第七部 ドミタナス一族

第31話 シナゴグの杖

「で、どうするの?」


 モリーは興味深そうにフルヴラの顔を覗き込んだ。覗き込まれた方はわずらわしそうにモリーを押しのける。


「何よ! ……ははあん、本当は魔王を倒す策なんて無いんでしょ?」


 その言葉に、カチンと来たフルヴラは、


「ある!」


 と言い返す。


 言い返しながら、なんでこんな子ども相手にこんなに怒ってしまうのかと、疑問に思う。


「そりゃあ、兄貴が若返った証拠じゃないのかい?」


 ここは魔都『グランシエラ』の隣町。前もってジャロックに出店させた魔法雑貨店の支店だ。小さくとも本店から持ち出した魔法道具は沢山ある。


 炉端でおっとりと話すのは年老いた弟のジャロックだ。


「兄貴は若い頃は血の気が多かったからなあ」


「そんな事はない」


 前髪をかきあげながら、フルヴラはその感触に驚く。


「前髪が、多いな」


「ぶふー、いい事じゃないか、兄貴」


 ジャロックは羨ましいと言いながら、ケタケタと笑った。


 そんな二人を不思議そうに見ながら、モリーは尋ねてくる。


「本当に兄弟なのー?」


「そうじゃよ。あたしの方が弟さね」


 モリーにはここに来るまでに二人のことは説明してある。それとこれから魔王を封印する目的があることも。


「だから、どうやって封印するのよ?」


 フルヴラは無言で濃い紫色の天鵞絨ビロードの包みを胸元から取り出した。どうやら後生大事に持ち歩いていたらしい。


 細長い包みをテーブルの上に広げると、中から三本の短い杖が転がり出てきた。


 細い柄は金属製で銀色に輝いている。その先には青い魔晶石の結晶がめ込まれていた。


「綺麗……」


 溢れる魔力の光に、薄暗い部屋がふわっと明るくなる。モリーはその美しさに思わず感嘆の声をもらした。


「シナゴグの杖だ。持ち主の魔力に反応して、その魔晶石は変化する」


 そう言ってフルヴラはその内の一本を手に取り、目の高さに魔晶石を合わせた。特段力を込めたようには見えないのに、淡いエメラルド色の光が溢れ、ミシミシと音を立てて、小さな結晶が石の根元から生えて来た。


「こりゃすごい! 流石さすがは兄貴だ」


「何がすごいの?」


 少女に聞かれたジャロックは魔晶石の根元を指して説明する。


「あの石は持ち主の魔力に反応するのさ。例えば色が変化したりね。普通はそんなもんなんだけど、兄貴は『魔力の暴走』を起こしたんだ」


「ええ? それって、強大な魔力を受けた魔晶石が、その魔力を結晶化するやつでしょ?」


 普通は魔晶石の力を使って魔力を高めるのに、目の前の少年は強い魔力で結晶を増やしたのだ。


 モリーは驚いてジャロックの手元を覗き込む。


 フッと光が収まり、少年は布の上に杖を戻した。モリーが見ていると、魔晶石の結晶の周りを光の粒が周回していた。


「すごい! すごい、すごいっ! あんた見直したわ!」


 モリーの瞳が輝き、その笑顔にフルヴラは戸惑う。


 ——たまにメイリンの面影があるんだよな。



 つづく




 ◆『魔晶石』

 魔力を蓄積する、魔法道具には欠かせない石。大変希少で、月の光を浴び続けた水晶が変質するとか、処女おとめの血から作り出すのだとか、その生成方は不明。魔界からの流出物とも言われる。


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