第17話マリアの手伝い

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 隣街との交易ルートの足がかりを作り、『満月の襲撃』の城壁の防衛の任務も完了。


 同居人の神官見習いマリアと、修行のために教会にいく。

 それに現れたのは気の強い女神官ララエルさん、熊のような冒険者ゼオンさんの娘だ。


 ◇


「えーーーー⁉ あのゼオンさんの娘さん⁉」


 まさかの事実にボクは、思わず叫んでしまう。


「ん? 今の名前は? やはり、あなたは、“あの最低な男”の、スパイなのですね⁉」


 ゼオンさんの名前に、過剰に反応するララエルさん。

 両親が別居中ということもあり、あまり仲は良くないのであろう。


「えーと、スパイとかでないです。今日はあくまでも個人的に、マリアの聖魔法の指導に来ました」


「ふん、どうか⁉ しかも冒険者のクセに本職である、神官に聖魔法の指導とは⁉ ふう……マリアさん、いくら才能がないとはいえ、さすがにやりすぎですわ!」


 ララエルさんの激情の矛先は、またマリアに向けられる。


「も、申し訳ないです、ララエル様。でもハリト君は、凄い聖魔法の使い手なんです。説明するのは少し難しいですが……」


「凄い聖魔法の使い手、ですって? この子が? 面白い冗談ね! どいてなさい、わたくしが見本を見せてあげるわ!」


 ララエルさんはこっちにやって来た。

 水晶に手をかざして、精神を集中していく。


「いきますわよ……【高治療ハイ・キュアー】!」


 ポアン!


 ララエルさんは回復系の聖魔法が発動。

 反応して水晶が強めに光る。


「どうですか、マリアさん⁉ 凄い聖魔法の使い手と言うのは、この聖魔法から上の使い手のことを言うのですよ!」


 ララエルさんの結果は《中》みたいだ。

 たしかに先ほどのマリアの《微弱》より、光だけは強かった。


「マリアさん、精々、無駄な努力をするのですよ! オッホホホ……」


 高笑いと共に、ララエルさんは立ち去っていく。

 なんか色々と濃い人だった。


 そんな騒がしい人は立ち去る。

 修練の間には、またマリアと二人きりになる。


「マリア、大丈夫? 元気ある?」


「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしました」


「それなら良かった。それにしてもララエルさんは、やけにマリアに態度が厳しいね?」


「そうですね。実は理由があって……」


「理由?」


「はい、実はララエル様のお母様……この司祭女官長様に、私は小さい時から、目をかけてもらっていて。それでララエル様は……」


「えーと、『マリアに嫉妬している』ってこと?」


「それかどうか分かりませんが、とにかく才能がない私のことを、ララエル様は厳しい指導を……でも、決してイジメとかではないです」


「ふーん、そういうことか。指導には色々あるからね」


 我が家の家族も、幼い時からボクに厳しかった。

 いつも『お前には才能が無いんだから、そんなに無理するな!』とよく叱られていた。


 だから厳しくされているマリアの気持ちも、分かる気がする。


「あっ、あと、マリアは聖魔法の才能があるよ。だから自信をもって」


「えっ、ハリト君⁉ でも水晶の結果が……」


「たぶんマリアの身体に……魔力の流れに原因があると思うんだ。ちょっと“診て”もいいかな、マリアの身体を?」


「はい、いいですが、どうやって?」


「出来たら、直接マリアの肌を、ボクが触るが、一番正確なんだけどな……」


「えっ、私の肌を、ハリト君が⁉」


「そうそう。出来たら体内の魔力の集まる、お腹の辺りを触りたいかな?」


「お、お腹を、直接触る……は、はい、お願いします、ハリト君」


 そう答え、マリアは神官着の一部をめくる。

 隙間から透き通るように白い肌、マリアのお腹が見える。


 いきなり大胆な行動で、ちょっとびっくりした。


「えっ……マリア……?」


「は、早くしてください。あと触っている時、ハリト君は、目をつぶってください。絶対にです」


「う、うん、分かった。それじゃ、いくよ」


 おそるおそるマリアのお腹に触る。


「ひゃっ⁉」


 手が冷たかったのか、マリアが変な声を出してプルプルする。

 よし、約束通り目をつぶろう。


「よし、それじゃいくよ……【魔力調査マナ・アナライズ】!」


 ピッ、コーン。


 マリアのお腹を触りながら、探知系の魔法を発動。

 これは対象者の体内の魔力の流れを、調べていく魔法だ。


「ん? あった! マリアの魔力の流れの中に、“詰まっている場所”があったよ!」


「ふぇ? 私の体内にですか?」


「うん、たぶん生まれた時から、これが詰まっていたから、マリアは上手く聖魔法を発動できなかったんだ」


「えっ……生まれた時から?」


「よし、それじゃ除去するね……【魔力浄化マナ・クリア】!」


 シャァーーン!


 体内の魔力の流れを、綺麗にする魔法を発動。


「えっ? ひっ……あっ、あっ、あ……」


 マリアは変な声を出して、身体をビクビクさせながら、何かに耐えていた。


 きっと魔力の詰まりと、戦っているのだろう。


 おっ、術が完了した。

 マリアの魔力の詰まりを消去できたぞ


 ボクは手を離して、目を開ける。


「マリア! 終わったよ! 調子はどう?」


「うっ……上手く説明できませんが、ピンクな物が少し見えました……」


「えっ? ピンクな物?」


「い、いえ、何でもありません。身体の調子は……アレ? 凄く、軽いです? えっ、何これは……?」


 マリアは自分全身を見つめながら、言葉を失っている。

 自分の身体でありながら、まるで別人のような感覚。


 魔力の詰まりが消滅した自分に、戸惑っているのだ。


「よし、それじゃ、試してみよう。その水晶で」


「そうですね。ふう……緊張してきました」


 マリアは水晶に近づいていく。

 意識を集中して、魔力を高めていく。


「いきます……」


 ――――マリアが【治療キュア】を発動しようとした時、先ほどの来訪者が戻ってきた。


「あら、マリアさん。また、懲りずにやっているのかしら?」


 戻ってきたのはララエルさん。

 だがマリアは気がつかず術を発動。


「【治療キュア】!」


 ポアァアアアアアン!


 マリアの回復系の聖魔法が発動。

 反応して水晶が光る。


 シャァアアアアン!


 物凄い輝きで光り出す。


 おお、凄い。

 先ほどの何倍もの輝きだ。


 きっと、これがマリアの本来の実力。

 幼いから必死で鍛錬してきた聖魔法の能力なのだ。


 彼女は今まで魔力の詰まりによって、ちゃんと発動できなかった。


 例えるならばマリアは物凄く重い石を背負って、今まで鍛錬をしていた感じ。

 だから《微弱》の強さでしか発動できなかった。


 でも今は、その重石……魔力の詰まりが取れて、一気に聖魔法の力を発揮できるようになったのだ。


 やったね、マリア。

 これがキミの本来の実力だったんだよ。


「えっ…………?」


 だが当人は変な顔をしている。

 水晶の結果を見ながら、目を点にしていた。


 もしかしたら彼女の予想よりも、悪かったのかな?

 それなら申し訳ことを、してしまったのかも。


 ごめんね、マリア。


「いえいえいえいえ、ごめんとかじゃないです、ハリト君! な、何ですか今の強烈な光は⁉ あと測定結果のこの【聖魔法】は何ですか⁉ 私、さっきまで《微弱》だったんですよ? 私に何をしたんですか⁉」


「えーと、マリアの本来の力を、ボクは戻してあげただけだよ、【魔力浄化マナ・クリア】で? 」


「いえいえ、違いますよ、ハリト君! 私も【魔力浄化マナ・クリア】は知っていますが、こんな大効果が出る聖魔法ではないです、あれは⁉ 普通はほんの少しだけ、魔力が強くなる程度なんですよ⁉」


「えっ……そうなの? 無知でごめんね。あっはっはは……」


 気まずいので、笑ってごまかしておく。

 とにかく今のマリアは何か怖い。

 大人しくしておこう。


「ふう……頼む前に、私も想定おくべきてきした。ハリト君が普通ではないことを……」


「あっはっはっは……そうかな? でも聖魔法を前よりも使えるようになったから、これから沢山の人の怪我とか治せるはずだね、マリアも!」


「ふう……そうですね。その点に関しては感謝します。ありがとうございました、ハリト君。手助けしてくれて。嬉しかったです、本当は……」


 マリアは急にしおらしくなる。

 顔を少し赤くしていた。


「えっ? うん。また、何かあったら言ってね。【魔力浄化マナ・クリア】でもっと綺麗にしてあげるから」


「いえ、それは危険なので結構です。あと今後はこの【魔力浄化マナ・クリア】は、他の人に使わないようにしてください」


「えっ、どうして?」


「ハリト君の【魔力浄化マナ・クリア】は危険すぎます。私のように“ハリト君慣れ”していないと、精神崩壊を起こしかねます」


「そ、そうなんだ。肝に命じておきます、はい」


 また怖い顔に戻ったマリアに、釘を刺されてしまった。


 やはりボクは魔法の才能が無く、未熟。

 乱用は控えていこう。


 ――――そんなことを決意していた時だった。


「マ、マ、マリアさん……今の光は、貴女が?」


 入り口で固まっていたララエルさんが、口を開く。

 そういえば、この人のことを忘れていた。


 そんなにビックリして、どうしたんだろう?


「はい、ララエル様。このハリト君のお蔭で、このような馬鹿げた結果になってしまいました。ですが、普通の人は、このハリト君の……」


「ハリト君! いえ、ハリト様⁉ どうかわたくしもお願いします!」


 マリアの説明を最後まで聞かず、ララエルさんが暴走。

 いきなりオレに駆け寄り、両手を握りしめてくる。


「えっ? ララエルさん?」


「お願い申し上げます、ハリト様!」


 ララエルさんは、かなりグイグイ近づいてくる。


 そのため彼女の身体が……特に豊か過ぎる胸が、ボクの身体に当たってくる。


「えーと、マリア……こういつ時、彼女はどうすれば?」


「……知りません! ハリト君の、えっち!」


 助けを求めたマリアは、なんか怖い顔でオレを見てくる。

 何かに対して怒っていた。


 よく分からないけど、これはまずい。


 今日の夕飯のおかずが、減りそうな予感がする。


「ご、ごめんなさい! さよなら!」


 色んなことに恐怖を感じ、ボクは逃げ出す。

 修練の間から、脱兎のごとく逃げていく。


「ハ、ハリト様……お待ち下さいー!」


 ララエルさんの黄色い声が、後ろから聞こえてきた。


 なんか……今後も大変なことに、なりそうな気がする。


 どうしよう。

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