第24話捕り物

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 今のところ駆け出しとして冒険者生活は順調……だった。


 だが今は王様に呼び出しを受けて、ゼオンさんの発案で城の警護することに。


 ◇


 正門の警備の仕事の後。

 近衛騎士団長バラストさんの従者の中に、怪しい人を発見した。


「分かりました。その人が賊です! 何かで変装しています!」


 理由は【鑑定】で怪しいモノを発見したから。


「は? 何を言っているのだ、ワットソンは私の信頼置ける従者だぞ⁉ 我々、騎士を侮辱するつもりか、キサマ!」


 でも鑑定の結果は、ボクにしか見えない。

 どうやって、バラストさんに信じてもらおう。


 あっ、そうか。

 相手の“本当の姿”を、皆に見せたらいいのか!


 よし、無詠唱で魔法を唱えよう。


(いくぞ……【解呪ディスペル】!)


 ポワン!


 相手の魔法を打ち消す術を、発動。

 従者ワットソンに化けていた人は、一瞬で別の姿になる。


 ――――黒づくめ、明らかに怪しい人物だ。


「「「なっ…………⁉」」」


 その場にいた全員が、驚きの声を上げる。

 バラストさんと他の従者。


「はっ……?」


 変装していた怪しい男でさえ、自分に何が起きたから理解できずにいた。


 このタイミングだ。

 ボクはすかさず声を上げる。


「バラストさん! その人が賊の一味です!」


「くっ⁉」


 先に反応したのは賊。

 腰から短剣を抜こうとする。


 近くにいるバラストさんを、人質にとるつもりなのだ。

 危ない。


「いけ! 【風斬撃スラッシュ・カッター】!」


 自分の剣技の中でも、かなり威力が低い技を発動。

 一筋の斬撃が発射される。


 ヒューン、ザン!


 賊の身体に命中。


「うぐっ……⁉」


 その場に倒れ込む。

 威力はかなり抑えていたから、死んではいない。

 でも数日は動けないはずだ。


「大丈夫ですか、バラストさん⁉ 怪我は?」


「ああ……お蔭で、この通り無傷だ。だが今のは、いったい⁉ この者の姿は、つい先ほどまで我が従者ワットソンだったはずなのに……」


「えーと、この賊は変装。いえ……えーと、あった。この魔道具で変化していたんです!」


 気絶している賊の懐から、小さな魔道具を取り出す。


 自分の姿を、他人に見せる物だ。

 魔道具に関しては、父に厳しく教育を受けていた。


「な、なんと……私の従者に化けていたとは⁉ はっ、本物のワットソンはどこに⁉」


「たぶん、まだ生きています。この魔道具が作り的に、姿を移す相手が生きてないと、発動できです。たぶんワットソンさんは、ひと気のない城の倉庫か、どこかに眠らされているのかと思います」


「そ、そうか。それならワットソンを探さねば!」


「あっ、バラストさん。その前に、他の賊を見つけましょう! この城の中に、たぶんまだ数名が侵入しています」


 この気絶させた賊の鑑定結果の中に、他の仲間に関する情報があった。

 つまり賊は昨夜の内に数人が潜入。

 同じ魔道具で、城内の人に化けていたのだ。


 きっと今なら間に合う。

 これから夜になってから、賊は動き出すはずだ。


「な、なんと、他にもいるのか⁉ それは先に必ず見つけ出さないと! でも、この大規模な城と王宮の中から、どうやれば……」


「あっ、それは簡単です。えーと、【完全探知エクス・スキャン】&【探知共有スキャン・リンク】!」


 いつもの探知魔法を平行発動。

 共有の対象者はバラストさんと、ゼオンさん。


 二人の目の前に、探知の表示が出現する。


「な、なんだ……これは⁉ 目の前に沢山の点があるぞ⁉」


 初体験のバラストさんは、声を上げて驚いていた。


「バラスト、詳しい説明は後だ。おい、ハリト。この赤い点が、変装している賊か?」


「はい、ゼオンさん。この魔道具と同じ波長の場所……つまり賊の位置です」


 ゼオンさんは何度も体験して、かなり理解が深まっていた。

 説明は省けるので有り難い。


「あと階層も分かるように、立体的にも見えるようにしておきますね。はい、どうぞ!」


「ほほう、これは便利だな。これなら賊がどの部屋にいるか一目瞭然いちもくりょうぜんだな。おい、バラスト、どうだ? ウチのスーパールーキーを信じてみねぇか?」


「にわかに信じがたいが、偽ワットソンを瞬時に見破った事実がある。今はハリト……ハリト殿を信じよう。王国を守るためにも、急ぐぞ、ゼオン!」


「そうだな。よし、この反応を元に、虱潰しらみつぶしで賊を捕まえていくぞ。先導を頼んだぞ、ハリト!」


「はい、任せてください!」


 ボクたちは城の中を探索していく。


 ◇


 調べてみた結果、賊は色んな人物に化けていた。


 番兵や厨房の料理人、メイドや従者など全部で五人も。


「あの人が最後です、バラストさん!」


「よし、捕縛するぞ!」


「ひっ⁉ な、なんで、バレたんだ⁉」


 相手は魔道具よる変化を、過信していた。

 全員を捕縛することが出来た。


「ふう……これで一安心ですね。あっ、でも念のために、城と王宮にいる人を、全員調べていきましょう。もしかしたら違う手段で、変装している可能性もあります」


「な、なんだと、ハリト殿⁉ でも、どうやって調べていくのだ⁉」


「まぁ、バラスト。その辺は、今度酒でも飲みながら、オレが説明してやる。今日はハリトのことを信じてやりな?」


「ああ……そうだな。ここまで完璧に賊を、捕まえてくれたのだ。私も信じよう。ハリト殿の規格外の力というものを」


「ありがとうございます! それでは早速、いきましょう!」


 その後は城と王宮にいる全員に対して、ボクは【鑑定】を使っていった。


 夕方の遅い時間からの開始だったので、かなり大変な調査。


「おい、近衛騎士団長のバラストだ! 部屋を開けるぞ!」


 でも城内では特別な権利を持っている、バラストさんが全面協力してくれた。

 お蔭で翌朝までに、全員のことを調べてことが出来た。


「えーと、この人はクロです。情報を賊に売っています!」


「ひっ、な、なんで分かった⁉」


 結果として、数人の内通者を発見することに成功。

 お金のために城の情報を、違う賊に売っていた人たちだ。


 ◇


「ふう……まさか、こんなに内通者もいるとはな。だから、今まで賊が潜入してきたのか……」


 全ての捕り物を終えて、バラストさんは深いため息をついていた。

 城内の警備の担当は、この人が責任者だ。


 今まで見つけられなかったことに関して、責任を感じているのだろう。


「まぁ、そこまで落ち込むことはないぜ、バラスト。結果オーライで、これから気を付けていけばいいことさ。だろ?」


「ああ、そうだな。こういう時は、貴殿のような性分はありがたい」


 なんかバラストさんとゼオンさんが、いい感じ話をしている。

 今宵の捕り物を通じて、二人の友情が強まったみたいな?


 本当によかった。


 ――――そんな、さわやかな明朝の時間であった。


「バラスト殿、ここにいらっしゃいましたか⁉ 陛下がお呼びです! 支給、ハリト殿とゼオン殿と一緒に、謁見の間にお越しください!」


 近衛騎士の人が、血相を変えて呼びに来た。


「ああ、すぐに行く……」


 バラストさんの顔色が急に青くなる。

 もしかしたら徹夜で城と王宮の中で、大捕り物をしたから、王様に怒られてしまうのかな。


 かなり不安だ。


「すまないが、ハリト殿、ゼオン。一緒に来てくれ」


「はい!」


 でもボクたちは何も悪いことはしていない。

 胸を張って、謁見の間に向かうことにした。


 ◇


 結果として、王様は怒ってはいなかった。


「この度は、よくぞ未然に賊と、内通者を掴まえてくれた。感謝するぞ、バラストよ」


「はっ、有り難きお言葉!」


 多くの賊たちを捕まえたことに、王様は気分を良くしていた。

 何しろ王様の従者の中にも、変化した賊がいたのだ。


 下手をしていたら、今宵の内に毒を盛られていた危険性も。

 そのため王様はかなり上機嫌だ。


「恐れ多くも陛下! 今回のことは全て、ここにいるハリト殿の協力のお蔭でございます!」


「ほほう? 自分の手柄を、他人に譲るというのか? 欲深いお前にしては珍しいな、バラストよ?」


「はっ。恥ずかしながら私も、このハリト殿に命を救われた身。これ以上の欲を出したら、罰があたります」


 何やらバラストさんはボクのことを、凄く認めてくれている。


 昨夜はそれほど大したことを、ボクはしていない。

 そこまで言われると、なんか恥ずかしくなってしまう。


「それでは冒険者ハリト。お主には改めて褒美を取らせよう」


「えっ、はい。ボクに褒美をですか?」


「ああ、そうだ。もちろん我が娘クルシュに関する以外のことでな?」


「そうですね……あっはっはは……」


 王様から先に釘を刺さたので、笑ってゴマます。


 でも褒美か……何を言えばいいのかな?

 今、気になることを頼んでみよう。


 まず出クルシュ姫のことは、遠くからでもいいので、もう少し調べてみたい。


 あと城の警備のことの心配。

 完全に怪しいひとは排除したけど、また族や内通者が忍び込む可能性もある。


 今回は偶然、城にきた時に見つけただけ。

 何か良い作戦はないかな?


 ん?

 あっ……そうだ。


 これなら両方ともいけるかも。


 王様に提案してみよう。


「もしも可能なら、“権利”が欲しいです、陛下」


「ん、権利だと? どんな権利だ? 土地や爵位の権利か?」


「いえ、違いますです。望むのは『自由にダラク城に出入りできる権利』です!」


「「「なっ……⁉」」」


 ボクの提案を聞いて、隣のバラストさんと、後ろのゼオンさんが言葉を失っている。

 他の近衛騎士の人たちも、かなり驚いた顔をしていた。


 あっ……もしかしたら、マズイ望みを言っちゃった感じかな。

 急いで訂正しないと。


 だが王様が先に口を開く。


「はっはっは……どんな大きな望みかと思えば、たったそれだけのことか! 欲がない少年だな。よし、自由に出入りする権利を、与えよう、冒険者ハリトよ!」


「えっ? はい! ありがとうございます、陛下!」


 こうしてボクは望みを叶えてもらった。


 ここから先はどうするか、これから考えていこう。

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