第30話ダラク精鋭部隊

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 だがある朝、突然、皆既日食に似た奇妙な現象が起きる。

 強大な魔物が、ダラクの街を向かってくるのだ。


 ◇


 ボクの到着した北の城壁広場には、圧巻の光景が広がっていた。

 ダラクの精鋭部隊が集結していたのだ。


 ダラク軍の主力である各騎士団と、ハンスさん率いる守備兵士団。


 教会の神聖戦士団と宮廷魔術隊、ギルドの冒険者たち。


 接近してくる強大な魔物を、迎え撃つために全勢力が集結してきたのだ。


「す、凄いな……あっ、そうだ。ボクも急いで向かわないと」


 屋根の上から地面に着地。

 冒険者ギルドの集合場所に、歩いて向かう。


 緊張感のある広場の中を、進んでいく。


 そんな時、一人の騎士に声をかけられる。


「ハリト、キミも来てくれたのか⁉」


「あっ、ハンスさん。はい。微力ながらお手伝いに来ました」


 声をかけてきたのは、街の守備隊長である騎士ハンスさん。

 背後に多くの守備兵団を従えている。


「なにを言っている、ハリト君! キミこそが今回の戦いのキーマン。魔物の接近の報告は、最初は眉唾まゆつばだったが、ハリトの探知だと聞いて、私もすぐに動いたのだ!」


「そうだったんですね。ありがとうございます!」


 ハンスさんは初対面の時、かなりボクに対して辛辣しんらつだった。

 でも一緒に《満月の襲撃》を乗り切ってから、対応がすごく親身になってくれた。


 その後も街の城壁の修理にも、気軽に応じてくれて理解も深い。

 とても有りがたい存在だ。


「街の守備と、住民のことは、私たち守備隊に任せてくれ。だからハリトは思い切り頼むぞ!」


「はい、頑張ります!」


 ハンスさんから熱い激を貰い、オレは先に進んでいく。

 さて、ギルドメンバーはどこにいるのかな?


 そんな時、また声をかけてくる人がいた。


「ん? ハリト殿か?」


「あっ、カテランさん、こんにちです!」


 声をかけてきたのは宮廷魔術隊の隊長カテランさん。

 クルシュ姫の治療の時にいた男性だ。


「今日もハリト殿、頼みますぞ!」


「微力ながらお手伝いします!」


 カテランさんたち宮廷魔術隊の人には、賊を探す時に少し手伝ってもらった。

 お蔭で親しくなっていたのだ。

 みんなに挨拶をして先に進んでいく。


 そんな時、また声をかけてくる人がいた。


「ハリト殿! よくぞ来てくれた!」


「あっ、バラストさん。こちらこそ、ありがとうございます!」


 次は近衛騎士団長のバラストさんだ。

 背後に完全武装の近衛騎士団を従えている。


「あの謁見の間でのハリト殿の言葉、私も深く感銘を受けましたぞ!」


「いやー、ありがとうございます。緊急だったとはいえ、今では反省しています」


 先ほどの謁見の間では、ボクは先走っていた。

 強引に忍び込んで、強引に王様に進言。

 かなり危険が行動で今。思い出しても冷や汗が出てくる。


「あれ? でもバラストさんたちは、ここに来ても大丈夫なのですか?」


 ふと疑問が浮かぶ。

 近衛騎士団は精鋭で頼もしいが、王様の側を離れない存在。

 こんな最前線に来ても大丈夫なのかな?


 そんな時、更に声をかけてくる人がいた。


「もちろん、大丈夫だぞ、自由冒険者ハリトよ」


「あっ⁉ 陛下⁉ もしして陛下も、魔物と戦うんですか⁉」


 やってきたのは王様。

 いつもとは違い完全武装。

 全身から覇気を放っている。


「ああ、そうだ。自国の危機に、城の中に隠れている者は、王ではない。それに、こう見えて若い頃は、武で道を切り開いてきたからな」


「なるほど……そうだったんですね。有りがたいです!」


 王様は確かに強そう。

 初老だが全身から、強い覇気を放っている。


 しかも王様がいることによって、騎士と兵士団の士気が高い。

 誰も魔物に怯えている者がいないのだ。


「ハリトよ、感謝している」


「えっ⁉ ど、どうしたんですか、陛下⁉ そんな、ボクは何もしていないですよ!」


「相変わらず謙虚だな、お主は。それなら、この戦が終わった後に、ゆっくりと話をしようではないか。ワシとお前の二人きりで?」


「あっはっはは……ありがとうございます。失礼します!」


 なんか凄いことを言われてしまう。

 気まずいので、笑って立ち去る。


 ふう……緊張したな。

 まさか王様まで出陣して、声をかけられるとは。


 さて、ギルドメンバーを探していくか。


 そんな時、また声をかけてくる人がいた。

 今度は女性だ。


「あっ⁉ ハリト様⁉ 探しましたわよ!」


「あっ……ララエルさん? えっ、あなたも討伐隊に?」


 次に声をかけてきたのは、金髪縦ロールな女神官ララエルさん。

 今日は神官戦士として武装している。


「ええ、もちろんですわ! この街の危機を救うのは、偉大なる祖母【大聖女】の孫娘として、当たり前のことですわ! オッホホホ……」


「そうですか……頼りにしています」


 レイチェルさんは色々とキャラが濃いが、聖魔法の使い手としてはレベルが高い。

 魔物相手だと、かなりの心強いサポートだ。


「それにハリト様が、必ずここに来ると信じていました! まさに運命ですわね!」


「あ、ありがとうございます……あ! そろそろ行くね!」


 話が長くなりそうなので、走って逃げだす。


 ふう……悪い人じゃないけど、色々と大変なんだよな。


 でも街のために危険に冒して、助けに来てくれたのは有りがたい。

 心の中で感謝して移動する。


 そして更に声をかけてくる女性がいた。


「ハリト君!」


「マリア? えっ、キミも来ていたの⁉」


 声をかけてきたのは、同居人の女神官マリア。

 彼女も神官戦士として武装している。


「はい、街の危機と聞いて、名乗り出ました」


「そっか……ありがとう、マリア」


「あと、今回の騒動は、たぶんハリト君が裏で糸を操っていると思いましたので、同居人として責任を取るためにです」


「あっはっはは……なるほど」


 たしかに今回の大集結。

 ここまで大騒動になったのは、ボクにも少しは原因がある。

 否定はできない。


「でも頼りにしています、ハリト君。こう言っては何ですが、私たちのことを……街のことを守ってください」


「うん、そうだね。ボクも全力を尽くすよ!」


 マリアの言葉が有りがたい。

 街の人たちを守る……凄く胸が熱くなる言葉だ。

 よし、全力で頑張ろう!


「あっ、でもハリト君は“全力”は気をつけてくださいよ。この街を逆に、消滅させてしまいそうな気がします」


「あっはっはは……気を付けるね」


 たしかに未熟なボクは、攻撃力の失敗が多い。

 もう少しマリアと話をしていたいが、今は時間がない。

 先に進んでいく。


 でも今は【完全探知エクス・スキャン】を常時発動中。

 彼女の場所と状態は、常に確認が可能だ。

 何かあったら助けに向かう。


 よし、時間が迫ってきた。

 早くメンバーに合流しないと。


 あっ、いた!

 冒険者ギルドのメンバーだ。

 北の城壁の上に、早くも陣取っている。


 ボクは城壁を駆け上がっていく。


「皆さん、お待たせしました!」


 ギルドメンバーに声をかける。

 全員から「遅いぞ、ハリト!」とヤジを飛ばされる。

 でも誰もが温かく歓迎してくれた。


「おう、ハリト。ようやく来たか」


「あっ、ゼオンさん。遅くなりました。色んな人に捕まってちゃって……」


「そうだな。ここから見ていたぞ。それにしても、よくぞ陛下たちを説得してくれたな。感謝する」


「いえ、ボクはたいしたことはしていません。事情を離したら、王様がすぐに理解してくれたんです。【完全探知エクス・スキャン】のことも知っていたみたいで」


「ああ。やっぱり、そうか。でも本当にお前のお蔭で、こんなにダラクの精鋭部隊が集結できたんだな。見てみろ、すごい光景だろ?」


「はい……凄いですよね。胸がドキドキします」


 城壁の上からの光景は、まさに圧巻。

 騎士と兵士、宮廷魔術、神官戦士と冒険者。

 職種を超えて、多くの人たちが集結していた。


 彼に共通しているのは、一つの想い。


 ――――愛するこのダラクの街を必ず守る、という想いだ。


「この光景を作ったのは、お前なんだぜ、ハリト?」


「えっ? ボクがですか? まさか……」


「いや、間違いない。お前が来てから、ダラクの街は……いや、ダラクの国は大きく変わってきた。そして、これからもな」


「そんな……でも、そうなれるように、これからも頑張っていきます!」


 ゼオンさんの言葉の意味は、まだ半分くらいしか分からない。

 でも想いは伝わっていた。


 もう少し一人前になったら、ボクにも全てが分かりのだろう。


 ――――そんな時、下から歓声が上がる。


 王様が……完全武装のダラク国王が、挨拶を始めたのだ。


「ここに集まった勇敢な者たちよ! もうすぐ強大な魔物が、この街に押し寄せてくる! だが決して怯んではならぬ! 何故なら我々の背後には、大事な者たちがいるからだ!」


 王様の声は、広場に響いていた。

 終結した全て者たちが注目して、視線を向けている。


「そして我々は、この戦いに必ず勝利する! 何故ならこのダラクは、初代勇者を迎え、武によって支えてきた栄光の地! 今日の戦いで、また伝説を作るのだ、皆の者よ!」


「「「おぉおおお!」」」


 王様の激に反応して、広場に大歓声が湧きあがる。

 誰もが武器を天に掲げて、咆哮していた。


 凄まじい気迫と、士気の高さ。

 これならどんな魔物が来ても怖くない。


 ――――そう思っていた時だった。


 見張り台の兵が、声を上げる。


「魔物、発見! 北の空より接近してきます!」


 ついに目視できる距離まで、魔物が近づいてきたのだ。


 広場は臨戦態勢に入る。

 ダラク国王も確認のために、城壁の上に上がってきた。


「む、あれか……」


 王様は目を細めて、魔物を見つめる。

 まだ距離があるが、確実にこちらに近づいてきていた。


 そして隣にいるゼオンさんに、声をかける。


「ゼオンよ、あれはもしや?」


「はい、陛下。“北の覇者”かと」


「やはり、そうか。嫌な予感が当たってしまったか」


 二人は魔物のことを、知っているようだ。

 段々と輪郭が見えてきたのは、飛行系の魔物だ。


 いったい何なのだろうか、あの魔物は?


「ゼオンさん、あれを知っているんですか?」


「そうだな。このダラク市民なら、嫌というほど知っている相手……あれはダラク北地方を総べる魔物“北の覇者”アバロン……“古代竜エンシェント・ドラゴン”の一体だ」


「えっ……“古代竜エンシェント・ドラゴン”⁉」


 まさかの魔物だった。


 こうして最強の魔物“古代竜エンシェント・ドラゴン”との戦いが、幕を開けるのであった。

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