第51話 双子の想いもまた


 王宮の謁見えっけんの間では魔法陣の中央に向かって白い光と風が小さな竜巻のように渦を巻いている。


 最後の収束を始めたそれは、魔王封印の魔術の終焉を示していた。


 フルヴラはただひたすらにその様子を見つめている。


 ——気を抜くな。最後まで……通り道が塞がれるまで……。


 それでいて、感覚が鋭くなっている彼の耳には周りの音が——会話が届いてくる。


「やれやれ、なんとかなりそうじゃのー。モリーちゃん?」


「そうね、おじいちゃん。そうそう、あの子達大丈夫かしら」


 どうやらモリーは壁にもたれたままの魔族の双子の元へ行ったみたいである。


「どれ、わしはあっちの様子を見に行こうかの」


 ジャロックはフリギットの元へ足を向けたらしい。そのフリギットは床に横たえたアナベルのそばにかがんでいた。


「……」


 どうやら声もなく彼女の死をいたむフリギットの背にジャロックが手を置いて慰めているようである。


 気配だけでそこまで感じ取っているフルヴラのそばに、モリーと双子がやって来た。


「大丈夫か?」


「……まぁね」

「……平気よ」


 フルヴラの前にいる双子はしょんぼりと項垂うなだれて、前よりも子どもらしく見えた。


「お前達、これからどうする? 魔界へ行くなら別の抜け道を教えてやるぞ」


 フルヴラの提案に、双子は首を横に振って拒否の意を示す。どうやら彼らは人の血を受け継いだ半人半妖の存在であるらしく、アナベルに出会うまで世界を放浪していたという。


 ——彼女を慕っていた、のだな。


「また、旅に出る」

「また、二人きり」


 そこまで話して双子はお互いの顔を見て頷き合う。フルヴラもまた了解の意を示して頷いた。


 と、そこへ——。


 消えかかった白い竜巻の中から、弱々しく羽ばたきながら一匹のアゲハ蝶が出てきた。


 見覚えのある青と黒の羽の——。


「あっ、ああっ!」

「あれ、あれは!」


 双子が小さな手を伸ばすと、アゲハ蝶は疲れた羽を休めるかのようにその手のひらにとまった。


「魔王様?」

「魔王様!」


「……アナベル殿か」


 双子はアゲハ蝶を護るように身を寄せ合う。そして上目遣いにフルヴラを見た。


「助けて勇者」

「元に戻して」


「待て待て。まず俺は勇者じゃない。それからこれがなんなのか俺にはよくわからん」


 フルヴラはそう言って蝶を指さす。


 すると双子は口々に「この蝶はアナベルの魂を飴玉にした時に閉じ込められた彼女の人格や記憶を具現化したもの」だと言う事を説明した。


「つまりこれはアナベル殿そのものというわけか。おい、そこのポータス家の青年」


 フルヴラはフリギットに声をかける。


此処ここにアナベル殿の分身がいるぞ」




 つづく




◆魔族の双子

人と魔族の混血。どちらの特性も受け継いでいるが、魔族の血が濃いため成長が遅い。魔界も人界もどちらの世界も長い間旅をして来たので、意外とそれぞれの世界に詳しい。

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