月暦15 剣を交えた月影と世凪

「で、能力の使用に関してだけど、武器の使用可。ただし、相手に致命傷を負わせないでいい?」


「ああ。」


世凪は着ていたドレスを脱ぎ、白いTシャツと黒の短パンに着替えていた。

月影はといえば、スーツのままだ。


「手加減しないよ?」


「それは私も同じ。」


世凪は木刀を持ち、構える。

それを見て月影も木刀を持ち、構えた。

世凪は幼い頃から中学に上がる手前まで西洋剣術と体術を習っていた。

もちろん、月影はそのことを知っている。

彼もまた、剣術と小具足、つまり短刀を利用した武道を習っていた。一応現在も剣術は素振り程度に鍛えている。

2人は呼吸を整え、合わせる。

それと同時に地面を蹴った。


バシッ...!! ヅッザッ  ガガッ


「…!!」


「すげぇや。ッツ...!!」


世凪の能力発動により月影の能力無効化は使用を禁止された。

刀と刀の間で火花が散るかのような真剣勝負だ。


「能力無効化を禁止されるとはな…クソッ」


「生憎、剣技で負けたことは一度もないから。」


「じゃ、そろそろ本気出すか。」


「はっ?!」


月影は一瞬で世凪の背後に回り、木刀を世凪の左腕に当てる。


「世凪、今あんたの左腕はない状態だけど、続ける?」


「ハァ...ハア...もちろん...‼」


世凪は斬りかかるが、どうも距離が足りない。

このままでは動きが間に合わないと思い、剣を投げ捨て、月影の手元近くで木刀を蹴った。

月影の手からは木刀がなくなったが、スーツの裏に隠していた短剣を取り出して、両手に持ち替える。木刀と短剣が交差する。

世凪は月影の足を蹴り、体制を崩す。その後、更に低い体勢になって月影の左足を剣で切った、その時だった。月影の瞳孔が開く。月影は能力を発動させたのだ。


「…!!」


「うっ、最悪…」


視界が歪み、吐き気を伴い、脳が重たく感じ、仕舞いには自分の体重を支えられなくなり、その場で倒れた。

月影の能力で世凪は意識を失ったのだ。



「畔柳…?月影は?」



畔柳の膝の上に世凪の足が乗せられている。

畔柳は月影はどこにいるのかと問う世凪に指差した。彼は観客用のベンチに座っていた。



「俺はここ。ごめんなー世凪、能力で勝っちまって。」


「…血液操作でしょ。」


「そうだよ、貧血起こさせたんだけど、どうやら今日はダメだったみたいだね。もう少し抑えるべきだった。」


「デリカシーって言葉知ってる?

あー、完全に舐めてた。血液操作は人を生かすか殺すかの二択の能力だと思ってた。」


「そんなことより、さっさと着替えなよ世凪。その短パン、覗き込んでたぞ。畔柳が。」


「してない。したかったの間違いだ。」


「失せていただけます?本当に。」


「敬語が冷たく感じるの俺だけ?」


畔柳の茶番はどうでもいい。それより、月影に話し終えていないのだ。

月影が思い出したのか私に尋ねる。


「そうだ世凪、話がまだじゃん。」 


「じゃあ、着替えてからテラスに行く。それまでテラスで待ってて。」


「りょーかい。」


月影はさっさと地下競技場から退出し、なぜか蓬のもとへと向かった。

畔柳に関しては、世凪の着替えの邪魔になるので強制退出させられた。



* * *



世凪も月影もグラスを片手にテラスの一番角、人気のない場所であの写真について話した。

もう日は暮れて、月の輝きが増し始めた頃だ。


「つまり、俺と世凪が写ってる写真を撮った内通者を見つけたいと?」


「そう。多分同じクラスね。」


「内通者の危険性は?」


「畔柳が雇った人間かつ、優秀だと言ってたから相当腕は立つはずよ。彼が褒めるということは体力的な面、技術的な面、知力的な面、人間的な面で完璧ってわけだから。」


「黒園の可能性はないのか。」


「ないね。彼はやらない。絶対に引き受けない。でも、可能性はゼロとは言えない。」


「裏切られたのに信頼しているんだね。」


「もちろんよ。でも、もう不要なの。」


「なんでさ。」


「…ほら、今年のクラスは優れた能力者が多いでしょう?それなら問題ないかなって。彼女も別のクラスだけど、頼りになるし。」


「黒園の片割れは大変になるな。」


「そうだね。でも、私が見てられないよ…」


「で、なんで内通者を見つけたい?監視しているだけの人間なら危害を加えることはないだろう?」


「隠してきたけど、去年もおととしも命が狙われるような出来事が少しだったけれどあった。その相手は生徒だけでなく教師や学校関係者、保護者なんかもいた。逆に自分の命でなく、他人の命を奪おうとした人間もいた。今年は蓬家の当主が病気になり動けなくなる。だからって代わりに次期当主の未成年、蓬俊一を国のトップに置くなんてできない。18になれば政治に顔を出すぐらい構わないと思う。けれど、どっちにしろ難しいし厳しい。そして今年は国の核がいなくなる年なんだ。国家をつぶしたい人間はこのチャンスを何が何でも逃すはずがない。そうなればたとえ敵が学生だろうが教師だろうが相手にする数も能力者の質も上がるだろう。内通者に命拾いなんてされたくない。だったら、手を組みたいと思っている。そのためには内通者に接触するよりも情報が欲しい。」


「なるほど。でもな、それならあいつを捨てる理由とかみ合わない。自分の身を守るため、誰かの身を守るために内通者と組むならあいつは必要だろ。俺はあいつを捨てないほうがいいと思う。」


「捨てるわけじゃない。彼から離れるべき頃合いだと思っているだけ。」


「…じゃあ、本当に契約を破棄した場合は俺にくれ。」


「それは本人が決めること。私がいいよなんて言えない立場なの。」


「ちなみに蓬はその写真を知っているのか?」


「その写真ってなんのことだ、月影。」


背後から聞こえてきた声。不吉な笑み。

黒マスクで口元はわからないが、狂気を感じる目。

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