第8話「開戦理由」
それはいつもの昼休み。
それぞれ飯を食い終わった俺たちはいつものように駄弁っていた。
「あーそういえばさー今日の伊出先生」と太田が言った。
「あ、もしかしてあれ?」と富岡が目をきらめかせた。何かいいことでもあったらしい。
「どのアレかは知らないけど。なんかあったの?」と僕。
「んああ。川井はまだ今日の伊出先生見ていないのか」と富岡が笑顔で言う。
「うん」
「んじゃ、後でビックリするといいよ」何やらあったらしい。
「なんだよぉ。教えろよぉ」
「いやいや。初見殺し?違うか。とにかく、第一印象が大事だからな」富岡がうれしそうなので伊出先生にプラスの変化があったということなのだろうが。
「まぁ、そうだな」と太田が同意した。
「太田もそっち側につくのか」
「何悪いことじゃないよ。ちょっと驚くだろうなーってだけだよ。川井が俺の立場でも同じことするって」
「ま、次の授業だからいいさ」
「ところでさ」と言って話題が移る。
「女の子の髪形でどれが一番好き?」と富岡が振ってきた。
「んー俺は長い方が好きだなー」と太田は漠然とした解答。
「ボブカットの子ってなんかいいよねー」と僕。
「俺はポニテ派」
「こりゃ戦争案件だな」と僕。
「だな」と富岡。
「開戦の理由が個人趣味的すぎる」
「ボブカットっておかっぱとどう違うんだ?」富岡の先制攻撃。
「は?全然違うだろ目腐ってんじゃねーか」
「腐ってねーよ。いいかよく聞け?ポニテはな歩くたびに頭が上下するだろ?それでぴょんぴょんするんだぞ。ぴょんぴょん。これ可愛いオブ可愛いだろ。ぴょんぴょんオブジャスティスだろ」
「なんだよ。ぴょんぴょんオブジャスティスって」
「富岡がおかしいのは今に始まったことじゃないだろ」
「そこ聞こえてるぞ。ほらどうした?ボブカットのいいところを言ってみろよ?」
「まず第一にカッコいい。なんかドラマに出てくるみたいな雰囲気あるじゃん?第二にギャップ。大人っぽくも見えるし、子供っぽくも見える。第三にメガネとの親和性の高さ」
「異議あり!」
「はい、富岡検事」いつから裁判になったのか太田が裁判長だった。
「メガネとのシナジーはポニーテールの方が高く無限大だと思います」
「ボブカットの女の子がかけてるメガネになりたくねーのかよお前」
「俺はメガネ派ではないがメガネというアイテムはポニーテールによって最大限に引き出される。ちなみに俺はポニテのゴムになりたい」
「裁判長。こいつ変態です」
「川井君。落ち着きなさい。君も同レベルです」容赦のない裁判長だった。
「ボブカットが風に揺れるときのエモさがわからないのか?」と僕が言うと「お前こそ、ポニテにするときに髪を上げるしぐさにぐっと来ないのか」
「んだよ。そんなの実際に見たことないだろ。裁判長。富岡検事は証拠の偽装を行っている可能性があります」
「お前こそ、見たことないだろ」
「僕は、ボブカットの子がいたらガン見してるから心のシャッターチャンスは逃さないんだよ」
「裁判長。こいつ普通にポリス案件です」
「通報しました」
「裁判長これは私をはめるための罠です陰謀です」
「でも俺、知り合いが有罪判決されるのが好きで裁判長やってるところあるし」
「ろくな奴じゃない」
「ボブカットのあのぱっつん具合がいいんだろなんでわからないんだ」
「運動部系の女の子のポニテ。バスケ部のポニテの良さがわからないのか」
「いや、わかるよ。わかる」
「だよな。いいよな」
「富岡だって本当はわかってるだろ」
「・・・ああ、少しムキになりすぎた。俺だってボブカットの子がメガネをかけたらパーフェクトだと思う」
ガシっと。
僕らは握手した。
同時。
きーんこーんかーんこーん。
「本日の裁判はこれにて閉廷します。次回は、テキトーに話すネタが無くなった時に行います」
そして僕らはそれぞれの教室に帰って行った。
そして五時限目。
教室に先生が入ってきとき「あ」と思わず声が出てしまった。
先生は長かった髪がバッサリと短くなっていた。
そしてボブカットでメガネをかけていた。
僕は心の中でガッツポーズを取り。
パーフェクト、と叫んだ。
●了
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