第23話正門の仕事

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 今のところ駆け出しとして冒険者生活は順調……だった。


 だが今は王様に呼び出しを受けて、ゼオンさんの発案で城の警護の仕事をすることに。


 ◇


 王様と謁見した直後。

 城の控えの間。


「【鑑定かんてい】はそんなに難しくないから、小さい時から使えたよ? それがどうしたの?」


「うっ……やっぱり、知らないのですね、ハリト君。【鑑定】は、超特殊な魔法……【勇者魔法】なのですよ! どうして、ハリト君が会得しているんですか⁉」


 えっ……【勇者魔法】?

 どういう意味だろう?


 うちのお爺ちゃんから、普通に教わったんだけど?


「えっ? 『お爺ちゃんから教わった』……それって、つまりハリト君のお爺ちゃんが……」

「嬢ちゃん! ストップだ。それ以上は詮索しちゃならねぇ」


 マリアの言葉を、ゼオンさんが止める。

 かなり神妙な顔だ。


「でも、ゼオンさん、ハリト君の家族が……」

「それ以上の深入りは、しない方がお嬢ちゃんのためだ。分かるだろ? ハリトの家族のことは詳しく聞かない方が、オレたちの身のためだ。色々と大変なことが起こるぞ?」


「う……そう言われてみれば、たしかに。分かりました。今のは聞かなかったことにします。ふう……」


「いい子だ。あとハンスも分かるだろ?」


「ああ、もちろんだ。ハリト君のことは詮索しない……それが大人の処世術だ」


「だな。という訳で、ハリト。その【鑑定】は使ってもいいが、あまり大っぴらにバレずにだぞ?」


「あっ、はい。分かりました!」


 よく分からないけどボク以外の三人が、何かの不可侵条約みたいなのを結んでいた。

 きっと未熟なボクのために、色々とカバーしてくれているのだろう。

 ありがたい。


「よし、それなら、さっそく行くぞ、ハリト。賊野郎をあぶり出すぞ!」


「はい!」


 こうしてオレとゼオンさんは、正門の警備に向かう。


 ◇


 近衛騎士団長バラストさんの案内で、ボクは城の正門にやってきた。


「ここが、お前たちの持ち場だ。せいぜい張り切って怪しい奴を見つけるんだな!」


 城の警備隊長としてのプライド。

 今回の件で傷つけられて、バラストさんは少し怒っていた。

 外部からきたボクたちに対して、かなり辛辣しんらつな態度だ。


 これはマズイ。

 他の正門の警備兵の皆さんに、元気よく挨拶して雰囲気を良くしよう。


「えーと、それでは皆さん、よろしくお願いします!」


「「「…………」」」


 うっ……何か分からないけど、警備兵の皆さんの態度もかなり厳しい。


「まぁ、あまり気にするな、ハリト。結果を出せば、こいつらの態度も変わるだろ」


「ありがとうございます、ゼオンさん。頑張って結果を出します!」


 一緒に正門の配属になったゼオンさんから、温かいアドバイスをもらう。

 お蔭で気持ちが楽になる。


 ちなみに神官マリアは教会に戻っている。

 彼女の本分は聖魔法なので、正門の警備には向かない。


 あと騎士ハンスさんも、街の警備の仕事に戻っている。

 ボクのことをかなり心配していたけど、ゼオンさんに任せて戻ってくれたのだ。


 さて、それじゃ仕事開始。

 城に入っていく人を、一人ずつチェックしていくか。


(えーと……【鑑定】!)


 ウィーン。


 心の中で唱えて、【鑑定】を発動する。

 目の前に半透明な窓が出現。


 近くの人に向けると、その人の鑑定結果が出てくる。


「ん? その様子だと発動したのか。ちなみに、どんな情報が見えるんだ?」


「えーと、ボクは未熟なので見える情報は少ないです……」


 ゼオンさん自分の【鑑定】の能力を説明する。


 ――――◇――――


 ・対象者の氏名

 ・年齢

 ・職業

 ・レベル

 ・現住所

 ・出身地

 ・武器での戦闘力の目安

 ・魔法での戦闘力の目安

 ・習得しているスキル

 ・装備


 ――――◇――――

 

 だいたい、こんな感じだ。


「な……マジか? そんなに多くの情報が見えるのか⁉」


「いえいえ、ボクはまだまだです。お爺ちゃんは、これの二倍くらいの情報が見ます」


「ふう……そうか。それにしても色んな情報があるんだな、オレたちには。ん? 『レベル』ってなんだ? 初めて聞く概念だぞ?」


「えっ、そうなですか? えーと『レベル』はこの世界の全ての存在にある概念で、最低がレベル1で人の限界地で最高がレベル100です」


「な、なんだと⁉ 人にはそんな強さの基準があったのか⁉ 凄い大発見だな、それは⁉」


「そう言われてみればたしかに。あっ、でも他人のレベルは、軽々しく教えちゃダメだと、親から言われています」


「まぁ、そうだろうな。オレも自分のレベルなんて、聞きたくないからな。自分のことは自分で決めて、切り開いていく!」


「さすがゼオンさんですね。でも、その言葉の通り、レベルはあくまでも目安にしかならいみたいです。実際に戦闘になると、経験や戦闘スタイル、地形など色んな要素があるので、あまり過信は出来ないかんじです」


「なるほど、そいつを聞いて自信が出てきた。格上の奴を技術と知恵で倒したら、快感だからな」


「なるほどです。あっ、入場者が来たので監視してきます」


「ああ、頼んだぞ。不審な奴を見つけたら、合図しろ」


「はい!」


 それから正門の所で、監視の仕事をスタートする。

 仕事はかなり単純なもの。


 城の外から誰が来たら、少し離れた所から【鑑定】を使う。

 職業やスキルで怪しいのがないか、確認していく。


「うーん、今のところは怪しい人はいないな……」


 ダラク城の出入りは、けっこう多い。


 生活用品を運び込む商品や、職人たち。

 各町会の代表者の人たち。


 あとダラク冒険者ギルドのお蔭で、最近は西の街道が通れるようになった。

 そのため西から来る来訪者もいる。


 だが今のところ怪しい人物は、見つからない。


 ――――そのまま時間が過ぎて、夕日が沈んでいく。


「それでは正門を閉めるぞ!」


 ガッガガガ……


 陽が沈んだところで、大きな正門が閉じられる。

 防衛上の理由で、これ以降の出入りはできない。


 城の外に出るためには、明日の朝を待つ必要があるのだ。


「怪しい奴はいなかったか、ハリト?」


「そうですね。全員分を確認したんですが、誰もいませんでした」


「そうか。それなら今日は紛れてこなかった? それとも既に城の中に紛れ込んでいた? だな」


「そうですね。また明日以降ですね。これからどうしますか?」


「とりあえず城の待機所にいこう。仮眠ができる」


「なるほど、分かりました」


 ゼオンさんは元ラダク騎士。

 この城の中の勝手も分かるのだろう。

 指示に従うことにした。


 ――――そんな時、城の方から近づいてくる人たちがいた。


「おや? その様子では、見つけられなかったようだな? 噂のハリトとやらも、たいしたことないな⁉」


 やってきたのは近衛騎士団長バラストさん。

 数人の部下を引き連れていた。


 相変わらず辛辣な態度をとってくる。


「賊は今日くるとは限らねぇぞ、バラスト。それはお前も分かっているだろう?」


「おや、そうだったな。それじゃ、明日以降の仕事が楽しみだな! はっはっは……!」


 そう言い残しバラストさんは立ち去っていく。


 ――――だが、その時だった。


「ん? すみません、バラストさん! ちょっと止まってください!」


 辛辣な近衛騎士団長を、ボクは引き止める。


「ん? なんだ? 冒険者風情は私を呼び止めるとは、何様のつもりだ⁉」


「はい、申し訳ありません。でも、ちょっと気になることがあって。バラストさんの……そのお付きの兵士の人……その一番背が低い人は“誰”なんですか?」


 ちょっと【鑑定】気になる物を見つけたので、質問してみる。


「はん⁉ 何を唐突に? この者は私の従者兵の一人で、ワトソンだ! お前のような冒険者風情とは違い、本物の騎士候補だ!」


「えっ……“ワットソン”? そうか。分かりました。その人が賊です! 何かで変装しています!」


「は? 何を言っているのだ、ワットソンは私の信頼置ける従者だぞ⁉ 我々、騎士を侮辱するつもりか、キサマ!」


 うーん、口で言っても聞いてくれないな。


 どうしたものか。

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