第7話 魔界の歯車
グランシエラの街から姿を消した噂のお嬢さん・アナベル。どうやら隠れていた森の中で、ある人に出会ったようで……。
◆◆◆◆◆◆◆
へい、いらっしゃ……。へ?
うわ! 何ですか、あなた達?
なんだって、お客様を追い出すんです⁈
何? 高貴の身分の方が、ウチで買い物をなさりたいと?
はあ? 何をおっしゃる! ここは街のみんなの店で……。
あっ! これはこれはグランシエラの王城にお住まいの——グランデスターニュ王国の王太子様ではございませんか?
へへーっ。とんだご無礼を。
ええ、どうぞご自由に。
ちょっとちょっと、お付きの方。こういう時は前もって貸し切りにするのが通例でしょう? え? 王太子様が突然思い立った?
ああ、じゃあ仕方ないかね。こういう
へいっ、なんでございましょう?
なになに?
森の
はあ、よくあるお話ですが、なんだってウチにいらしたんで? 王太子様ならドレスでも宝石でも思いのままでしょうに。
その方は何かお悩みの様子ですって? ほうほう、なんでも思ったのと違う人生を歩んでしまっている?
ほう、特に出会う方出会う方の運命を狂わせてしまうと?
これはたいそうな『運命の
え?
時間を巻き戻してあげたい?
いやいやいや。
それは
怒らないでくださいよ。時間ってのはね、大きな力を持つんです。誰だって過去に戻ってやり直したいってのはあるもんです。このおいぼれも様々な人を見てきました。
このグランデスターニュ王国の長い長い歴史のことを考えてみてくださいな。時間を遡って元に戻すってのはその長い歴史をねじ曲げるんですよ。そんなことできるわけがない。時間の持つ因果律ってのは強力な、修正不可の流れなんです。
時間の渦にのまれて、過去に飛ばされたって人もいるけどね。その人が過去で何かしたって、修正は効かないんですよ。
え? そんな大きな話じゃない?
数分でいい?
いやだから無理なんですってば。それを行うには時間の持つ流れを超える魔力でも無ければ、できませんて。
え? 魔力は気にするな? 道具が有るか無いか?
道具の有無なら——へえ、そこのペンダントで。歯車の見える、夜を閉じ込めたような……。
ええ、それです。
『魔界の歯車』っていいまして。
え? 違いますよ、魔界なんてあたしに行けるわけないじゃありませんか。そう呼ばれているだけでさ。仕入れてきたのは兄貴なんで、もしかしたら本当に魔界の物かもしれませんがね。
これで良い?
はい、毎度。
えー、5万ギルで。
おや、取っておけと? ありがたいことでございます。こんなにいただきまして。ええ、ぜひまたご
へい、いらっしゃ……。
ああ、覚えてますよ。王太子様のお付きの方でしょう?
え?
一体どうしたんです?そんなに泣き崩れて。
ええ、『魔界の歯車』ね。
いえ、あれを動かすには相当の魔力がないと動かないですよ。それこそ魔導師会の司祭様とか。それだって数秒でしょうね。
なに?
王太子様が出会ったお嬢さんが、それを使ったらしく? 王太子様の記憶が抜け落ちている?
それもここ1年分くらい?
いやまさかそんな……。
ええと、アレは確かここに兄貴の覚書がしまってあったはず。
ありました。
ほう、なんとアレは対象者の時間を巻き戻す効果があるようですな。目の前の相手に使用して、数秒の
なるほど数秒巻き戻して、記憶をあやふやにする道具なんですな。
え? ちょっと待ってくださいよ。アレを使って1年分巻き戻したってのはどのくらいの魔力の持ち主なんで?
知らない?
王太子様しか知らなかった?
はあ、その女性は行方知れず?
王太子様は1年分のお勉強がやり直しに?
いや、あたしのせいじゃないでしょうよ!
つづく
次回『才能の鍵』
◆『魔界の歯車』
実際に魔界から贈られたアイテムともいわれる、時間を巻き戻すペンダント。効果の発動には膨大な魔力が必要なため、人間には使いこなせないとして、魔族が遊びで作った物かも知れない。
対象者の時間を巻き戻す効果があり、対象者は実際にその巻き戻った時間を過ごしていないこととなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます