第25話登城
家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。
今のところ駆け出し冒険者生活は順調。
ダラク城の警備の仕事で、賊と内通者の排除のお手伝い。
褒美として王様から『城内自由行動の権利』を貰う事ができた。
◇
王様から権利を貰った後。
「それでは今後も自由にしろ、冒険者ハリト!」
「はい、ありがとうございます、陛下!」
謁見は無事に終わり、ボクはゼオンさんと控えの間に戻ってきた。
近衛騎士団長のバラストさんは、まだ仕事が残っていたみたいで別の部屋に。
さて、これからどうしよう?
城門も開門される時間だから、一回マリア家に戻ろうかな。
徹夜で仕事をしていたから、身体を拭いたり、仮眠したいかも。
――――そんなこと考えていた時だった。
同じ控えの間にいたゼオンさんが、訪ねてくる。
「なぁ、ハリト。お前のさっきの願いは、あれは何だったんだ?」
「えっ、あれですか? 実はあまり深く考えてはいなかったんですが、城に自由に出入りできたら、色々と便利かなーと、思って。もしかして、マズかったですか⁉」
「いや、今となって考えてみたら、悪くはねぇぞ。お前が城を定期的に巡回してくれたら、潜入してくる賊は一網打尽だ。それに城の連中の信頼を勝ち取っていけば、宝物庫に関することも、何か分かるかもしれないからな」
「あっ……そうです。そう言われてみれば」
「あと、お前は、あの子のことが気になるんだろ? クルシュの姫さんのことが」
「えっ、はい。バレていましたか。そうですね。今あの子は回復していますが、まだかなり危険な状況です。呪印を施されている理由を調べて、なんとか対策を討ちたいと思っていました」
「やはり、そうだったのか。だが慎重にいけよ。あの姫さんの呪印を施したのは、おそらくは身内の王族だ。つまり呪印には国益に絡んでいる、可能性が高い。だから、いきなり呪印を消すとか、するなよ?」
「あっはっはは……当たり前じゃないですか、ゼオンさん」
――――うっ、危なかった!
いきなり呪印を解呪したら、駄目だったのか。
ゼオンさんにアドバイスを貰ってよかった。
「その顔は……ふう……お前はまったく。とにかく城の問題は、短期間では解決は無理だろう。長い目で、ここには通うんだぞ」
「はい、分かりました! 頑張っていきます」
ゼオンさんへの相談は終わった。
この日は二人で街に戻ることにした。
城での仕事は、明日以降にすることにした。
早朝の城を出て、城下町を歩いていく。
向かう先は、寝泊まりしているマリア邸だ。
あっ、二人とも、もう起きているぞ。
「ただいま!」
「あっ、ハリトさん、お帰りなさい。姉さん、帰ってきたよ!」
「えっ? 本当⁉ お帰り、ハリト君⁉ あの後は大丈夫でしたか? 心配していたんですよ⁉」
「いやー、ご心配をおかけしました、マリア。でも何もなかったよ」
マリアとレオン君に、帰宅の挨拶をする。
朝ご飯を食べながら、城であったことを報告していく。
「すごい! ハリトさん、賊の逮捕に協力していたんだ!」
「うっ……もしやハリト君、“あの力”を使って?」
「あの力? うん、そうだよ」
【鑑定】のことは他の人には、言わない方がいいらしい。
レオン君にバレないように、マリアに上手く返事をする。
「ふう……やっぱりそうですか。ハリト君が無双状態で賊を見つけていく光景が、私の目に浮かんできます」
「あっはっはっは……そうかな? あと、明日からお城にも仕事に行くことになったから、ボク!」
「えっ……ハリト君が、城で仕事を⁉」
「そうなんだ。もちろん冒険者ギルドの仕事をメインにして、空いた時間に城に遊びにいく、感じかな?」
「ふう……そうですか。ついに城までテリトリーに収めてしまうとは……この先、ハリト君がどうなるか、怖いです私は」
「そんなことを言わないでよ、お姉ちゃん。ハリトさんは凄い冒険者だって、何度も言っているでしょ?」
「そ、そうね、レオン。ハリト君の凄い報告を聞く、心の準備をしておきます」
こんな感じで、マリアたちへの報告は完了。
その日は冒険者ギルドに出勤して、メンバー人たちにも城での話をする。
徹夜明けのゼオンさんもいてくれたので、他のメンバーの人も理解してくれた。
今後のボクの方針もギルド内で検討。
基本的に午前中は、ギルドの仕事。
午後は城へ行くスケジュールになった。
また冒険者ギルドや城で大きな仕事があった場合は、双方に臨機応変に対応していく感じだ。
◇
翌日になる。
予定通り午前中は、冒険者ギルドの仕事をこなしていく。
そして午後になる。
初めての城への通勤をする時間だ。
前回と同じように、街の中心にあるダラク城に向かう。
あっ、でも今回はゼオンさんとハンスさんはいない。
今やギルドマスター並の仕事をしているゼオンさんは、常に忙しい。
あと騎士ハンスさんも街の守備隊長に仕事がある。
だから城には、ボクが一人で通う感じだ。
気が付くと目の前に、城の正門に近づいてくる。
「うーん、ボク一人で大丈夫かな……緊張してきたな」
何しろ前回の
場違いな子どもの冒険者な自分に対して、かなり厳しい視線が飛んできたのだ。
前回は騎士ハンスさんの顔があったら、フリーパスで守られていた感じ。
でも今回はボクしかいない。
「はっ⁉ もしも正門で追い返されてしまったら、どうしよう⁉ 『《城内自由行動の権利》なんて馬鹿げた話を、我々は聞いていない!』って門番さんに怒られたら……」
よくよく思い出したら、王様からは何の許可証も貰っていない。
つまり自分を証明する物を、自分は何も所持していないのだ。
うっ……やっぱり引き返そうかな。
――――そう思っていた時だった。
正門の番兵さんたちが、こっちに気が付く。
「ん⁉ そこのお前⁉」
物凄い勢いで番兵さんが、こっちにやってくる。
あっ、これはヤバイ。
正門前でウロウロしていたから、不審人物だと思われたのだ。
何か身分証を見せないと。
でもそんな物は、最初から持っていなかった。
ああ、どうしよう。
――――そう絶望していた時だった。
「おお、やはり! 貴方様はハリト殿! 我らの隊長が、大変お世話になりました!」
「えっ? 隊長さん?」
「はい、近衛騎士団長バラスト殿です! ハリト殿が正門に来たら、丁重にお通しするように、言われておりました!」
「えっ……バラストさんが?」
「はい! 今後も自由にダラク城に来てください! 《自由冒険者》ハリト殿!」
「あっ、はい、ありがとうございます。それでは失礼します」
有り難いことに、バラストさんが根回しをしてくれていた。
予想外の大歓迎を受けて、ボクは正門を潜っていく。
「「「《自由冒険者》ハリト殿に、敬礼!」」」
他の門番や警備兵の人たちも、ボクを最敬礼で出迎えてくれている。
嬉しいけど、かなり恥ずかしい。
下を向きながら城の中庭へと進んでいく。
「ふう……緊張したな。でも嬉しいな。あんなに歓迎されて……よし、頑張って尽くそう!」
これで明日以降も、気軽に城に来られる。
「ん? でも、あの《自由冒険者》ハリトって何だろう?」
なんか凄く大層な呼び名が、いつの間にか付いていた。
なんか城の中でも、色々とありそうな予感がする。
大丈夫かな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます