第41話 エルと双子の魔術


 アナベルのつぶやきに、フルヴラが興奮して前へ出た。


「何っ? 魔界だと⁈」


 一目見たいと魔法陣に近づくが、バチッと青い光が走り、フルヴラは魔法陣にに弾かれた。


「くそっ! よく見えん!」


 少年は見えない壁をバシンと叩く。が、振動に合わせて小さな稲妻に似た光が魔法陣を守る様に流れて行くばかりである。その様子を興味深いと思ったのか、エルは表情を変えぬまま、


「景色以外はさほど此方こなたと変わらん」


 とフルヴラに教えてくれる。そのままその小窓から緋い炎を呼び寄せると、双子の手に宿した。等の双子は熱くはないようだ。


 その傍らで、アナベルは足元から這い上がって来る怖気おぞけに身体を震わせて思わず自らの肩を抱いた。


「……エル、貴方あなた此処ここから来たのね?」


 見目の良い、少しドジな元魔王。


 その本性は眼下に広がる煉獄の如き魔界を統べる王。


 アナベルとエルの目が合った。


 宵闇の瞳に浮かぶ縦に伸びる三日月が銀色に鈍く光り、それを認めた刹那、アナベルの身体が動かなくなる。


「⁈」


「なに、苦しいのは束の間のことぞ」


 そう言うなりエルは右手をかざして大きく動かした。手の動きに合わせてアナベルの身体からぬるりと何かが引き抜かれる。


「なんだあれは⁈」


 透き通った桃色に輝く『何か』はそのままエルの動きに従って双子の手の中に落ちた。子どもの手に余る大きさなのに、見る間にそれは凝縮され、双子の手の中でぐるぐると回り出した。


「何これ⁈」

「何これ⁈」


 双子も驚いているが、術の途中ではそれ以上動けない。術が破綻すればその魔力は何処へ飛んでいくかわからない。下手すれば巻き込まれて命を落とす可能性もあるからだ。


 彼らの手の中で回り続けるそれはやがて一つのものを生み出した。


 回り続ける液体の様な中から一匹のアゲハ蝶がふわりと羽ばたいたのだった。




つづく




◆魔界の炎


 エルの敷いた魔法陣から眼下に覗く魔界。そこから取り寄せた魔界の炎で、エルはある魔術を行う。本来なら『ヨハネスの小鍋』でじっくりと作りたい所だが……。


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