第8話 才能の鍵

森の中に隠れ住む元町娘のアナベル。様々な魔法道具のおかげで強く美しくなりましたが、その悩みは尽きません。一体私は何の為に生まれて来たのかしら?



◆◆◆◆◆◆◆


……。

 あのう……。

 なんだって、あたしみたいな老いぼれが、王宮に連れてこられてるんでございますかね……?


 え?

 国王様、直々じきじきにお話がある?


 あー、王太子様の件でしょうかね?あれはあたしのせいではありませんよ!


 え? 違う?


 買いたい物がある?


 ははあ、それであたしの店の物まで全部持ってきたわけですか。


 いやあ、全部没収されるかと思いましたよ。これを全部没収されたら、兄貴にどれだけ怒られるか……。


 いえね、兄貴のコレクションみたいなものがあるんですよ。いっつも何処どこにしまったかわからなくなっちゃってねぇ。売るなって言われてるんだけど、どれがどれやら。


 あっ、はい!

 このままかしこまってればよろしいので?


 ……。

 は、仰せのとおり、あたしが魔法道具雑貨屋ドミタナスの店主でございます。


 は、欲しいものが……?

 一体どのような品でございましょう?


 あれ?

 あの、皆さまどこへ?


 へえ、人払いまでなさるとは思いませんで。


 え? 湖畔の別荘の近くに、見慣れぬお屋敷が? そこにすまう美しいお嬢様とお知り合いになった?


 ははあ、それは内密のお話ですな。まさか、あたしは誰にも話したりなんてしやしません!


 そのお嬢様は、えもいわれぬ美しさで、類稀たぐいまれな才能をお持ちで、富にも恵まれているようだが、悩んでおられるようだ、と?


 あれ? 何処どこかで聞いたような話だな。


 いえ、なんでもないです。


 それでそのお悩みとは……?

 ほう、それだけの恵まれた女性なのに、何のために生まれて来たのかわからない——若者にありがちな悩みですな。


 自分の進む道がわからないのでございますなぁ。


 よござんす。

 思い当たる道具がございます。


 自分に眠る才能を開花させ、その使い道を示す魔法道具、『才能の鍵』!


 見た目は小さなペンダントの様でして、ガラスの筒の中に才能を司る蛍石と魔法の鍵が封じ込められております。この魔法の鍵がキモでしてな。まさに運命の扉を開く鍵と言えましょう。


 小さくても強力な物でございますが、ええと、何処に有るのか……。


 店の物を全部持ってこられるとは思わなんだ。え? ジャンル別にならべてある? ペンダントはこの辺?


 ——あ、ありましたぞ!

 さあ、国王様。

 これが『才能の鍵』でございます。


 お値段?

 ええとこれは——思い切って10万ギル!


 え? 安い?

 しまった、もっと儲けるチャンスだったかな。


 はい、毎度どうも。


 望みは無いかって?

 無事に店に戻れたら文句は無いですよ。商品もね……。





〈その夜〉



 なんだ!?

 今何か起きなかったか?

 何も?


 あたしの勘違いかな。歳はとりたくないもんだね。





 最近、お城の周りが薄暗くないかい? どんよりともやがかかったような……。


 お、お客さんだ。

 へい、いらっしゃいまし。


 うわっ!

 お、お、お、王様じゃございませんか。一体どうなさったんです? なんでまたお一人で……?


 え?

 この前の『才能の鍵』を、例のお嬢様に差し上げたら?

 彼女の才能が開花した?


 いい事じゃございませんか。


 良くない?

 彼女の秘められた才能は——?


 魔王になる事⁈


 じゃ、じゃあそのお嬢様は魔王になっちゃったって事ですかい?


 しかもお城を乗っ取られた?


 この国はその魔王の物⁈


 嘘でございましょう⁈




第一章 完



◆『才能の鍵』


アイテム名そのまま。対象者の秘められた才能や能力を解き放つちからを持つ。使用は1回限りの消費アイテム。

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