第21話 お誘い


「どうした?」


 フリギットの怪訝けげんそうな声に、アナベルは思わず声を上げた。


「ななな、何でもないの! ちょ、ちょっと待ってて!」


 フリギットに背を向け、もう一度『忠誠の雫』を握りしめる。


「ふざけた答えを出すんじゃないわよ」


 脅し文句をかけてみたが、やはり宝玉の答えは同じである。アナベルは顔を紅くして、フリギットの方を見た。


 首を傾げてアナベルを待つ姿は絵姿にも似て、この男がモテない訳がないと思わせた。きっと沢山の女性たちを泣かせてきたことだろう。


 それに引き換え、自分は——。


 魔道具の力によって『魅力』が補正されているだけの小娘だ。魔道具が無ければ、誰も気にかけないその辺の町娘に過ぎない。


 この盗賊の青年だって、私に興味を持たないだろう。


 アナベルは初めこそ『魅力』が底上げされて、沢山の男達に言い寄られた時は気分が良かった。それは否定しないが、次第に自分自身ってどんな『私』であったか思い出せなくなっていく。


 この青年も、本当の私を知ったら、がっかりするかしら?


 いいえ、自分に自信を持つのよ、アナベル。


 相反する気持ちが彼女の中に湧き上がる。彼をそばに置いておきたいなら、今の自分を利用するのよ。


 大丈夫、『初めて』だなんてバレない。


『魅了』は効かなくても、『魅力』は底上げされているんだから、可愛らしく振る舞ってベットまで連れて行って、あとは魔法で眠らせてしまえばい——。


 アナベルはそこまで考えると、でき得る限り妖艶に見えるように微笑んで、盗賊の方を振り返る。


「少し——お話ししたいわ。貴方の部屋で」






「ぷっ」


 アナベルが思い切り魅力的に見える様に微笑ほほえんだのに、フリギットは吹き出した。


「な、なんで笑うのよ!」


「いや、ごめん。だって……ふふ、あはは……」


 明るい青年の明るい笑い声は、やはりおひさまに似ていた。アナベルは笑われて腹立たしかったが、その笑顔に負けた。


 拗ねたような、少しだけ怒ったような表情かおをすると、フリギットに問う。


「教えてよ。何が変だったの?」


「ふふ、そうだね。急に演じ始めたことかな」


 むむ。

 バレてる。


 アナベルは少しだけ焦った。どうにかして彼を寝室まで連れて行かねば。


 ところが、逆に彼女の表情から何か汲み取ったのか、フリギットは上階への階段へアナベルを誘った。


「見てみる? 俺の部屋」





 つづく

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