第四部 フリギットの恋

第18話 盗賊の恋

 盗賊フリギットはいていた。


 若いのに、この世に生きる事について、目的が無くなってしまったのだ。


 彼はいろいろなお宝を盗み出す事を生業なりわいとしていたが、それは半ば自分の知恵と体技とを駆使した遊戯ゲームのような生き方であった。


 遊戯に勝ち、財宝を手にして愉悦に浸り、時たま女に慰めを求め——。


 それがどうだ。


 こんな物を手に入れた為に、全くつまらなくなってしまった。


 最後にコレを手に入れる為に出し抜いた女の驚いた顔が焼き付いている。あれほど愉快な心持ちになったことはついぞなかった。


 その後の空虚な日々など予想もしなかった。


 恨みがましい思いを込めて、フリギットは『盗人の円月輪』を壁に投げ付けた。





『盗人の円月輪』は壁にぶつかる寸前にフッと消えた。


 アレは何処どこかでフリギットの望む物を盗んで来るのだ。そういう意味ではフリギットに『円月輪』に合う魔力があったのだといえよう。


 彼の魔力を受けて、『円月輪』はどこへともなく消え、そして戻って来る。


 ——コトン。


 物音にフリギットが目をやると、『盗人の円月輪』が戻って来ていた。側に鮮やかな紅玉が転がっている。


 まただ!

 俺はコレを欲しがったのか?


 フリギットはだるそうにベッドから立ち上がると、ノロノロと『円月輪』と宝石を拾いに行った。


 ——どうせなら、あの女でもさらってくれば良いものを。


 フリギットは『円月輪』を高々と持ち上げると、硬いオーク材の柱に突き立てた。放り投げればまた何処かで宝物を盗んで来るだろう。


「ん?」


 その時、階下で微かに女性の声がした。




 つづく

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