第26話新しい魔法の組み合わせ

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 今のところ駆け出し冒険者生活は順調。


 ダラク城の警備の仕事で、賊と内通者の排除のお手伝い。

 褒美として王様から『城内自由行動の権利』を貰う事ができた。


 ◇


 他の門番や警備兵の人たちも、ボクを最敬礼で出迎えてくれている。


「「「《自由冒険者》ハリト殿に、敬礼!」」」


 嬉しいけど、かなり恥ずかしい。

 ダラク城の中に進んでいく。


 まずは近衛騎士団長のバラストさんに、朝の挨拶をしてこよう。

 おっと、その前に【鑑定】を常時発動にしていこう。


 門番や通路ですれ違う人たちに、侵入者がいないか確認していく。


 そんな途中でも、すれ違う騎士と兵士に挨拶をされる。


「あっ、ハリト殿、おはようございます!」


「ハリト殿、巡回ご苦労さまです!」


 きっとバラストさんが根回しをしてくれていたのだろう。

 スムーズに進めるので有りがたいけど、やっぱり恥ずかしい。


 調子に乗らないように謙虚に、皆さんに挨拶を返していく。


 そんな感じで、バラストさんの仕事部屋に到着する。


「おはようございます、バラストさん!」


「おお、ハリト殿か。よくぞ来てくれた。今日から頼みましたぞ!」


「はい。あと、色々とありがとうございます、根回しを。今日から頑張っていきます」


 感謝をしながら、今後の打ち合わせをしていく。


「礼には及ばない。今のところ城の方は、通達を出しておいた。だから基本的には場内を巡回しても大丈夫だ」


「ありがとうございます。ちなみに近づかない方が、良い場所はどこですか?」


「それは、この地図を見てくれ……」


 城内の地図を見ながら、立ち入り禁止区域の説明を受けていく。


 ・王族や上級貴族のプライベートな部屋は駄目。


 ・宝物庫や貴重品がある場所も駄目。


 それ以外は基本的に巡回して欲しいという。


「えっ、こんなに沢山の場所に行ってもボク、大丈夫なんですか⁉」


「ああ、そうだ。また賊が、どこに忍び込むから分からないからな。例の【鑑定】で頼むぞ」


「はい、分かりました!」


 ボクが鑑定を使えることを、城内で知っているのはバラストさんだけ。

 不審者を発見したら泳がせて、バラストさんに報告することになった。


「あと城内は巡回自由だが、王宮はもう少し待ってくれ。私の管轄外だからな」


「王宮……はい、分かりました」


 王宮は、王族と一族が居住している建物のこと。

 ダラク城の敷地内にあるが、基本的には別の区画だという。


「何か困ったことがあったら、いつでも私に相談してくれ、ハリト殿」


「わかりました。それでは行ってきます!」


 バラストさんの仕事部屋から出ていく。

 城内の本格的な巡回スタートだ!


「まずは……【完全探知エクス・スキャン】!」


 探知系の魔法を発動。

 ダラク城の敷地内にいる人たちを、全員魔法の圏内に収める。


「よし、一人ずつ確認していこう!」


 探知で反応があった人物を、一人ずつ確認していく。


「おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」


 朝の挨拶をしながら、城内の人を鑑定。

 怪しい人が紛れ込んでいないか、確認していく。


 かなり根気のいる仕事だが、苦にはならない。


 何故ならダラクの国の命運が、かかっている重要な仕事。

 一人ずつ丁寧に確認していく。


「ふう……何とか、一通りは終わったな」


 夕方前に、無事に確認が終わる。


 前回に比べて、かなり時間が短縮。

 城の地形や人の顔も覚えてきたので、効率的に確認作業ができたのだ。


「うーん、でも、もう少し効率化できないかな……」


 毎日やるには、かなり大変な仕事。

 他にも仕事をしたいので、何か策を練る。


「ん? そうか⁉」


 そんな時、あるアイデアが浮かんできた。

 さっそく試してみよう。


「えーと、【完全探知エクス・スキャン】の表示と、【鑑定】の結果を、【共有リンク】させれば……」


 試行錯誤しながら、魔法を組みわせていく。

 今までにない事なので、少し難しい。


「うーんと、これで多分……おお、出来た!」


 何とか上手いった。

 一度でも【鑑定】した人は、【完全探知エクス・スキャン】の地図上にメモできるようになった。


 つまり明日からは、まずは朝一で、ダラク城の中を【完全探知エクス・スキャン】でスキャン。


 地図上に名前が表示されていない人は、今日はシフトでいなかった新規の人。

 明日からは新規の人だけを、【鑑定】していけばいいのだ。


「ふう……新しい魔法の組み合わせか。これは家族にも教えてもらわなかったから、何か楽しいな!」


 実家にいた時は、家族に教えられたことしか、ボクは身につけてこなかった。

 だが今は困難に対して、自分で試行錯誤して編み出している。


 大変だけど、とてもやりがいがある。


「よし、効率化もできたことだし、鑑定の続きに行こう!」


完全探知エクス・スキャン】の地図上では、まだ未鑑定も人たちもいる。

 目の前に気をつけながら、城内の至るとことに進んでいくことにした。


 ◇


 再巡回をしてから、少し時間が経つ。

 ダラク城内の、かなりの人物を鑑定できた。


 もうすぐ夕暮れなので、今日はあと少し頑張ってから終わりにしよう。


「おっ、こっちにも未鑑定の反応があるな。これで最後にしよう!」


 ダラク城の中庭を進んでいく。

 入り組んだ道を、反応を頼りに前進。


 ん?

 ここはどこかな?


 ちょっと高台になった庭園かな?

 なんか城っぽくない場所だな。


 あっ、未鑑定の反応が近い。

 この庭園の中にいるのかな。


 もう少し進んでみよう。


「あっ、いた、あの子かな?」


 庭園の中で、一人の少女を見つけた。


 後ろ姿で分からないけど、豪華なドレスを着ている。

 歳はボクより下かな。


「あれ? あの子は……」


 なんか見覚えが、あるような子だ。

 でも顔が見えないので、確かめられない。


 あんまり近づく者もの不審者だから、ここから鑑定をしよう。


 ――――そんな時だった。


 ボクの背後から、何者かが近づいてきた。

 鋭い殺気と共に。


「何ヤツだ、貴様は⁉」


 相手はいきなり剣で攻撃してきた。


「うわっぁ⁉」


 咄嗟に回避して、相手と距離をとる。

 まさか賊が、また来たのか⁉


 あれ?

 でも相手の人は騎士だ。


 女の人の騎士……女騎士さんだ。


「ちっ、賊のくせに鋭い奴め! 我が主クルシュ様には、指一本も触れさせんぞ!」


 えっ……どういうこと。


 クルシュ様……あのお姫様?

 あの後ろ姿の子が、クルシュ姫だったの⁉


「怪しい賊め、成敗してやる!」


 そして護衛の女騎士の人に、ボクは誤解を受けてしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る