第33話 ドミタナスの書
古い羊皮紙の表紙には金でできた紋章が嵌め込まれていた。始祖ドミタナスの紋章だ。この本には彼の魔術について記されている。
フルヴラは『シナゴグの杖』の先端を、その紋章の上にかざした。
途端に紋章をなぞるように青い光が走り、極小の稲妻を飛び散らかして本が開いた。
「うふう、本が開くのを初めて見た」
傍にいたジャロックが感嘆の声を漏らす。それはまたフルヴラも同様であるが、弟の手前涼しい顔して杖を操る。
淡い光の粒が杖の軌跡に沿って現れ、フルヴラがドミタナスの紋章を宙に描いているのがわかる。
やがて本のページがバラバラと音を立ててめくれ、目的のページて開いて止まった。
ジャロックも思わず身を乗り出して覗き込んだ。
「うわぁ、えらい読みにくい字だな」
「古い書体なだけだ。……ほぼ言い伝えと同じだな」
——必要なのはドミタナスの分たれた血筋の者三人。三本の杖。それから——。
「それから? なんだい、兄貴?」
「……なんでもない」
フルヴラは杖を振るうと、本を閉じた。そして何事も無かったように、
「さ、早く休もう。明日はやる事が沢山ある」
と、弟を促した。
ジャロックは重い体を「よっこらしょ」と動かしながら、寝室へ引き上げる。少しだけ目を動かしてフルヴラの姿を盗み見るが、無表情で何を考えているかわからない。
——なんて書いてあったんだ、兄貴?
不安を口にはせず、彼はそのまま部屋を出た。
「…………」
フルヴラはやや放心状態で椅子に腰を下ろした。
魔術書に記されていたのは、三人の術師と三本の杖。そして三人の魔力。
「まずい……あの二人では魔力が足りない——」
もしかして、とフルヴラは『魔力の暴走』を起こした杖を見つめながら考える。
——俺のこの魔力の多さは、二人を補う為のものなのか?
それならばそれで構わない。
フルヴラは杖を包み直すと、本を乱暴に閉じた。
つづく
◆魔力の譲渡
フルヴラが行おうとする魔法は他の二人も同程度の魔力を必要とする。魔力の譲渡が魔族以外にも出来るのなら、勝機はあるのだが……。
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