月暦13 黒い部屋
「なにここ…」
ドアが開き、部屋に光が入る。
幻月の部屋。そこは黒い壁、黒い家具、黒いカーテン、黒のカーペット、黒の天井…黒以外の色のものがない部屋だった。
ドアは自動的に閉まり、真っ暗な部屋に閉じ込められた。
「ここまでくると主の性格はとんでも無いんだろうなあ。たった2週間で前当主だった親父さんの部屋がこれだよ…ところでお嬢、早く進んでいただけますか?」
「畔柳、どこにいるの?照明ないの…?暗すぎて進めないんだけど。」
「お嬢、俺のこと見えてないの?」
「あなたは夜目が効くんでしょうね…そういうことばかりしてるのでしょう。」
「まあね。魔道族の件で駆け回ってるからなぁ。それより、お嬢。この部屋電気ないみたいですよ。」
「最悪…どうすんのよ…」
畔柳は何かごそごそと音を立てたのち、あった、と一言。そのあとにはカチカチと広い部屋に音が響き、火が灯る。
「ライター持ち歩く中学生男子って絶対いるよね…」
「俺をただの男子中学生と思うとは舐められたもんだねぇ。」
ほんの小さな明かりが真っ黒な部屋に灯る。
「この部屋、照明ないな。カーテンを開けるから、お嬢はそこで待ってな。」
「お願いします。」
畔柳は走ってカーテンを開ける。
光が一気に入り込むが、それでも暗い。
にしても、この部屋は広すぎる。40畳はあるだろう。
ベッドにソファ、テーブル、大型のテレビが一つとサイドに二つずつモニターらしきもの。
黒いファイルが詰め込まれた本棚。大型スピーカーと壁掛けスピーカーが合わせて四つ。それと…
「なんでガラス張りなの…?」
「あらら…」
世凪の視線の先には真っ黒のお風呂。完全ガラス張りだ。
「多分だけど、鍵かけたら外から見えなくなるやつじゃない?」
畔柳は脱衣所に入り、鍵をかけた。その瞬間ガラスが曇り、なにも見えない状態に。
「すごい…けど、別にガラス張りじゃ無くても良いじゃん…それに白だし。」
「そこは主のこだわりだよ。」
「…この円柱のは何?」
「シャワールームですね。その隣のがトイレですね。奥にウォークインクローゼットかな?」
世凪と畔柳は不思議そうに部屋を見渡す。
畔柳は何か違和感に気付いた。
「お嬢、この部屋…」
「ん?」
畔柳は会議が行われている天満月に接している壁に目を配る。テレビやモニターが付いている壁だ。モニターの隣には本棚が置かれている。
畔柳は本棚の方の前に立った。
「どう考えても、ここにあるべきはずの空間がない。真っ暗で最初は気づかなかったけど…」
本棚は横仕切りなしの5段になっている。2メートルは余裕で超えているだろう。
畔柳は本棚に触れ、押したり引いたりしてみた。だが、感触としてはあるのだが、何も変わる様子はない。
「動きそうだけど、動く気配がないな…」
「横に引くのは??」
「それは流石に…おっ…」
試しに奥へ押した状態で横にスライドさせると、別の空間が現れた。
「なにこれ…」
ただただ暗い。全くなにも見えない。
だが、畔柳は違った。
「すげぇ…これは、良いもん見つけたわ。」
「なに?なにが見えるの?」
「あっ、照明あった。」
畔柳が壁のボタンを全て押す。すると、一つ目のボタンで電気が、二つ目のボタンで椅子が現れ、三つ目のボタンで隣の部屋が映る。
隣の部屋とはもちろん現在十五家がランチをしている天満月の部屋だ。
世凪は一瞬焦ったが、あっちの人間がこちらに気付いていないことがわかり、平静を取り戻した。
「マジックミラーだな。これは覗き見し放題じゃねえか。」
「ねえ、もう一つボタンがあるけど?」
「押していいよ?」
世凪は興味半分、不安も半分の気持ちでボタンを押した。すると、
「こちらの料理おかわりできるかい?」
「是非ともたくさん召し上がってください。」
「ありがとう。」
「寄付金の扱いが難しくなってますよね。」
「そういえば、あの大手商家のご子息、進学なされたんですって。おめでたいけれど、恐らく金銭が絡んでると思うわ。」
世凪はぼうっとしていた。その光景が汚らしく思えたからだ。寂しい人たちばかり。苦しい空間。
「まさか盗聴までしてるなんて…」
「お嬢が今言いたいのはそれじゃないよね。」
世凪はゆっくり頷いた。畔柳にはすべて見透かされているようだった。
「…なんで大人になると、私利私欲ばかりで、なにも見えなくなるんだろう…。」
「それを言ったら、あんたの父さんは相当やばい人だよ。」
「えっ…?」
「言わないけどね。そんなことより、お嬢。今ならなにしてもいいんですよ…?」
「ちょっと…!腕引っ張らないでって…」
天満月の部屋で蓬が動いた。席を立ち、部屋を退出する。
「畔柳、これまずいんじゃない?」
「お嬢、俺に集中してください?ほら、」
「お前は調子に乗るな」
畔柳の頭に手刀が落とされた。
その手刀の主は畔柳の主人、蓬だった。
「やっぱり、この部屋を盗み聞きしてたんですね主。」
「勝手にお前が入ってくると思ったからな。だが、お前だけならここには来なかった。」
蓬は世凪のほうを見るが、世凪はとっさに、畔柳の背後に隠れ、彼のワイシャツをぎゅっと握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます