まれるように、唇が合わさった。

 水が、口の中に入り込んでくる。喉を鳴らすたびに、熱くてとろけそうになる。

(――もっと)

 口の中の水がなくなっても、ローラは無意識に水を求めていた。唇の合間をこじ開けるように舌を動かす。そのまま、カイトの口の中を舌先で探る。

 その舌を、カイトの舌が迎えるように絡みついてきた。ざらりとした感触が走るたびに、頭に刺激が迸る。カイトはそのまま、舌を吸い上げながら舌先を擦り合わせる。その甘美な衝撃に、頭が真っ白になった。

 一瞬だけ身をこわばらせる。それを落ち着かせるように、そっとカイトの手が背中を撫でてくれた。やがて、その衝撃は収まる――だけど、胸の疼きは止まらない。

 救いを求めるように、ローラはカイトを見上げる。その優しい目つきに、静かな熱が灯るのが分かった。ああ、とローラは小さく吐息をつく。

(滅茶苦茶にされてしまう――どこまでも、兄さまの色に……)

 それの期待を我慢することができない。喘ぐように、ローラはつぶやく。

「兄さま、もっと――」

「ああ、もちろん」

 愛しい人の指先が、身体に触れる。それだけで身体の隅々まで電流が迸るようで、身が震える。その刺激に身を委ねながら、ローラは恍惚と吐息をこぼした。

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