第18話新たなる場所へ
家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。
隣街との交易ルートの足がかりを作り、『満月襲撃』の城壁の防衛の任務も完了。
同居人のマリアの魔力の流れを、正常化する手伝いも出来た。
◇
マリアの魔力が正常化して、日が経つ。
冒険者ギルドの今日の街の仕事を終えて、ボクは街の中を移動していた。
そんな時、“ある噂”が耳に入ってくる。
……「なぁ、知っているか? 最近、教会に“凄い神官の子”がいるみたいだぞ?」
……「ああ、知っている。たしか急に頭角を現してきた子だろ? 何でも物凄い聖魔法で、色んな奇跡を連発しているらしいぞ」
……「それに重病人や怪我人も、一気に治してくれるらしい。なんでも【次世代の聖女候補】って呼ばれているらしいぞ」
……「なんでも、その子は、今はこの先に孤児院で、治療の慈善活動をしているらしいぞ」
……「本当か? それじゃ、ひと目でいいから、見に行ってみようぜ」
そんな感じの街の噂だ。
「【次世代の聖女候補】⁉ 凄そう……どんな子なのかな? ちょっと見にいってみよう!」
今日は仕事も終わり、この後の用事はない。
寄り道をして、噂の【次世代の聖女候補様】を見に行くことにした。
しばらく進むと、凄い人だかりが出来ている。
あれが、そうだろう。
きっと、みんなも【次世代の聖女候補様】を見物に来たのだろう。
人だかりの最後列に並ぶ。
身長がまだ低いボクは、人だかりの隙間から、背伸びをしてみる。
うーん、ちゃんと見えないな。
神官着の女の子がいるのは、見えるんだけど、顔までは見えないな。
――――そんな時、前の人だかりが、パッと開ける。
おお、ナイスタイミング。
あそこから見てみよう。
そう思い前に進んだ時。
「おい、【次世代の聖女候補様】が通るぞ」
「道を開けてさしあげろ!」
あっ、まずい。
そういうことだったのか?
急いで、ここをどけないと。
「ん?」
そんな時、見覚えのある少女を見つける。
「あれ、マリア? こんな所で、何をしているの?」
孤児院から出て、こちらに歩いてきたのはマリア。
お世話になっている同居人だ。
「ハ、ハリト君? どうして、ここに?」
「いやー、街で【次世代の聖女候補様】っていう子の、噂を聞いて見物に来たん!」
「うっ……ついに恐れていたことが」
ん?
何やマリアが気まずい顔をしている。
どうしたんだろう?
そんな時、見物に人から、新たな声が聞こえてきた。
「おい、あの冒険者の子、【次世代の聖女候補様】と知り合いなのか?」
「いや、違うだろう。【次世代の聖女候補様】は優しいから、誰にでも答えるのだ」
「さすがは【次世代の聖女候補】マリア様だな」
そんな噂だ。
「えっ……もしかして今、巷で噂の【次世代の聖女候補様】って……マリアのこと⁉」
「ふう……そうです。でも一体誰もお蔭でこんなことになったと、思っているんですか、ハリト君!」
「えっ……」
よく分からないけど、この場で立ち話はマズイ気がする。
その日の夕方、家に帰ってから話を聞くことにした。
◇
マリア家の夕食後、いつもの団らんタイムになる。
「……という訳で、ハリト君が私を魔改造したお蔭で、あの翌日から大変だったんです。ララエル様が噂を騒いで広めたり、司祭長様や女官長様に呼ばれて、怪我人の治療をしたり、聖魔法で呪いを除去したり。それでいつの間にか【次世代の聖女候補様】なんて異名の噂が、街に広がっていたのです」
「そ、そっか、それは大変だったね。あれ? でも、おめでとう、なのかな? この場合は?」
「いえいえいえいえ、何を言っているのですか、ハリト君! つい先週まで神官見習いだった私が、いきなり何段階も昇進して、【次世代の聖女候補様】なんて、勝手に呼び名まで付けられているのですよ!」
「ご、ごめん、マリア……」
「ちょっと、お姉ちゃん。それは言いすぎだと思うよ。修行をお願いしたのは、お姉ちゃんなんだし、ハリトさんも悪気はないんだし! それにハリトさんが凄い冒険者なことは、お姉ちゃんも知っていたんでしょ!」
「うっ……レオン。そうですね、アタナ言う通りです。今までの生活が急転したので、私も混乱していたのかもしれませんね。ごめんさい、ハリト君」
「うんうん。謝らなくても大丈夫だよ、マリア。とりあえず気にしないで、これからも頑張っていこうよ」
こんな感じで、マリアの問題は片付いた。
街の【次世代の聖女候補様】フィーバーは、もう少し続くかもしれない。
でも前向きに考えたら街の人たちにも、フィーバーする余裕が出てきたことだ。
つい先月までは、生きることも大変だったダラク市民。
でも今は誰もが、心に余裕が出てきたのだ。
微力ながらも手伝いしてきたボクにとって、これ以上の幸せなことはない。
よし、今日も幸せな夢を見られそうだ。
◇
翌日になる。
今日も冒険者ギルドに出勤日。
あまり早く行き過ぎても、誰もいない。
日課の街の散策をしてから、ギルドに向かう。
「おはようございます!」
「おう、ハリト。今日も元気だな」
ゼオンさんは今日も朝一で、事務仕事をしている。
数人のギルドメンバーと、色んな仕事の受注や、報告など大変そうだ。
「ゼオンさん、今日は何か仕事がありますか?」
「うーん、今のところは待機だ。昼前には仕事がある」
「了解です!」
なるほど今は待機か。
それまで何をしようか。
あっ、そうだ。
コツコツと掃除をしていこう。
「よし、掃除をやるか! ん?」
――――玄関で掃除をしようとしていた、そんな時だった。
誰かがギルドに入ってくる。
女の人だ。
依頼人かな?
「ハリト様、見つけましたわ! 今日はこちらにいらしたのですね!」
「えっ……ララエル……さん?」
ギルドに飛び込んできたのは、金髪縦ロールな神官の女性、ララエルさんだ。
「うれしいですわ! 名前を覚えていてくださったのですね、ハリト様!」
「えーと、まぁ、はい。ところで今日は、どんな御用ですか? もしかしてギルドに依頼とか?」
「いえ、違います。先日もお願いしましたが、私の聖魔法の力を高めて欲しいのです!」
ああ……やっぱり、そのことか。
あの後も何回か、断っている。
けど全然話を聞いてくれないんだ、この人は。
マイペースというか、強引というか。
まさか冒険者ギルドにまで、乗り込んでくるとは。
ん?
ララエルさんが、冒険者ギルドに?
ボクはおそるおそる後ろを、ゼオンさんを見てみる。
「ラ、ララエル、お前、どうしてここに?」
「あら、誰かと思えば、冒険者の仕事をし過ぎて、家族に愛想を尽かされた方ではないですか?」
しまった。
恐れていたことが、やっぱり「起きてしまった。
マリアの話では、ゼオンさんとララエルさんは実の親子。
でも今の夫婦は別居中で、ララエルさんは母親側の味方。
つまりララエルさんの方は、ゼオンさんに厳しい態度なのだ。
「はぁ……相変わらず、母親に似たキツイ言い方だな。だが元気そうで、良かった、ララエル」
「な、なんですの……急に父親ぶって。
「ああ、そうだな。だからお詫びとして、欲しがっていたアクセサリーを買ってやっただろう? ん? お前、今でも、それを身につけているのか?」
「こ、こ、これは偶然ですわ! 偶然、身体に付いていたのです。決して父親から頂いたプレゼンだから、肌身離さず付けている訳でありませんから、もう!」
ん?
なんか、あれかもしれない。
ララエルさんの方は、父親ゼオンさんのことを、そこまで嫌っていない感じなのかな?
素直になれない、だけな感じだ。
「ああ、そうか。それでもオレは嬉しいぞ。いつでも、ここに……ハリトに会いに来い。ギル関係者とし、オレが許してやる」
「えっ、ゼオンさん⁉」
まさかの展開に、ボクは思わず声が出てしまう。
見るとゼオンさんの口元に、悪い笑みが浮かんでいる?
もしかしてボクを生贄にして、実の娘の顔をたまに見ようとしているの⁉
えー、それは無いでしょう⁉
「それではハリト様。ギルドの人の許しも出たので、ゆっくりとお話しましょう?」
「えーと、誰か……」
誰か助け欲しい。
ララエルさんからの束縛から。
――――そう思っていた時だった。
誰かがギルドに、駆け込んできた。
「ゼオン、大変だ!」
焦った顔で、飛び込んできたハンスさん。
街の守備隊長の騎士だ。
いつも冷静なハンスさんが、こんなに慌てているのは初めてみる。
どうしたんだろう?
幼馴染であるゼオンさんが対応する。
「どうした、ハンス?」
「実は昨夜、王城に賊が潜入した」
「なんだと、賊が? またか⁉ で、どうした?」
「なんとか賊は撃退した。だが王族の方が一人、毒を負ってしまった。その方が先ほど急に、容態が悪化してしまったのだ」
「ちっ……そいつはマズイな」
「だから手を貸して欲しい! 優れた聖魔法の使い手の助けが、今すぐ必要なのだ!」
そう言ってハンスさんの視線が、こちらに向けられる。
なるほど。
もしかしたらララエルさんのことを探しに、ハンスさんは来たのかな?
ララエルさんは少し変わっているけど、聖魔法の才人らしい。
王家の人の治療の手助けになるだろう。
「ああ、いいぜ。連れていけ。その代わりオレも付いていく。そいつは“普通”じゃないから、監視に慣れた奴が必要だ」
おお、ゼオンさんも行くのか。
これは大ごとになりそうだな。
駆け出しの冒険者の自分は、ここで成功を祈ることしか出来ない。
「それは助かる。それなら急いでいくぞ、ハリト君!」
「えっ? ボク……ですか?」
「もちろんだ、さぁ、私が同行するから、城に行きます!」
「えっ? えっ? お城に⁉ ボクが?」
こうして訳の分からないまま、ハンスさんに連れられていく。
場所はお城に。
目的は王族の人の治療に。
え……?
どうなるんだろう、ボクは……。
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