第15話街の様子

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 盗賊団を皆で退治して、隣街との交易ルートの足がかりを作れた。


 街の危機である『満月の襲撃』で、城壁の防衛の任務も完了。


 ◇


『満月の襲撃』から日が経つ。

 今のところボクの冒険者の仕事は、順調だった。


「おい、ハリト。次はこの仕事だ。いくぞ」


「あっ、はい!」


 ゼオンさんの指示に従い、日々のギルドの仕事を手伝っていく。


 基本的にギルドの仕事は、街の中の問題解決が多い。

 冒険者ギルドは何でも屋さんなのだ。


 そんな中でもイレギュラーな仕事も、たまにある。


「ハリト君、キミに仕事を依頼したい」


「あっ、ハンスさん。仕事ですか?」


「あの北の城壁はキミの仕業だと聞いている。他の城壁の修復も、頼めるかな?」


「えっ、はい。もちろんです!」


 最近、多いのは、守備隊長の騎士ハンスさんからの依頼。

 長年の魔物の襲撃によって破損した、ダラクの街の修復作業の依頼だ。


「それはでいきますよ……【究極石壁エクス・ストーン・ウォール】!」


 前と同じ大地系の魔法を発動。


 スー、ドン! スー、ドン! スー、ドン! スー、ドン! 


 よし、成功。


「な……ゼオンから話は聞いていたが……まさか、本当に、こんな一瞬で城壁の修復が……?」


「あっ、もしかして出来がマズかったですか? もしも駄目なら、やり直しますが?」


「いや、とんでもない! これでダラクの街の防衛力は、一気に向上する! ありがとう、ハリト君!」


 なんとかハンスさんの依頼も完了。

 とても喜んでくれていた。


 そういえばハンスさんの息子さんは、元気にしているという。

 ボクのかけた【完全治癒エクス・キュアー】が成功していたのだ。


 最近ではリハビリのために、運動もしているという。

 本当によかった。


 ◇


「おい、ハリト君はいるかね?」


 あと個人的に仕事が多いのは、マルネンさんから。

 ダラクの街でも有数の大商人だ。


「ハリト君、キミの作った、この転移門なんだが、こういう事は可能かな?」


 マルネンさんの依頼は転移門のこと。

 ユフクの街とダラクを結ぶ、流通の扉の関係が多い。


「あっ、はい。そのくらいならボクでも調整可能です……はい、出来ました」


「おお、これは凄い! ありがとう、ハリト君。キミのお蔭で今まで以上に、流通が可能になる。これでダラクの市民も、生活が良くなっていく!」


「本当ですか⁉ それはボクも嬉しいです!」


 マルネンさんは流通の運営に、時間の多くを尽力している。

 この人は本当に街のことを愛していた。


 自分の利益を度返しにして、復旧に頑張っている。

 本当に尊敬できる人だ。


「ところでハリト君。街の守備隊長のハンスが、キミのことをスカウトしているらしいね?」


「あっはっはっは……そうなんですよ」


「それならウチの商会に入りたまえ! 給料は今の二倍……いや五倍は支払おう! どうだ⁉」


「えーと、次の仕事があるので、失礼します!」


 マルネンさんは良い人だが、ちょっと強引なところもある。

 一人前の冒険者を目指すボクは、逃げることしかできない。


 ◇


「さて、今日も充実した一日だったな」


 夜勤がない時は、冒険者ギルドの仕事は、基本的に夕方で終了だ。


「おい、ハリト。お前も一杯、飲んでいかないか?」


 ゼオンさんたち大人は最近、仕事帰りに酒盛りをする事が多い。

 前だと考えられない贅沢。


 だが今では普通の光景。

 マルネン商会のお蔭で、ある程度お酒も入るようになったのだ。


「えーと、ボクは今日は帰ります」


「そうか。それじゃ、また明日な!」


 ボクはあまりお酒が飲めない。

 だから仕事が終わったら、真っ直ぐ帰宅するようにしている。


 前よりも活気が出てきたダラクの街を、眺めながら帰っていく。


「ただいまです」


「あっ、ハリトさん。おかえりなさい!」


「ハリト君。おかえりです。ちょうどご飯も出来ていたので、一緒に食べましょう」


 そういえばマリアの家には、未だにお世話になっている。

 ボクは引っ越そうかと、提案したこともある。

 でも二人に引っ越すことを、止められていたのだ。


「それじゃ、いただきます!」


「「いただきます」」


 あとマリアの家に、ボクが長居している理由もある。

 それはボク自身も、ここが好きだから。


「そういえば姉さん、あの噂を聞いた?」


「噂? どんな噂なの、レオン?」


「この前の『満月の襲撃』の時の、急な落雷があったでしょ? あの魔物を全部倒した。実はあれは西の城壁に降臨した、雷神様のお蔭だったらしいんだ!」


「ぶーーー! そ、そうなの、レオン⁉ そういえば、ハリト君。あの夜は西の城壁にも行っていましたよね、あなたは?」


「え? そうだったっけ? ボク、忘れちゃったかな、マリア?」


「ふう……まさかとは思いましたが、アレもハリト君の仕業だったんですね」


「あっはっはっは……ギルドの守秘義務があるから、何とも言えないかなー、ボクは」


「あと、街の物流が急激に良くなったのも、ハリト君の仕業ですよね? あのマルネン商会にハリト君が出入りしてのを、私は見たんですよ」


「そ、それも守秘義務があるから、ボクは何も言えないなー」


「はぁ……分かってはいましたが、まさか、この街自体を、ここまで大きく変えてしまうとは。しかも困ったことに、当人が、ここまで無自覚だとは……」


「お姉ちゃん、何を言っての。ボクは最初から言っているでしょ、ハリトさんは凄い冒険者なんだって!」


「そうですね、レオン。私もそろそろ慣れないとですね」


 正直なところマリアの家は、それほど広くなく、生活も豊かではない。


 でも、この家の中は毎日、笑顔で溢れていた。

 だからボクも居心地が良いのだろう。


 例えるなら、生まれて初めて見つけた、安住の地。

 みたいな感じかのかな、ここは。


「そういえばマリアも、最近はマリアも教会の仕事、頑張っているみたいだね? この間の『満月の襲撃』の時みたいに」


「ありがとうです、ハリト君。でも私は未だに神官見習いの身。初級魔法しか使えず、正直なところ無力な自分が、歯がゆいです」


「そっか……そうだったんだ」


 そんな会話をしている時だった。


「あの……ハリト君、ちょっと個人的なお願いを、してもいいですか?」


 マリアの顔が急に真剣になる。

 すごく思いつめた表情だ。


「えっ、お願い? なにかな?」


「実は……私に、聖魔法を教えて欲しいのです」


「えっ? ボクがマリアに、聖魔法を?」


「はい。実は前から……最初にハリト君に出会った時から、あの【神聖浄化乃光ホーリー・ライト・ブレス】を見た時から、教えて欲しいと、思っていたんです」


「そ、そうだったんだ……」


 まさかのお願いだった。


 でも、この街に来てから、マリアにはお世話なりっぱなし。


 できるか恩返したい。


 でも、今まで他人に魔法を教えたことはない。


 助けてあげたいけど、かなり不安なお願いだった。


 人に魔法を教える……こんなボクに出来るのかな……。

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