第6話

『侵入者を検知しました』

『うん、丁度予想通りの時間だったね』

 洞窟前のスペース。そこで、ダンジョンのメンバー全員が集っていた。

 フィア、ローラ、エステル。それにキキーモラが十五人。全員が緊張した面持ちだ。カイトはそれを見渡しながら、コモドに繋いだウィンドウを見る。

「ありがとう。コモド――いろいろと、助けられた」

『礼は、撃退してから言ってくれ……大丈夫なんだろうね?』

「ああ、罠をしっかり仕掛けている。このウィンドウを通じて、見ていて欲しい。それに、万が一のことがあれば、フィアがボスとして待ち構えてくれる」

『――火竜でも、百人以上の騎士たちを押しとどめられるか分からないけど……頑張って欲しい。今、百三十人が徐々に来ている』

 コモドの真剣な表情に、カイトはしっかり頷き返した。

 そして、ダンジョンのメンバーたちを見て告げる。

「じゃあ、再確認する――エステルは、キキーモラ隊を率いて行動。何度も言っているが、命の安全が最優先。キキたちも、一人たりとも欠けないようにな」

 しゃがんで目を合わせて言い聞かせると、キキ――カイトによく懐いているキキーモラはしっかりと敬礼を返してくれた。

 頷き返すと、エステルに視線を注いだ。彼女は淡々とした声で言う。

「作戦は、承知しております。言われた通りに、行えばよいのですね」

「ああ、ぶっつけ本番だが、見てもらえば分かるはずだ。むしろ、エステルたちは巻き込まれないように気をつけて、攻撃を終えたら速やかに地下貯蔵庫に逃げてくれ。巻き込まれるほど、派手な攻撃になる」

「……にわかには信じられませんが、了解、しました」

 彼女はいつもの小声で告げると、わずかに迷うように視線を彷徨わせてから付け足す。

「ご武運を、祈っております。ご主人様」

 エステルがキキーモラたちを引きつれて、ジャングルの中へと散っていく。それを見届けてから、フィアとローラを振り返った。

「僕たちは洞窟の中――新たに作った二階層で、迎撃になる。そこまで侵入を許せば、二人には初めてのボス戦になる。そのときは、すまないけど、頼んだよ」

「それは、もちろんです」

「むしろ、そのために私たちはいるからね!」

 フィアとローラは士気を高めて頷いてくれる。それを見てカイトは頷き返すと、最後に洞窟の入り口の仕掛けを確かめる。

(最初に作った罠――いざというときに、洞窟を封鎖するときのものだが……)

 まさか、これを使う羽目になるとは、とカイトは苦笑いを浮かべた。

「――問題なく、動くはずだ。じゃあ、二人とも中に――ああ、それと」

 カイトは洞窟の中を眺めて、少しだけ口角を吊り上げた。


「お出迎えの、暖房を入れないとな」


 カイトが行動を開始した頃――すでに、騎士たちは速やかに森の中へと侵入していた。

 その数は、百三十人。前衛、中衛、後衛に分かれてゆっくりと進軍を進んでいく。その足取りは限りなく遅いが、それでも確かに進んでいた。

 エステルは、それを遠くの木からじっと見つめ、わずかに焦れていた。

(――さすがに、あの規模で、泥には手間取らない……)

 騎士たちが行っているのは確実な対処方法だった。周りの木々を斬り拓き、それを足場にしていく。二十人が作業している間に、二十人が警戒しているので、付け入る暇がない。

 それに、中衛がすでにこちらに感づいており、警戒をしているのだ。

(これだと、迂闊に近づけない……)

 吐息をつきながら、手にした弓矢を握る。それは、カイトが作ってくれたものだ。それで手柄を立てようと思ったが――思ったよりも、敵が手ごわい。

 ふと、傍にいるキキーモラが、士気のままに視線で何かを訴えてくる。

 それを見つめ、制するようにゆっくりと告げる。

「いけ、ません――特攻しても、ご主人様は、よろこびません」

 エステルの言葉に、だけど、と言いたげにキキーモラはぴょんぴょんと飛び跳ねた。その身体はそわそわとして心配しているようだ。

 エステルの内心も、穏やかではない。このままだと、泥濘地帯はすぐに突破されてしまう。そうなれば、洞窟に到達――洞窟の中は、入り口を封鎖する罠が一つだけ。

 それだけで、百三十人の敵を食い止められるとは、到底思えない。

 だが、その焦りを押し殺し――余裕たっぷりを繕って告げる。

「大丈夫、です……ご主人様、なら……きっと、何とかします」

 エステルは脳裏に、カイトの笑顔を思い浮かべる。

 ちょっと緩んだような、だけど励ましてくれるような力強い笑顔。

 それを思い起こすだけで――心が落ち着いてくる。

(大丈夫、言われた通りにやればいい……)

 そう思いながら、エステルは息を吸い込み、キキーモラたちに厳命した。

「待ち、ましょう――機は、必ず来ます」


 その視線の先で、騎士たちはすでに洞窟の前に到達しようとしていた。

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