第11話 小凍の水晶


 これでなんとなく分かってきた。魔王は城にいるが、成り立てでその目的も何もまだ無いのだ。この世を支配するとか、魔界に落とすとか、思いつきもしないのだ。それなら今のうちになんとかできるかも知れない。


 フルヴラは店に戻ると、店に残した魔法道具の中から一つの品を選んだ。


 きらめく氷を水晶にしたようなペンデュラム。キラキラとした黄金の粒が舞い、銀と水色のアクアマリンを混ぜたかの様な色を放っている。


 それを手にすると、それをぶら下げる金の鎖を繋いだ。輪にして首から下げる。そこへ弟が顔を出した。


「兄貴?」


「お前の分もある」


 同じ様なペンデュラムを同じ様に首からかけてやる。


「『小凍こごおりの水晶』だ。精神抵抗を高め、冷静さを保つ力を宿している」


 精神抵抗値が高ければ、『魅惑の宝珠』の魅了チャームにも惑わされない。元々抵抗力の高いフルヴラなら、魔王のカリスマさえ受け付けないだろう。


「いいか、弟よ。隣町でも多くの情報を仕入れるのだ。魔王についてだけでは無い。魔力を宿した道具についてや、魔物の出現場所、数、魔族の噂……情報には気前よく代金を払え」


 弟はこくこくとうなずくと、兄の手を握った。


「すまない、兄貴。集めた情報は必ず送るよ」


 フルヴラは弟の背を叩くと、隣町へと送り出したのだった。



 つづく





◆『小凍りの水晶』

 凍てつく氷の精霊を閉じ込めた水晶から造られたと言われているペンデュラム。精神抵抗力を高め、魅惑や挑発、勧誘、闇落ち等への対処道具とされる。

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