第32話 血族の証


「それぞれ杖を持ったな?」


 フルヴラはジャロックとモリーに『シナゴクの杖』を持たせると、細い銀の柄を持つように指示した。


「魔力を込めると、光を生む」


 フルヴラがそう言うと、彼の持つ杖の魔晶石が淡い光を強くした。


 続いてジャロック。


 彼の光は紫色のだ。

 光は強くない。


「光るだけマシかのう」


 老人は「ふーっ」とため息をついた。


「次はお前だ」


 目で促されて、モリーが慌てて目の前の杖に集中する。


 精神の宿る場所から生まれいづる力よ——。それは少女の心から生まれて腕を伝い、指先へと流れる。そして杖へと通じて——。


「光っ……た」


 淡い桃色の花びらのような優しい光が、ぽうっと灯る。


 その光を見て、ドミタナス兄弟は安堵のため息をついた。


「え? 何? なんでそんなに安心するの?」


「……『シナゴグの杖』はドミタナス家の血族——つまり、その昔に魔王を封じた始祖ドミタナスの血を引いていなければ、光らんのだ」


「なんで黙ってたのよ!」


「光らなかったら追い返すつもりだったのか」といきどおるモリーに、フルヴラは「そうだ」と短く答える。


「この杖に使われている魔晶石は元々一つの石だったと言われている。ドミタナスは三人の子等に石を割って杖を作り、後世の護りへと託したのだ。使えなければ、お前は必要ない」


「ムカつくぅ!」


 怒るモリーをジャロックがなだめる。


「まあまあ、そう怒らんでくれ。つまりモリーちゃんのうち——ホータス家はあたしらと遠い遠い親戚ってことさね」


「おじーちゃんとなら親戚でも良いけどさぁ、コイツとはヤダな」


 モリーは杖を置くと、さっきまでフルヴラの事を褒めていたのを忘れたように、ぷりぷり怒ったまま奥へと引っ込んでしまった。


 ジャロックは心配気にその背中を見送ると、フルヴラに向かって話しかける。


「……なんだってそんなにモリーちゃんに冷たくするのさ」


「そんなつもりはない。ただあのむすめは見てるとイライラするんだ」


「若返ったせいかねぇ? おっと、そんなんで怒るなら、歳上らしく落ち着いた振る舞いをしなよ」


「ちぇっ」


 フルヴラは弟の軽口に舌打ちをした。それからおもむろに『シナゴグの杖』を手にする。


 たいして魔力を注いでいるつもりは無いのに、メキメキと音を立てて結晶が生まれる。


 ——若い時の俺はこんなにも魔力に満ちていたのか。


 いや、違う。


 魔力は大きく分けて2種類ある。エネルギーとして人の身体に蓄積されている魔力と、精神の高さから生まれいづる魔力だ。


「俺には前の経験から来る魔力が残っているんだ」


 フルヴラはそう呟くと、杖の横に並べられた古い羊皮紙の本を開いた。




つづく




◆『シナゴグの杖』

 その昔に魔王を封印した魔導士ドミタナスの使った魔晶石を三つに割って作られた杖。使い手の魔力によって様々な色に輝く。

 魔王の封印にしか使えない。

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