第6話 征服の天球儀

グランシエラで噂のお嬢さん・アナベルの望みを知った大臣様。彼女の望みを叶える品はあるかしら?


◆◆◆◆◆◆◆



 はい、いらっしゃいまし。

 これはこれは、大臣様ではありませんか?


 なんでまたこんな雑貨屋にいらしたので? いえいえ、ご迷惑なんてとんでもない。光栄でございます。


 探し物?


 はあ、うちにあるものでよろしければ……。


 はい?

 最近知り合った方がいる?

 この街の下町育ちで、ろくに外の世界を出歩いたことがない?


 ああ、そうでございましょうねぇ。家によっては家業を手伝えとか、やれ家事をしろ、それ買い付けに行けとか、それはそれは小さい頃から家の手伝いばかりさせられましたよ。


 え? お前の話は聞いていない? おやこれは失礼をいたしました。まあ、一日中働きづめってのはどこの家もそんなものでしょう。


 だからいろんな場所につれて行ってやりたい?


 ははあ、なるほど。


 と、なると……あれですかなぁ。ご存知の『思い出の天球儀』。別名『記憶の天球儀』ですな。


 大臣様の行ったことがあるところなら、どこでも訪れることができる魔法具ですな。


 ええと…へえ、すみません。散らかっておりまして、いっつもどこにしまったか分からなくてね。


 こう、金色でリングが球体を形作っていて。おお、それです。


 それをこう手のひらに載せましてな。行きたい場所を思い描いて魔力を流し込めば、お二人はその場所に到着、と。こういう具合ですな。


 南の島・カルピピでも、オーロラの見えるベリーデイズでもお忍びのご旅行は思いのままに。


 え?

 伝説の魔法具に似ている?


 いやいやまさか。

 アレでしょ?『征服の天球儀』。


 あれはまさに伝説の品ですよ。

 行った事のない場所でさえ、座標を入れれば行けてしまう。しかも魔力によっては一個大隊をも送り込めるっていう。まさに『征服の天球儀』!


 そうですよ。こんなとこにある訳ないでしょう。ほっほっほ。


 お値段?

 コレはちょいと値がはりますよ。

 3万ギルで。

 え?

 安い?


 いやあ、大臣様には参りますな。

 へえ、ありがとうございます。

 どうぞまたのお越しを。






 へい、いらっしゃいまし……。


 あれ? 大臣様、一体どうされました? そんなにげっそりして。


 え?

 財産がごっそり盗まれた?


 ええー⁈ 大変じゃございませんか。


 なになに、犯人は『征服の天球儀』を使ったらしい?ほう、伝説の魔法具ではありませんか。先日お話しした……。


 え? ウチで扱っていた品が『思い出の天球儀』ではなくて、『征服の天球儀』だった?


 ご冗談を。

 あれは兄貴がどこぞで仕入れてきた雑貨でございますよ。


 は?

『天球儀』をプレゼントした相手が?底無しの魔力持ちで?

 その魔力でお屋敷ごと何処どこかへ行っちゃった?

 ……確か使用者が知らない場所には行けないはずだし、大きな物を移動させるには魔力が必要。


 ——じゃあ本物か。




 そのかたは以来行方知れず?


 で、奥様はじめ親戚一同にこってり絞られて、離婚に破産に仕事をクビに……。


 へえ、それはまた、お気の毒な事で。いや、若い女性と遊ぼうとするからですよ。


 え? ここで雇ってくれないか?


 へえ、間に合っております。



つづく


次回『魔界の歯車』



◆『征服の天球儀』


行ったことがある場所はもちろん、座標を入力すれば何処へでも訪れることが出来る魔法道具。座標は高レベルの魔術者ならわかるらしい。入力方法は魔力による。文字が炎のように輝いて移動が始まるという。

使用者の魔力に応じて移動させる容量は変化する。

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