第37話アバロン討伐後

 古代竜エンシェント・ドラゴンアバロン討伐から、少し日が経つ。

 ダラクの街に、平和な日常が戻っていた。


「おはよう、マリア。今日の体調はどう?」


「おはようございます、ハリト君。まだ身体は少しダルいですが、何とか大丈夫です」


 アバロン戦でマリアは自らの身体に、女神の力を降臨させた。

 かなりの負担があったため、しばらく寝たきりになってしまった。


 だが何とか日常生活が出来るくらいには、今は回復している。


「いやー、ごめん、マリア。まさか、後遺症が残るとは思ってなくて」


「いえ、私も覚悟を決めていたのです、大丈夫です。ですがハリト君のお蔭で、精鋭部隊や市民の皆さんに、『女神代行者マリア様!』と、呼ばれるようになったのは、ちょっと辛いです」


「あっはっはっは……そうか、面目ない」


 アバロン討伐戦、城壁の上にいたマリアは目立っていた。

 目撃した精鋭軍や市民は、マリアのことを神聖化していたのだ。


「お姉ちゃん、そんなにハリトさんのことを、責めたらダメだよ! だってお姉ちゃん自ら名乗り出たんでしょ⁉」


「そうね、レオン。ふう……私も覚悟を決めていかないとね」


「そうだよ!」


 相変わらず弟のレオン君と、マリアは仲良し。

 二人で朝から談笑している。


 そんな温かい雰囲気の中。

 皆で朝ご飯を食べて、朝の準備をしていく。


「それじゃ、行ってきます!」


 オレは一番に家を出ていく。


 まだ冒険者ギルドに出勤する時間は早い。

 日課である街の散歩をしていく。


「おっ、街の復興も進んでいるな」


 アバロンの召喚した火蜥蜴サラマンダーによって、街の各所が延焼した。

 だが精鋭部隊のお蔭で、人的被害は皆無。

 焼け落ちた家の復旧作業も、急ピッチで進んでいた。


 ちなみに復旧の予算は、全て国から出ている。

 ダラク国王が市民のために、多くの予算を出してくれたのだ。

 だから街の人たちの顔にも笑顔がある。


 あと市民の顔には、もう一つのい安心感も見える。

 理由はアバロンが討伐されたから。


 数百年に渡り君臨していた暴君アバロンを、精鋭部隊が討伐した。

 市民は安心して、生活が出来るようになったのだ。


「よし、あっちにも行ってみるか!」


 そんな幸せそうで、活気のある街の光景。

 見ているだけでボクも幸せになる。

 いつもよりも遠回りして、更に眺めながら進んでいく。


「あっ、ハリトさん!」


 そんなボクに、声をかけてくる男の人がいた。


「あ、マルキンさん! おはようございます!」


 ダラク有数の大商人のマルキンさんだ。

 朝早くから、商会の倉庫前で仕事している。


「ハリトさん、聞いてくださいよ! あなたの倒してくれたアバロンの素材と戦利品が、とてつもない金額で売れそうなんですよ!」


 アバロンの素材と戦利品は、オレは全てダラクの国に寄付していた。

 他の街との交易ルートがあるマルキン商会が、国に代行して素材を売買していたのだ。


「えっ、本当ですか⁉」


「ええ、そうです! 古代竜エンシェント・ドラゴンの素材は、大陸でも初とのこと。他の国の王家からも、問い合わせが多いですよ。だから今後も小売りにしていきます!」


「おお、それは良かったです!」


 アバロンの素材の利益は、基本的に国と市民のため使われる。

 つまり高く売れるほど、市民の暮らしは潤っていくのだ。


「あとハリト君の拡張してくれた転移門も、かなり順調です」


 マルキン商会の倉庫にある転移門を、アバロン討伐後にボクは改造していた。

 大きな荷車も通れるようにしたのだ。


 まだ生物は転移できないが、輸送の効率は数倍に上がっていた。


「いえ、こちらこそ、ありがとうございます、マルキンさん! いつも街のために!」


 ボクは多少の魔法は使えるが、物流や商売のことは分からない。

 だからマルキンさんのようなプロの存在は、本当に有り難い。


 感謝して立ち去っていく。


 おっ、そろそろ時間だ。

 冒険者ギルドに向かう。


 街の光景を見ながら、仕事場に向かう。

 冒険者ギルドに到着する。


「みなさん、おはようございます!」


 ギルドに入って挨拶をする。

 事務仕事しているみんなから「よう、ハリト!」と挨拶がかえってくる。


「ゼオンさん、おはようございます!」


「おう、元気だな、今日も」


「はい! 街とマルキン商会を様子を見てきたら、なんか元気が貰えました!」


「そうだな。街も何とか、最小限の被害だったからな」


「これも精鋭部隊とギルドメンバーの皆さんのお蔭ですね!」


 火蜥蜴サラマンダーの討伐で、ゼオンさんたちギルドメンバーは奮闘していた。

 市民に犠牲が出ないように、身体を張って戦ってくれたのだ。


「まぁ、そういうお前が一番の功績なんだがな。ところで本当に、その剣でアバロンを倒した記憶はないのか?」


 ゼオンさんが視線を向けてきたのは、ボクの腰にある剣。

 自分の愛剣でありアバロンを倒したと、ゼオンさんが指摘する剣だ。


「あっ、はい、そうですね。というか、どうして、この剣が飛んできたのかも分からないですよ、実は……」


 前の剣が折れて困った時、この愛剣が閃光のように飛んできた。

 お蔭で助かったけど、本当に不思議な現象。


 まさか剣が一人で、実家から歩いてくる訳はない。


(あの時の声は、エルザ姉さんに似ていた。でも、あの後に探索しても、誰もいなかったからな……)


 一番の可能性が高いのが、姉かがあの場にいたこと。

 でもダラクの街の周囲には、彼女の探知反応はなかった。


 いや。

 そもそものボクの未熟な探知で、エルザ姉さんを見つけられたことはないんだけど。


 助かったけど、とにかく愛剣のことは、今でも謎なのだ。


「なぁ、ハリト。もしもお前の家族が、連れ戻しにきたら、どうするつもりだ?」


「えっ、家族がですか? うーん、そうですね。まずは『一人前の冒険者になりたい!』というボクの気持ちを伝えてみます。もしもダメなら“家族ルール”で抵抗してみます!」


「ん? “家族ルール”だと? そんなモノがあるのか?」


「はい。『家族間で揉め事が起きたら、決闘にて決める』みたいな感じのルールです」


「なっ⁉ そ、そいつは物騒なルールだな。もしもし、その決闘を行う時は、町から離れて頼むぞ」


「えっ? はい、分かりました」


 何やらゼオンさんは顔を青くしている。

 きっと他の醜い家族の争いは、見たくないのだろう。

 肝に命じておく。


(でも、もしも家族の誰かが、ボクを連れ戻しに来ても……ボクは“”を通そう。一人前の冒険者になるために!)


 今のボクの第二の故郷は、このダラクの街だ。

 実家に戻るのは、せめて一人前になってから。

 胸を張って家族に、顔を合わせられる時だ。


 未熟なボクが一人前になるのは、もう少し時間がかかるであろう。

 今後もコツコツと頑張っていくしかない。


「よし、今日も頑張るぞ! ゼオンさん、仕事は何かありますか?」


「うーん、そうだな。もう少し待機だな」


「はい、分かりました。それなら玄関の掃除をしてきます!」


 ダラク冒険者ギルドには専任の職員はいない。

 だからメンバー全員で運営している。

 掃除は新人であるボクの仕事だ。


 いつものように玄関を掃除していく。


 ――――そんな時だった。


 ギルド前に、馬に乗った騎士がやって来る。

 見覚えのある人だ。


「あっ、バラストさん、おはようございます!」


 やって来たのは近衛騎士団長のバラストさん。

 城の仕事でも、お世話になっている恩人だ。


「おお、ハリト殿! ギルドにいてくれか。助かった!」


 ん?

 何やらボクに用事があるみたいだ。

 どうしたんだろう?


「実は今度の週末、受勲式と祝勝パーティーが、王宮で開かれることになったのです。その案内状を持ってきました!」


 おお、なるほど。

 そういうことか。


 たしかアバロン討伐した後、王様が言っていた。

 戦勝の祝勝パーティーを、近々王宮で開催すると。

 それが週末に開催が決定したのだ。


 おそらく催街の復旧が進んできたので、開催されることになったのだろう。

 ん?

 招待状ということは、ゼオンさん宛てかな?


 今やゼオンさんはギルドマスター並に働いている。

 招待状を受けて参加するのだろう。


 でも祝賀パーティーに参加するということは、正装だよな、きっと。

 あの熊のような顔で、山賊団のボスのような風貌のゼオンさんの正装。


 想像ができないけど、楽しみだ。


「こちらがゼオンたちギルドメンバーの分です」


 おお。

 ギルドメンバーの皆も、祝勝パーティーに参加するのか。


 そっか、アバロン討伐戦で、みんな頑張ったからご褒美なのだろう。

 ということはメンバーの皆も正装するのかな?

 これは楽しみだな。


「そして、こちらがハリト殿の招待状です」


「えっ……ボクも参加するんですか⁉」


 まさかの招待状だった。

 思わず聞き返してしまう。


「はい、もちろんです。今回の受勲式の主役はハリト殿なのですから!」


「えっ……ボクは主役⁉ 受勲をされる……ですか⁉」


 こうして訳の分からないまま、週末の式に参加することになった。

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