第7話

 しばらくして平静を取り戻したフィアは、床でぺたんと座り込み、真新しい服に袖を通していた。

 それでもまだ恥ずかしいのか、頬を染めたまま、横目でローラを睨んでいる。

「――うぅ、ローラ……少し、気をつけて下さいよ」

「あはは、ごめんなさい。お姉さま……まさか、あんなボロボロを着ていると思っていなくて」

「一か月少々、あれを着回していたら、ぼろぼろになります……」

「それは、気が付かなかった、僕もミスだな……悪い」

「い、いえ、カイト様のせいではありません」

 ふるふると首を振り、フィアはこほんと咳払いをする。

「で――本題に戻りましょうか。カイト様」

「ああ、うん、何か疑問でもあるのかな」

「はい、確か、ポイントは4000ポイントしかなかったはずですが……」

 フィアがきょとんと首を傾げる。ああ、とカイトは納得して頷く。

「僕も疑問に思って聞いてみたんだ。そしたら、あのレート表は『人間の素材一つ』で1000ポイントなんだって」

「えっと、つまり……」

「生きて鹵獲した場合は、それに上乗せされるの」

 しかも、今回鹵獲した四人は、ほとんど無傷だったため、それが大きく査定に影響したのだという。

「あまり前例がないから、リストに載らないのだけど、無傷の人間の場合、2000ポイント前後の査定になる。それに、装備品の下取り価格と、あと、あの大柄の戦士が一応、賞金首だったらしい」

 一人当たり、2000ポイント。

 E級賞金首なので、1500ポイント上乗せ。

 装備下取りで、2000ポイント。

「で、コモドが初回サービスで色をつけてくれて――13000ポイント手に入ったんだ。それを惜しみなく、ローラに突っ込んで来ました」

「あはっ……ありがと……えっと、お兄さま、でいいかな?」

「ああ、構わないよ。気軽に呼んでくれ」

「やった! ありがとう、カイト兄様!」

 無邪気にローラはカイトに飛びついてくる。その頭を撫でてやると、彼女は目を細めて機嫌良さそうに笑み崩れる。

(――どうでもいいが、結構、大きいな、ローラの胸……)

 ふにゅん、と腕に包み込まれる感触が、えも知れない感覚である。

 カイトは旅する中で、女性と関係を持つこともあったが――この感覚は、初体験である。思わず表情を緩めると――こほん、とフィアは咳払いをした。

「ローラを連れて来てくれたことは、ありがとうございます。カイト様――ですけど、そうなると今のポイントは……」

「ええと、待ってくれ」

 ステータスを呼び出し、残高を確認する。

「……1860ポイントだな」

「……少ない、ですね。想像よりも」

 思わず、二人で唸り声をあげてしまった。

 内訳を考えるのは、難しくなかった。

「ローラの召喚に使ったのが11000ポイント。それで、フィアの服で200ポイント使ったからな。儲けから差し引くと、1800ポイント残ったわけだ」

 端数の60は、前回の残り分である。フィアは小さく吐息をついて自分の服を見る。

「それに……こんなにいい服をくれなくても、別の20ポイントくらいの服でいいですから」

「まあ、でも、いい素材で長く使って欲しいから」

 フィアに買い与えた服は、一言で言うのならば、セーラー服だった。

 開襟の白いシャツに、赤いスカーフ。紺色のスカートがひらひらと揺れ、可愛らしい。簡素な布の服を着ているローラは、羨ましそうにそれを見つめる。

「いいな、姉さま」

「今度、ローラにも作ってあげるから」

「本当っ? やったっ」

 ちなみに、指定したデザインで製作するのに、追加で100ポイント突っ込んでいるのは、二人には内緒である。

 カイトはセーラー服姿のフィアを見て、笑いかける。

「うん、よく似合っているよ。フィア」

「は、はい……ありがとうございます。ただ、残り1860ポイントだと……できることは限られてきますね……」

 車座になり、カイトとフィアでうーんと首を傾げる。ローラは少しだけ申し訳なさそうに肩身を狭めて、もじもじとする。

「その……私、もしかして迷惑だった?」

「いや、そんなことはないよ。ローラ。最初に比べれば、むしろ、ポイントには余裕がありますし」

「はい、大丈夫です。ローラ。カイト様なら、何とかしてくれます」

「ああ、何とかなるから安心してな」

 二人でローラの頭を撫でると、彼女は緩んだ笑みを浮かべる。その笑みを見ると、なんとなく庇護欲が湧いてくる。

(――妹とか娘って、こんな感じなんだろうな)

 目を細めて嬉しそうにするローラを見つめながら、カイトは微笑んで言う。

「ひとまず、二人のためにベッドは作るべきだな」

「それなら、まずはカイト様を優先すべきだと思いますが……」

「僕のなら、適当に作るし。二人はポイントで疲労回復効果があるものを……」

「わ、そんな無駄遣いはしないで下さい! カイト様!」

 フィアが慌ててカイトに詰め寄った。彼は苦笑いを浮かべて肩を竦める。

「別に無駄遣いじゃないと思うけど」

「そんなことありません! もっとカイト様は、ご自分を大事に――」

 言い合うカイトとフィア。それを見つめて、ローラはひっそりと吐息をつく。

(よかった――姉さまがあんなに楽しそうに)

 ローラは内心でもうすでにカイトに心を許しながら。

 二人のやり取りをじっと見つめて、これから訪れる楽しい生活に胸を高鳴らせていた。


〈ダンジョンデータ〉


 ダンジョンコアLv,1 → 2

 ポイント残高:1860


 フィア:Lv,1 → 3

 ローラ:Lv,1(New!)

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