第38話祝賀パーティー

 古代竜エンシェント・ドラゴンアバロンを討伐してから、日が経つ。

 王宮で戦勝祝いの祝勝パーティーが、開催されることになった。


 ギルドメンバーと共に、オレも受勲式と祝賀会が招待されることになった。


 ◇


 当日になる。

 オレはギルドメンバーと共に、ダラク城へ向かう。

 向かう場所は、城の敷地内にある王宮だ。


「ふう、いよいよか」


 豪華な王宮の前に到着して、ボクは深い息を吐き出す。

 自分でも分かるくらい、かなり緊張していたのだ。


 同行したゼオンさんが声をかけてくる。


「はっはっは……ハリト、そんなに青い顔をしなくても大丈夫だぞ! 別に取って食われる訳じゃないんだぞ」


「はい、そうですが……こういう正装にも慣れなく、なんか緊張しちゃいます」


 今日のボクは正装していた。

 街の貸し衣装屋さんで、着付けをしてもらった。

 タキシード風な服で、蝶ネクタイもしめてかなり窮屈な感じだ。


「ん? そうか。まぁ、そこそこ似合いっているから、心配はするな」


「ありがとうございます。それにしてもゼオンさんも似合っていますね、正装」


 ゼオンさんたちギルドメンバーも、今日は正装をしていた。

 いつもの冒険者の汚れた服ではなく、余所行きの服。


 特にゼオンさんは騎士風な正装だ。


「まぁ、昔取った杵柄、というヤツだ。だが腹が出てきたから、着るもの大変だったっがな」


「あっはっはっは……そうなんですね。でも見たかったですね、ゼオンさんがスマートな騎士時代を……」


 ダラク国王の話し方だと、騎士時代のゼオンさんはかなり有能な男だった。

 アバロン討伐でも王様は、ゼオンさんが判断と士気能力を高く買っていたのだ。


「ゼオンさんは、騎士に戻るつもりはないんですか? 王様も望んでいる感じでしたが?」


「たしかに騎士の仕事も大事だ。だが冒険者にしか守れない、市民の暮らしもあるからな。オレには、そっちの方が合っているのさ」


 ゼオンさんは自分の意思で、騎士と爵位を捨てていた。

 何か深い理由があるのであろう。


 だが今説明している、ゼオンさんの表情は清々しい。

 きっと後悔はしていないのだろう。


「まぁ、それに騎士なんて固い仕事をしていたら、昼から祝い酒を飲めねぇからな! あっはっはは……」


「そうですね」


 ゼオンさんは照れ隠しをしている。

 いつもは頼りになるアニキ肌だが、こういう照れ屋さんなところも魅力的だ。


「さて、早く中に行くぞ! 主役様!」


「えっ⁉ はい⁉」


 バラストさんの話では今日は、先に受勲式があるという。

 ボクとゼオンさんは受勲される側。


 凄く緊張してきたけど、頑張ろう。


 ◇


 その後の受勲式は、予想以上に緊張してしまった。

 場所は王宮の式典の間だ。


「つぎ、自由冒険ハリト殿。陛下の前へ」


「はい!」


 騎士や貴族が整列している中、ボクは玉座の王様の前に立つ。

 王様から色んな褒め言葉を頂いて、服に勲章を付けてもらった。


 難しくよく分からないけど、ダラクでは名誉ある勲章らしい。

 有り難く頂戴して、王様と参加者にお礼を告げた。


「つぎ……」


 その後も何人か、褒美を貰っていた人がいた。

 ゼオンさんや守備隊長ハンスさんたち、アバロン討伐戦で頑張った人たちだ。


 誰もが誇らしげにしていた。

 最後は王様から激励と感謝の言葉で、受勲式は締められる。


 ◇


 受勲式の後は、全員で迎賓館に移動。

 次はアバロン討伐の祝賀パーティーが開催される。


 先ほどの受勲式とは違い、パーティーは賑やかな感じ。

 立食形式の食事会で、身分の関係なく食事とお酒を楽しんでいる。


 宮廷音楽の生演奏がされた、華やかなパーティー会場。


 そんな中にボクも参加していた。


「もぐもぐ……うん、美味しい! この肉料理!」


 会場の端にある料理コーナで、食事を堪能していた。

 他のギルドメンバーは既に食事を終えて、お酒を飲みながら会話を楽しんでいる。


 だが育ち盛りなボクは、お酒と会話よりも、まずは食べ物の方に夢中なのだ。


「よし、次はこの麺料理にチャレンジしてみよう!」


 とにかく今は腹が空いていた。

 何しろ祝賀パーティーの開幕直後、色んな人がボクに挨拶にきてくれた。

 嬉しかったけど、お蔭で食事を食べられずにいた。


 だから今は少し遅い食事タイム。

 あまり人がいない料理コーナを独占状態していた。

 気兼ねなく料理を堪能していく。


 そんな場所に近づいてくる少女がいた。


「あっ! ハリト君!」


「ん? えっ……マリア?」


 やってきたのは同居人の少女マリア。

 だが声は同じだが、恰好はいつものマリアではない。


「マリア、そのドレスは……?」


「はい、貸し衣装です。変ですかね?」


「うんうん、凄く素敵だよ! 凄く可愛いよ!」


 マリアはパーティードレスを着ていた。

 ふわふわしたスカートで、まるでお姫様のようだ。


 あと胸元も少し空いていて、セクシーさもある。

 マリアによく似合ったドレスだ。


「あ、ありがとうございます……なんか、照れますね。ハリト君に、そう言われると」


「そうかな。でも本当によく似合っているよ! ん? そういえば、今日もマリアも受勲式に参加を?」


「はい、教会の者は午前中に、受勲式がありました。有りがたいことに私は、こんな大きな勲章を頂きました」


「おお、それは凄いね!」


「はい、ありがたいのですが、王宮の色んな人たちから『女神の代行者マリア様!』とか『時世だの大聖女様!』と呼ばれてしまい、なんか色々と混乱しています」


「あっはっはっは……お互い、大変なことになったね」


「ふう……まったくこれも全てハリト君のせいなんですかならね。でも、本当に感謝しています。ダラクの街と救ってくれて」


「まぁ、皆で頑張ったお蔭だよ。ここにいる全員の頑張りのお蔭だよ!」


 今回のアバロン討伐戦では、奇跡的に一人も死者が出なかった。

 古代竜エンシェント・ドラゴン級の魔物との戦いでは、あり得ない軽被害だという。


 理由は精鋭部隊と市民、全員の協力があったお蔭だ。


 皆の頑張りのお蔭で、今まで不遇な環境にあったダラクが、新しい幸せの時代へと突入していたのだ。


「そういえばハリト君。受勲式の陛下の話では、北の肥沃地帯に、開拓団が派遣されるみたいですね?」


「うん、そうみたいだね。王様の話だと、かなり広いみたいだね」


 都市国家ダラクの北部には、肥沃な平地が広がっていた。

 だが数百年に渡り、誰も開墾に成功したことはない。

 理由は北の暴君アバロンのテリトリーだったからだ。


「開拓が成功したら、ダラクの街は一気に豊かになると思います。今まで穀物や酪農品は、他国に依存していたので」


「たしかにそうだね。今後が楽しみだね!」


 国策として北の開拓を、王様は宣言していた。

 市民の中から有志を集い、北の平地に新たな村を作っていくのだ。


 数年後にはダラクの街には、自国の食糧で溢れかえっているだろう。


「ちなみにハリト君も、お手伝いするんですか?」


「うん、そうだね。ゼオンさんの話だと、ボクは開墾の最初を手伝うみたい。大地魔法を使えるか、って聞かれたから」


「ハ、ハリト君の大地魔法ですか。ちなみに、ハリト君が大地魔法を“少し”頑張れば、どうなるんですか?」


「うーん、そうだね。自信はないけど、たぶん北の平地は一週間あれば、開墾の基礎はできるかな? 邪魔な岩とか木なら、撤去できるよ!」


「ふう……あの広大な平地を、たった一人で、しかもたった一週間で開墾ですか……見るのが怖いです……」


「あっはっはっは……そうかな? とにかくダラクのために頑張るよ!」


 ダラク市民の生活の向上のためには、ボクも協力は惜しまない。

 今後もギルドメンバーとして頑張っていくつもりだ。


 ……「マリア!」


 そんな話をしていた時。

 マリアは神官長様に呼ばれる。

 何か大事な話があるみたいだ。


「それではハリト君、また後で」


「うん。またね!」


 マリアが立ち去って、また料理コーナに一人になる。

 さて、次は何を食べようかな?


 ――――そう思った時だった。


「ん? この視線は?」


 誰かに見られている、視線を感じた。

 会場の人からではない。


 もう上かな?

 迎賓の間にある二階席、そこかの視線だ。


「あそこかな……ん? あれは?」


 視線の先にいたのは、一人の少女。

 隠れるように、ボクのことを見ている。

 あと賑やかな会場のことも、寂しげな表情で見ていた。


「あれは……クルシュ……?」


 視線の主は王女であるクルシュ。

 ドレスを着ているが参加せず、祝勝パーティーを羨ましそうに見ていた。


 どうしたのだろうか?


 彼女の元に向かってみることにした。

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