第29話王様を説得するために

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 ダラク城での巡回中、クルシュ姫と話をする機会があった。


 翌日、突然、皆既日食に似た現象で、陽が隠れてしてしまう。

 そして危険な魔物の接近を探知する。


 ◇


「おい、野郎ども! 急いで街の市民に連絡していけ! あと、誰かハンスのところに走れ! このことを伝えるんだ! 四十分後には北の城壁に、完全武装で集合だぞ!」


「「「おー!」」」


 ゼオンさんの指示で、ギルドメンバーが一斉に動き出す。

 ボクは城の人たちに伝えるために、ダラク城に向かう。


 だが途中の通りは、人混みで溢れていた。

 誰もが皆既日食を見ている。

 このままだと道が通れない。


「うっ……凄い人だ。これじゃ進めない⁉ こうなったら、非常時だ! はっ!」


 魔法で身体能力を強化。

 通りの屋根上に登る。


「よし、このまま最短距離で城までいこう!」


 街の屋根の上を駆けていく。

 屋根を壊さないように、魔法で補強。

 尚且つ最大に近い身体能力で、駆けていく。


 お蔭で最短時間で城が見えてくる。


「おっ、見えた。でも正門は……混乱中だな」


 城の正門は、多くの人が詰めかけている。

 おそらく各町会の代表者たちであろう。


 陽の消えた異常事態に、城への対応を求めに来ているのだ。

 正門はかなり混乱中。

 おそらくボクも今回は、すんなり入れないだろう。


「仕方がない、ごめんなさい。はっ!」


 街の建物の屋根の上から、思いっきりジャンプ。

 城壁を一気に飛び越えて、敷地内に着地。


 よし、周りには誰にも見られてない。

 このままバラストさんの所に行こう。


「よし……【完全探知エクス・スキャン】!」


 城内を探知。

 バラストさんの場所を確認。


 ん?

 騎士団長たちや幹部の人たちは、謁見の間にいるぞ。

 おそらく今回のことの対策を、みんなで話し合いをしているのであろう。


 これは好都合だ。


「えーと、途中の廊下の衛兵さんに、説明するのは面倒だから……はっ!」


 またもや、一気にジャンプ。

 謁見の間までの最短のルート上にある、バルコニーに飛び乗る。


「次は、あそこが謁見の間の窓だな。はっ!」


 そして一気に目的地の窓に到着。

 こっそり窓から、謁見の間に入っていく。


 ガヤガヤガヤ……


 予想通り謁見の間は会議中。

 皆は激しい話し合い中で、ボクには気が付いていない。

 好都合だ。


 えーと、近衛騎士団長のバラストさんは……いた!


 気配を消しながら、バラストさんの後ろに忍び込む。

 こっそりと小声で話しかける。


「あのー、バラストさん、相談があります」


「ん? なっ⁉ ハ、ハリト殿⁉」


 でもバラストさんが大声で驚いてしまう。

 謁見の間の全員の視線が、隠れていたボクに集まる。


 もう、こうなったら仕方がない。

 早く皆に報告をしよう。


 まずは、王様からだ。

 一段上の玉座に座る王様の前に、片膝を付いて進み出る。


「陛下、突然、失礼しました。でも大至急な報告があります!」


「自由冒険者ハリトか。だが今は大事な会議中だ。後にしろ」


 王様は少し不機嫌そう。

 何しろ突然の皆既日食で、城の中も対応に追われている。

 一介の冒険者など、相手にしている場合ではないのだ。


「いえ、それは出来ません。この街を目指して、巨大な魔物が接近しています! かなり危険な相手です。至急、城と城下に対応の命令をしてください!」


 だがオレは強引に話す。

 今は時間がない。

 なんとか話だけでも、先に聞いて欲しいのだ。


 だが後ろの方から、邪魔が入る。


「なんだと、巨な魔物だと⁉」


「あいつは何を言っているんだ⁉」


「自由冒険者だか何から知らないが、早くつまみ出せ!」


「これだからハンス殿の提案には、ワシは反対だったのだ!」


 彼はダラクの重鎮たち。

 口調からバラストさんとは、あまり仲が良くない人たちなのであろう。

 ボクを摘み出そうとする。


 そんな状況で、バラストさんが駆けよってくる。


「ハ、ハリト殿、いきなりどうしたんだ⁉ さぁ、一度下がろう! 陛下、大変失礼いたしました!」


 ボクの身を案じているのであろう。

 退出を促してくる。


「いえ、バラストさん。退く訳にはいきません。本当に強大な魔物が接近しているのです。《満月の襲撃》とは比べ物にならない、大きな驚異です。ダラクが一丸になって対応しないと、本当に滅亡の危機です!」


 でもボクはやはり退かない。

 何故なら探知している魔物は、普通ではない。


 おそらくは皆既日食によって、何かが狂い始めている。

 危険な魔物は、城を目指しているのだ。


「ハ、ハリト殿!」

「待て、バラストよ。話をもう少し聞こうではないか? ハリトよ、魔物が迫ってくる確証は、何故あるのだ? 具体的に申せ」


 やった!

 王様が話を聞いてくれるぞ。


 よし、それなら詳しく説明を……いや、今は時間ない。


 論より証拠、王様に見てもらおう。


「では、いきます……【完全探知エクス・スキャン】&【探知共有スキャン・リンク】!」


 いつもの探知魔法を平行発動。

 共有の対象者は、謁見の間にいる全員だ。


「「「なっ……⁉」」」


 集まった幹部たちは、驚きの声を漏らしている。

 バラストさんは二度目だから、冷静に見ていた。


 あと王様も冷静さを保っている。

 これなら話が通じるかもしれない。


「陛下、これはボクの【完全探知エクス・スキャン】という探知魔法を、皆さんにも見てもらっている者です。この北から迫ってくる巨大な赤点が、問題の魔物です」


「ほほう、これは確かに【完全探知エクス・スキャン】の映像だな。久しぶりに見たが、間違いない。しかも、これほど点の大きさの魔物は……危険度Sクラスだな」


 えっ? 

 陛下が【完全探知エクス・スキャン】のことを知っていた?


 しかもかなり詳しく。どういうことだろう?


 だが今は訊ねる暇はない。

 そして理解度がここまであると、有りがたい。


「ハリトよ。ゼオンたちの状況は?」


「はい、ゼオンさんたちは市民の誘導を、ハンスさんとしています。あと四十分後に、北の城壁に集結します!」


「そうか。分かった。相変わらず的確な判断だな、男は」


 王様は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 元部下であるゼオンさんの決断の的確さを、褒めている。


 そして王様は幹部たちに向かって、声をあげる。


「皆の者! その目の前に浮かぶのは間違いなく、魔物の存在を現している! 至急、迎え撃つ準備をするぞ! 《満月の襲撃》と同じく、箇所に部隊を配置しろ。各部隊の精鋭は北の城壁に。王宮と教会にも連絡だ! あと市民は各自の地下室に避難勧告を! 魔物ごときに、遅れを取るなよ皆の者! 初代勇者様を支えたダラク王国の武の力を、見せつけてやろうぞ!」


「「「はっ!」」」


 謁見の間の幹部たちに、覇気が宿る。

 王様の激を受けて、武人としての力が溢れているのだ。


「「「いそげ!」」」


 一斉に各自で動き出し、仕事に取りかかる。

 かなりの緊急事態なのに、見事な統制されている動き。


 毎月の《満月の襲撃》によって、ダラク軍の練度は高まっているのであろう。


 謁見の間に残るのは国王と、近衛騎士だけになる。


「さて、ハリトよ。これでいいか?」


「はい、ありがとうございます、陛下! それならボクも用事を足しながら、北の城壁に行ってきます!」


「うむ。頼んだぞ。ハリト……いや、ハリト=シーリングか、お主は」


「えっ? はい!」


 いきなり王様にフルネームで呼ばれたから、ちょっとビックリした。

 でも今は時間がない。

 挨拶して、謁見の間から出ていく。


 今は急いでいるから、また窓から出ていく。


「よし、王様の理解は得られたぞ。あとは道中を補強してから、北の城壁に向かおう!」


 城壁を飛び越えて、屋根を伝って移動していく。

 街には既に非常事態宣言が出されている。


 城の警鐘が鳴り響き、市民たちは自宅の地下室に潜っている。

 万が一、街が火事になった時や、魔物が潜入した時の対策だ。


「よし、これなら“少し全力”で戦っても、大丈夫そうだな」


 街には被害を出したくないから、未熟なボクはいつもを力を抑えていた。

 だが接近してくる魔物は、普通のレベルではないのだ。


「よし、時間ギリギリまで対策と、用意しておこう!」


 移動しながら、街の防衛箇所の確認と補修。

 避難している人たちの手伝いもする。


 そして、あっとう間に集合時間となる。


 ◇


 屋根伝いに、北の城壁広場に到着。


「ふう……間に合ったぞ。おお、これは⁉」


 広場に圧巻の光景が広がっていた。


「ダラクの精鋭部隊か。これが……」


 広場に集結していたのは、ダラクの各騎士団と守備兵士団。


 教会の神聖戦士団と、宮廷魔術隊。


 そして我らが冒険者ギルドの冒険者たちだった。


「魔物との戦が、始まるのか……」


 こうしてダラクの運命を決める戦いが、幕を上げようとしていた。

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