第38話 人の魔術


 そう告げた時、目の前でアナベルの表情かおは見る間に悲しげに歪んだ。


「では……では、何故ここへ来たのです⁈ 何か方法があるから、ここへ来たのではないのですか⁈」


 血を吐くようなアナベルの叫びに、フルヴラも胸を痛めた。元に戻す方法は無いが、『魔王』を封印する魔術を持って来たとは言いにくい。


 封印はその言葉の通り、アナベルを封印する事になる。封じられた『魔のもの』はこの世に出づることの無い様に魔界へと送られ、封印が破られるか魔力が切れるかするまでこの人の世には出て来られない。


 今までこの世に現れた『魔王』はその時代に出現した『勇者』によって倒されか封印されるかして来たのだ。


「まったくアナベルの言う通りだね。君たちは何しに来たのさ?」


 崩れ落ちそうになるアナベルの肩をそっと抱いて、フリギットはフルヴラの前に出て来た。


 どこか明るい声音に、日に焼けた眩しい笑顔。


 ——この城に似つかわしく無い。


 フルヴラは我知らず眼を細めた。





「さて、人の魔術師が役に立たぬなら、我の秘技を使うか?」


 エルが立ち上がった。


 サラサラと流れる黒髪が妖しく輝き、白金色の角は満月の光を受けてさながら王冠の様に彼を彩った。


「俺は魔術師じゃない。探索者だ」


「さようか? 其方そなたの身体の中には強い魔力を感じるが……」


 そこへフリギットが割り込む。


「ようよう、この前のお前さんの策は駄目だったじゃないか。それとは別に何かあるってんなら、なんで今頃言い出すんだよ」


 その強い口調から、フルヴラはこの二人の男があまり仲が良く無い事を読み取る。あまりに正反対の属性を持つからだろう、と判断する。


 案の定、エルは不敵に笑った。


「人の魔法で片付くことならば、それが良かろうと思っていただけに過ぎぬ。のう、女魔王よ。其方そなたを人に戻すことは叶わぬが、其方の魂と魔力炉を切り離す方法はあるぞ」




 つづく




◆エルの奥の手

 手の打ちようがない様子だった元魔王・エルであったが、どうやらまだ何かあるらしい。そもそも魂と魔力炉は切り離せない物なのだが……?

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