第2話 愛の告白 共通ルートその2

家に帰って電気をつけると、参考書や読もうと思っていた漫画が山のように積まれた机が目に入った。

ベットには脱ぎっぱなしにした衣服が乱雑に置かれていて、寝転がるのも

元々狭い部屋だが、足の踏み場もないほど物が散乱しているせいで、更に圧迫感があった。

このままにしておくと、母さんや姉ちゃんにどやされる。

けれど、今はそんなのは些末な問題だ。

このラブレター、封筒には送り主が書いていない。

それが気になって気になってしょうがなかった。

もしかしたら、公一が悪ふざけで入れたのかもしれない。

でも帰りの電車内には同じ学校の生徒を見かけたから、確かめられずにいた。

あの野郎、どこまで俺の純情を弄べば気が済む。

イタズラかそうでないか、ただ中身を調べればいいだけなのに、それが怖くて悶々としていた。

そうこうしていると、心の中にいるもう一人の、勇気ある自分が語りかけてくる。

何を迷っているんだ、優吾。

なるべく早めに付き合うか返事してあげないと失礼だし、読む選択肢以外ないだろう。

背中を押された俺は気分を一新しようと窓を開けると、心地よい風が入り込む。

よし、そろそろ読むか。

決心したその時、部屋の外から声が響いた。


「ちょっと優吾、用事があるんだけど~。開けるよ~」

「ああ、いいよ」


そういうと白のTシャツ一枚に短パン姿の、女を捨てた女がずかずかと入ってくる。

俺の姉ちゃんだ。


「ちょっと優吾。手に持ってるそれ、何よ」

「あっ、こ、これは」


まずい、隠し忘れてしまった。

ここは正直に告げた方がいいかもしれない。

でないと中身を見るために、強硬手段に打って出るに決まっているのだから。


「これは素敵なマドモアゼルからの愛の告白さ。ほら、俺ってさりげない気遣いできるから、自然と女子が寄ってくるんだよね」

「……小中でまるで女っ気のなかったやつが言うと、説得力ないわね。ほら、私に貸してみ」

「姉上様、ど、どうか命だけは……」

「馬鹿なこといってないで見せな」

「イエッサー……」


屈辱を感じながらも、俺は指示に従った。

草食動物が猛獣の餌食になるように、弟という生き物は、姉には逆らうことができない。

もし歯向かえばただでは済まないことは、幼少時に嫌というほど叩き込まれているのである!

年功序列や社会の理不尽さ……。

俺はそれらを部活動などせずとも、姉を介して学習していたのだ。


「まだ読んでないんだけど、どうだった?」

「……ふ~ん、なるほどねぇ。隅に置けないね、アンタも。ちゃんと返事してあげなよ」


姉ちゃんはそれだけ言い残すと、手紙を返してくれた。

反応を見るに、友達のイタズラという訳ではなさそうだ。

そのおかげで、手紙を読むことへの抵抗が和らいでいた。


「いい子そうじゃない。姉としては、優吾に変な虫がつかないか心配だからさ。確かめてみたくなったのよ。その子なら安心ね」

「姉ちゃん、そんなに俺を……」

「そうそう、今日○ャンプの発売日でしょ。後で立て替えておくから買ってきて」

「そういうと思って、買っておきました」

「さっすが私の弟、気が利くわ~。弟って雑用に使えるから便利よね~」

「俺は姉ちゃんの奴隷かよ……」


姉ちゃんは呆れている俺のカバンから週刊誌を奪い取ると、自分の部屋へと戻っていった。

現金だが、本音で向かい合ってくれるので、扱いやすくはある。

俺は姉ちゃんが部屋の鍵を締めるのを見届けると、深呼吸して、おそるおそる視線を手紙に向けた。

どんな内容なのかと、期待に胸を膨らませて。



田島君へ


田島君が好きです。

いきなりこんなことを言われたら、ビックリしちゃうかな?

私がクラスの自己紹介で緊張していた時


「ゆっくりで大丈夫だよ」


っていってくれたの覚えてる?

田島君は初めて会った時、私を励ましてくれたね。

あの言葉で勇気を貰って、すごく助かったんだよ。

田島君からしたら、ほんの些細な親切のつもりだったかもしれないけれど、他にもたくさん貴方から優しさを受け取りました。

勉強の分からないところを教えてくれたり、消しゴムを拾ってくれたり……。

いつしかそんな貴方に惹かれている自分がいるのに気がついたの。

初めてだから緊張しちゃって、上手く書けてないかもしれないけどごめんね。

こんな私でよければ付き合ってほしいな。

気持ちがまとまってからでいいから、お返事待ってます。


貴方の隣にいる宮本早紀より




綺麗な文字で、そう綴られていた。

簡潔ではあるけれど、好きになった理由が書かれており、彼女の気持ちが文章を通して伝わってきた。

不器用で、でも真っ直ぐな思いが。

そうか、宮本さんが俺のことを……。

ラブレターを読んでいると、彼女の柔らかな微笑みが頭を掠める。

胸の奥は次第に熱を帯びていき、心臓ははち切れそうなほど脈打った。

これが恋なんだろうか。

いやいや、初めて告白されれば緊張くらいするだろう。

これは自然な反応で、宮本さんに恋愛感情があるかは別問題だ。

俺は理性で、心の昂りを抑えようとした。

でもどんなに彼女への好意を否定しても、頭は彼女で一杯になってしまっている。

俺は彼女が好きなんだろうか。

それとも、ただ好きだと錯覚しているだけなんだろうか。

ぐるぐる考えが巡り、いくら悩んでも答えなど出てこない。

俺は男として、彼女の好意にどう答えるべきか考え込んでしまって、その日一日中寝付けなかった。

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