004 幼馴染はメンヘラ、俺はオムレツを作る

「あの子は、家が無いらしくてさ……それで……」


「ふーん、それで今夜一緒に過ごすんだ? ねぇ、ドキドキしてる? 夜、一緒に寝るんでしょ? りんごくん! ねぇ!?」


 充子は、明らかにいつもの雰囲気じゃなかった。目は狂気に満ちていて、俺は視線を合わせるのが怖かった。


「み、充子、落ち着けって……!」


「部屋から良い匂いがしますねぇ、今夜は手作り料理ですか? 幸せでしょうね、彼女……」


「お、お前……そんなキャラだったか!?」


「そんなキャラにしてしまったのは誰かな? りんごくんは、ピュアな男の子だと信じていたいたのになぁ……」


「み、充子……!」


 なんとか充子を諭そうとしたが、突然充子はドアを右拳で強く殴り、そのまま無言で去って行った。


「マジかよ……俺の家のドア……」


 なんと、ドアが大きく凹んでいた。レオパレス21だから脆くて当然と言えば当然なのだろうが、その凹みを見る度に今の光景を思い出さなければならない。


 それにしても充子の奴、俺が他の女といるのが許せないということなのか。


 充子とは、物心がついた頃から一緒にいた。昔は、風呂にだって二人で入った記憶がある。


 俺は、どうしても充子を女性として見れない。中途半端な距離で、長く一緒に過ごしすぎたのだ。だけど逆に充子は、俺を男性として見ていて、ひっそり好意を抱いていた訳なのか。


 俺はバカだけど充子の気持ちは解ったし、バカだからこそ今になってようやく解った。


「ふぅ……」


 俺は溜め息をいて部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。重たい頭を抱える。


「そもそも誤解なんだよ……。さくもとも知り合ったばっかりだし、俺は好きな人はいねぇんだよ……」


 明日、ちゃんと充子と話そう。解ってもらえる筈だ。


「お待たせー。ストゼロ、買って来たよ」


 さくもが帰って来た。


 俺は無心のまま、ニョロニョロ動いているコーンスネークを見つめていた。


「りんご、目がイってるよ? 大丈夫?」


「ああ、大丈夫。飯、作るから座ってて」


 俺は、ベッドから立ち上がり、台所へ向かう。冷蔵庫から卵を6つ取り出す。1人分のオムレツには、卵3つ。本場のオムレツは砂糖を入れないこともあるが、日本人は甘い味が好きだ。


 割った卵に塩胡椒、そして砂糖。フライパンに油を引いて熱する。卵料理は温度が肝心。フライパンに手をかざしてバターを投入するタイミングを計る。


「りんご、随分と手付きいいね」


 俺のベッドに寄り掛かっていたさくもが、背後から俺の料理を見ていた。


「自炊歴と喫煙歴は長いんだ」


 バターを入れる。煙と共に良い香りが鼻を通る。フライパンの上でバターを転がした。


 バターが粗方溶けかかったタイミングで卵液を回すように流し入れ、菜箸で混ぜる。外から中へ、外から中へ。フライパンを傾け、手前の卵を奥に寄せる。そして、フライパンの手元を上手く叩けば、奥から勝手に丸まってくれるのだ。ラグビーボール型に整えたら、箸と手首のスナップでひっくり返す。


 ここまでくれば、ほぼ完成だ。


 予め作っておいたチキンライスの上に乗せて完成。フライパンの取っ手を逆手に持ち、中が半熟のオムレツを乗せた。


「やるじゃん。持ってきてよ」


 オムレツの上に適当にケチャップをかけ、さくもの元へと運んだ。


「へぇ〜」


 さくもは、暫くオムレツを目で舐めまわした後、スプーンで半熟のオムレツを割った。

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