短編恋愛小説集「嘘の告白」
?がらくた
第1話 ラブレター 共通ルートその1
明正高校(めいせいこうこう) クラス1–Bにて
「確かさ、昨日けだものの森の発売日だったよな。どう、面白い?」
「うん、トミーに住民になってもらいたくて、昨日は寝ないでやっちゃった。絶対面白いから、優吾もやってみなって。買ったら一緒に遊ぼうよ」
「でも売り切れてる店舗が多いって聞くぜ。パッケージ版のが好きだからさぁ。つまんなきゃ売れるし」
「そんなこといって、私とやりたくないんでしょ」
「実をいうとあんまり興味ねぇなぁ。うちの姉ちゃんも好きだから、何とか話にはついていけるけど」
俺と話している女子の名前は中野未来(なかの・みく)。
俺の姉ちゃんの友達の妹さんで、偶然学校が一緒だったから、それ以来仲良くさせてもらっている。
椅子にブレザーを掛けていて、まくった腕からは健康的な浅黒い肌が露出していた。
恥ずかしげもなく大きく開かれた股からは、黒のスポーツウェアが見えて、視線のやり場に困ってしまう。
仕草も含めて何だかおっさんくさいが、その分異性として意識せずに話しかけやすい。
特別美人でも可愛いわけでもなく、自己主張が弱いわけでも、強いわけでもない。
しかし路傍に咲く一輪の花の如く、人を惹きつけるような魅力が彼女にはあった。
未来の机の前に立ちながら喋っていると、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。
名残惜しかったけれど、仕方ない。
「やばっ、クラスに戻らないと。じゃあな、未来」
「うん、それじゃあね」
手を振りながら、彼女は俺を見送ってくれた。
好きか嫌いかでいえば、好きなんだろう。
でなければ友達になんてならない。
でも、そこに恋愛感情があるかといえば話は別だ。
女子は恋愛に夢をみがちだけど、重要なのは、相手への情を維持できるかどうか。
派手な挙式を挙げておいて、一年持たずに離婚したなんてよくある話だ。
だからこそ、カップルや夫婦の永遠の愛なんてものは、信用できなかった。
教室に戻った俺は、時間割を見た。
次は数学か。
数式は聞いているだけで、蕁麻疹がでそうだ。
沈んだ気持ちで机の引き出しの教科書を取り出そうとした、その時
「ありゃ、なんだこれ」
思わず口走った。
ハートマークのシールで封がされた手紙が、入っていたのだ。
おそらく未来のクラスに行っている際、誰かが入れたのだろう。
俺だってそこまで鈍感じゃない。
これはラブレターだ。
手紙の送り主が誰かは分からないけれど、今時はメールで済ませることも多いだろうに、奥ゆかしい子なんだな。
誰かに見られてはいないだろうか。
辺りをきょろきょろと見渡してから、カバンにラブレターを突っ込む。
同級生の目に入れば冷やかされそうだから、家に持ってかえって、判断することにしたのだ。
「あっ、田島君。教科書、忘れてきちゃったんだけど……」
隣の席の宮本早紀(みやもと・さき)さんが、申し訳なさそうに呟く。
隣といっても人一人通れるくらい席が離れているので、教科書を見せることはできない。
未来とは対照的な口数の少ない女子だ。
大人しい性格だからクラスで打ち解けられるか不安だったけれど、最近は鹿山たち女子グループで、よく遊んでいるらしい。
顔立ちは整っているけれど、切れ長の瞳のせいか、黙っていると冷たい印象を受ける。
けれど実際に接してみると、性格に問題があるとか、そんなことはない。
ただただ口下手なだけで、人並みの優しさのある女子だ。
空いた窓から風が吹くと、漆器の光沢を思わせる彼女の黒髪が棚引いた。
それと同時に柔軟性の柔らかな芳香が、鼻を刺激する。
香水なんかのどぎつい匂いと違って、ずっと嗅いでいても飽きない。
これが宮本さんの……。
「いいよ、公一にノート貸してもらうからさ。あいつのやつのが分かりやすいし」
「ありがとう、いつか埋め合わせするから」
そうこう話している内に、数学教師の戸上先生がやってきた。
「みんな、着席しろ。今から出席を取るからな~」
「あー、眠い、かったりぃ……。学校休みてぇなぁ」
「ダメだよ、田島君。先生に聞こえたら怒られちゃうよ」
食事を摂った後の5時限目ということもあってか瞼が重く、油断すればすぐに寝てしまいそうだ。
授業中は誰一人として喋ることなく、退屈な時間が過ぎていく。
何かしていないと睡魔に負けてしまいそうで、俺は黒板に書かれた文字を写す振りをしていた。
頬杖を突きながらふと窓の外に目を遣ると、鳥は大空を自由に羽ばたいている。
狭い空間に押し込められた俺たちになんて、目もくれないで。
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