第16話聖魔法の修行

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 盗賊団を皆で退治して、隣街との交易ルートの足がかりを作れた。


『満月の襲撃』の城壁の防衛の任務も完了。

 そんな中、同居人の神官見習いマリアから、お願いをされる。


 ◇


 マリアの家での夕食後、

 神妙な顔の彼女に頼まれる。


「実は……私に、聖魔法を教えて欲しいのです」


「えっ……ボクがマリアに、聖魔法を?」


 未熟な自分は今まで、他の人に魔法を教えたことはない。

 理論は分かるけど、自信がなかったのだ。


 でもマリアにお世話になっている。

 彼女に力になりたい。


「もしかして、迷惑でしたか、ハリト君?」


「うんうん、大丈夫。うん、聖魔法を教えるのは大丈夫だよ!」


「えっ、本当ですか?」


「ああ、もちろん。大事なマリアのためだからね! それじゃ早速、明日の安息日でもどう?」


「はい、ありがとうございます、ハリト君! それなら場所はウチの教会で、どうですか?」


「うん、分かった。それじゃ明日に」


 マリアは凄く嬉しそうな顔になっている。

 明日はボクも精一杯に頑張らないと。


「よかったね、お姉ちゃん」


「うん、ありがとう、レオン……」


「あと、せっかくだから、明日はハリトさんとデートしてくれば?」


「ちょ、ちょっと、なに言っているのよ、もう……」


 こんな感じで、いつもの感じで夜はふけていく。


 ◇


 そして翌日になる。

 今日は週に一度の安息日。


 冒険者ギルドの通常の仕事は、休み。

 だからマリアの案内で、ボクは街の教会にやってきた。


「おおー、ここがダラクの街の教会なんだね!」


 到着して思わず声を上げる。


 街の規模に対しては、かなりの大きさの建物。

 派手さはないけど、伝統と重厚感がすごい。


「ここは五十年前に“初代勇者様”が降臨された時、同じパーティーになる【大聖女様】が在籍して場所なのです。そのため大陸の中でも、特別な教会なのです」


「へー、そうだったのか」


 今から五十年に降臨した魔王。

 それを倒すために召喚されたのが、異世界人である初代勇者だ。


 大陸を守った大英雄。

 そんな彼には五人の仲間がいた。


 その内の一人が、聖魔法の使い手【大聖女様】。

 まさか、マリアが修行している教会の出身だったのか。


 思わず感心してしまう。


「それではハリト君。こっちに。神官の修行の部屋に案内します」


「あ、うん、わかった」


 マリアの案内で、教会の中を進んでいく。

 中も結構な広さがある。


 礼拝堂と、神官たちの生活の間。

 あと怪我人を治療する教会病院も、敷地内にあった。


「ここの部屋ですハリト君。ここなら聖魔法を、いくら使っても大丈夫です」


 案内されたのは、神官の修行の部屋。

 それほど広くはないが、清潔で緊張感のある場所だ。


「よし、それじゃ、さっそく聖魔法の練習をしよう。その前にマリアの実力を知りたいんだんけど……何かないかな?」


「それなら、この聖魔道具を使いましょう。術者の魔力に反応して、色が強くなります」


「へー、そんなモノがあるんだ」


 修練の間にあったのは、固定された水晶。

 手をかざして聖魔法を発すると、反応するらしい

 術者の魔力によって、《微弱から極大》までの五段階の強さで光るという。


 なるほど、これは便利だ。

 ちなみにウチに実家にも、父が作って似たような物がある。


 でも、あっちは細かい数字で、術者の魔力が表示される。

 ケタも大きすぎて分かり辛い。


 コッチの方がシンプルで、性能が上なのであろう。


「あとハリト君は、この水晶を使わないでください」


「えっ? どうして? ちょっと試してみたかったんだけど」


「いえ、駄目です。嫌な予感しかしません。この水晶は教会に、一個しかない貴重な品なのです」


「そ、そうなだ……うん、肝に命じておきます」


 万が一にでも壊したら大変。

 マリアに釘を刺さてしまったので、諦めることにした。


 よし、それなら今日はマリアの指導に精を出そう。


「それなら私が試してみます」


 マリアは真剣な顔になり、意識を集中する。


「いきます……【治療キュア】!」


 ポアン


 マリアの回復系の聖魔法が発動。

 反応して、水晶が微かに光る。


「うっ……やはり《微弱》の結果しかでませんでした……はぁ」


 結果を見て、マリアは落ち込んでいた。

 強弱の反応は分からないが、あまり良くない結果なのだろう。


「どうですか、ハリト君? 指導点を何か、気が付きましたか?」


「うーん、そうだね。指導に関してはボク素人だから、よく分からないけど、マリアは凄く基礎はしっかりしていると気がする? もしか今まで、かなり修行してきた?」


「えっ? はい。聖魔法の修行は、幼い時からしてきました。自分でも言うのは恥ずかしいですが、他の子の何倍も努力してきたはずです」


「やっぱり、そうか! マリアの聖魔法はキレイだから、ボクにも分かったよ」


「えっ……私の聖魔法が、キレイ……なんですか?」


「うん、そうだよ。きっと今までの、努力の成果だと思うよ」


 聖魔法は才能だけは、決して上達していかない。

 日々の修行やお祈り。

 生活の全てを捧げていかなと、なかなかキレイには発動できない。


 ボクも母に幼い時から、そう厳しく教えられてきた。


「ありがとう、ハリト君。でも、それでも《微弱》ということは、やはり私には才能がないのかな?」


「うーん、才能はあると、思うんだけどな。何か原因が、あるような気がするだんよね?」


 こればかりはマリアの身体を、直接調べてみないと分からない。


 ――――そんな悩んでいた時だった。


「あら、マリアさん? こんな所で何をしているのかしら?」


 一人の女性がやってきた。

 金髪縦ロールな派手な髪型だけど、神官着なのでマリアと同じ神官なのであろう。


「あっ……これはララエル様、こんにちはです」


「あら? もしかしたら、修行をしていたのですか? しかも殿方と密室で二人きりで? 見習いの身でありながら、そっちの方は随分と大胆なことね?」


 ララエルと呼ばれた女性は、かなり厳しい口調だった。

 マリアよりは少しだけ、歳上かもしれない。


 美人だけど、目つきが鋭い。

 そしてマリアに対して、厳しい態度な人だ。


「も、申し訳ありません。司祭様には許可を貰っています。この方はハリト君と言いまして、聖魔法も使える方なのです」


「あっ、名乗るのが遅くなりました。新人冒険者のハリトと申します!」


 話を振られたので、誠心誠意で自己紹介する。

 これでララエルさんの態度が少しでも、改善してくれたら嬉しい。


 ――――だが効果は逆だった。


「ぼ、冒険者ギルドですって⁉ あんな最低の人の集まり場所から、来たのですか、あたなは⁉ マリアさん、これはどういうことですか⁉ まったくこれだから……!」


 ララエルさんの態度が急変する。

 まるで親の仇のように冒険者ギルドに対して、過剰に反応してきた。


 一人でブツブツ言いながら、何か怒っている。


 いったい、どうしたのだろう。

 隣のマリアに小声で聞いてみよう。


「ねぇ、ララエルさんは、どんな人なの?」


「……実はララエル様のお婆さん様は、初代【大聖女様】で、彼女もすごい聖魔法の才女なのです」


「えっ、本当⁉ それは凄い。あと冒険者ギルドと何かあったの?」


「実はララエル様のお母様は、冒険者ギルドのゼオンさんの奥さんなのです。今は別居していますが」


「なるほど、喧嘩別れ中なのか……ん⁉ えっ、つまり、それって、ララエルさんって……?」


「はい、ゼオンさんの実の娘さんです」


「えーーーー⁉ あのゼオンさんの娘さん⁉」


 まさかの事実に、思わず叫んでしまう。


 あの熊のようなゼオンさんと、怖いけど美人なララエルさんが、実の親子⁉


「ん? 今の名前は? やはり、あなたは“あの最低な男”の、スパイなのですね⁉」


 厄介な人間関係に、巻き込まれてしまった……そんな予感がする。

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