第14話西の城壁攻防戦

 家出したボクはダラクという都市国家で、憧れの冒険者のなることが出来た。

 盗賊団を皆で退治して、隣街との交易ルートの足がかりを作れた。


 そんな中、騎士ハンスさんから、ギルドは城壁の防衛の任務が。

 魔物が活性化する『満月の襲撃』で、ダラクの街の外には魔物が襲ってきたのだ。


 ◇


 魔物が西の城壁に迂回していく。


「おい、野郎ども、西の城門に移動するぞ! ここは最低限の見張りが残れ。何かあったら、合図しろ!」


「「「へい!」」」


 ゼオンさん指示で、ギルドメンバーが動き出す。

 守りが弱い西へ、援軍に向かうのだ。


「ボクも行きます!」


「ああ、そうだな。頼りにしているぞ! よし、急ぐぞ!」


 ゼオンさんたちと一緒に、西の城壁に向かう。


 早く駆けていきたいけど、戦闘では集団行動が大事。

 他のギルドメンバーに歩調を合わせていく。


 街の中を移動しながら、なんとか西の城壁に到着。


 ――――だが戦闘は既に始まっていた。


「ちっ! もう魔物が城壁に張り付いてやがるな! よし、守備隊の援護をするぞ!」


「「「おう!」」」


 小型で素早い魔物が、城壁を登ろうとしていた。

 このままは街の中へ侵入を許してしまう。


 ギルドメンバーは分散して、魔物に攻撃をしかけていく。


「ハリト。お前は付いて来い! あそこが破られそうだ!」


「はい、分かりました!」


 西の城壁の中で、一番の激戦区を発見。

 ゼオンさんと二人で向かう。


 城壁の上に登り、戦況を確認。


「ちっ、あれは……ハンス!」


 守備隊長のハンスさんが城壁の上で、魔物に取り囲まれていた。


「助けるぞ! だが乱戦だ、ハリト。攻撃魔法はまだ使うなよ! お前は剣技で……軽めの剣技で頼むぞ」


「えっ、はい。分かりました!」


 なるほど。

 たしかに乱戦では攻撃魔法は、味方も傷つけてしまう。


 よし、それなら。

 威力の低い剣技でいこう。


 ハンスさんを取り囲む、魔物に群れに意識を集中。


「ふう……【風斬撃スラッシュ・カッター】!」


 ボクの剣技の中でも、かなり威力が低いのを発動。

 無数の風の斬撃が、発射される。


 ヒューン、ザン! ザン! ザン! ザン! ザン!


 よし、全弾命中。

 ハンスさんの周りの魔物は、何とか倒すことに成功したぞ。


「い、今の凄いのが“軽めの剣技”なのか、お前の中では?」


「えっ、はい」


「ふう……そうか。次は“もっと軽い剣技”で頼む。さて、ハンスの所にいくぞ!」


 ゼオンさんと城壁の上を駆けていく。


 ハンスさんは無事。

 軽傷しか負っていない。

 ふう……無事でよかった。


「お前たちは……なぜ、助けに来た! 北の城壁の守備はどうした、ゼオン⁉」


「詳しく説明して暇はないが、このハリトのお蔭で、あっちは完璧だ。それよりも、ここの西を何とかするぞ!」


「なんだと⁉ その子供のお蔭だと⁉ くっ……だが、お前のいう通りだ。早くしないと城壁が破られてしまう!」


 ゼオンさんハンスさんが焦る。

 何しろ西の城壁には、無数の魔物が押し寄せてきた。


 強さはそれほどないが、数が多すぎる。

 それに身軽な種類も多く、早くも城壁を登ってきているヤツもいた。


 早く手を打たないと、街の中に被害が及んでしまう。


「おい、ハンス! お前は西の区画に避難の指示を! ここはオレたちが持ちこたえる!」


「だがゼオン……お前を残して、行く訳にはいかない。私には守備隊長としての誇りがある」


「バカ野郎! お前の家族のことを忘れたのか⁉ 市民を守ってこその、守備隊だろうが⁉」


「ゼオン、お前……ああ、そうだったな。市民の避難は、私たちに任せておけ!」


 ゼオンさんとハンスさんが、熱く語り合っていた。

 二人は幼馴染であり、因縁があった関係。


 だが今はダラクの街を守りたい! 

 その想いで共鳴していた。


 よし、ボクも二人に負けないように、役に立たないと。


 そのやめには街の襲ってくる魔物の群れを、なんとか無力化できないかな?


 でも、攻撃魔法だと、味方にまで被害が出てしまう。

 何か良い作戦は無いかな?


 ――――あっ、そうだ。


 これなら“一応”は味方に被害が出ないはず。

 ゼオンさんに相談してみよう。


「あの……ゼオンさん、味方に被害を出さずに、魔物を無力化できる作戦を、思いついたんですが、実行してもいいですか?」


「なんだと⁉ 本当か? この状況だ、詳しく説明を聞く時間がない。頼むぞ、ハリト!」


「なっ……ゼオン⁉ こんな子どもに、何が出来るというのだ⁉」


 よしゼオンさんの許可は得られた。


 ボクは意識を集中。


 目標は【完全探知エクス・スキャン】で補足している魔物。

 ダラクを周囲の“全ての魔物”だ


 よし、準備はOK。


「いくよ……【電撃麻痺ライトニング・スタン】!」


 術を発動。

 数百の電撃が、右手から発射されていく。


 ヒュイーン……ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!


 おっ、全弾命中。

 一応【完全探知エクス・スキャン】で魔物の状況を確認。


 よし、全ての魔物を、麻痺状態にしたぞ。



 あっでも

 戦っている人たちにも、何十発か巻き込んでしまった。


 これも想定内。

 次は巻き込んで麻痺して人に、ターゲットを合わせる。


「よし……【指定治療ピックアップ・キュアー】!」


 ヒューン、キュァー!


 よし、巻き込んだ人たちの麻痺を解除できた。

 ふう、これで作戦は終わり。


 街を襲ってきた魔物の群れだけを、麻痺させて無力化。

 巻き込んだ人は、何事もなかったかのように回復させた。


 よし、ゼオンさんに報告しよう。


「お、おい……ハリト、今の雷光は、もしかして、前の盗賊の時のか?」


「あっ、はい。とりあえず前と同じように、街の周囲の魔物は全て無力化しておきました!」


「なっ……西だけじゃなくて、全部か⁉」


「はい。あっ……もしかして、まずかったですか? 他の担当区域への介入行為とか⁉」


「いや、そんなモノは無いから問題はない。だが前回の時と雷光の数が、ケタ違いだったぞ?」


「えっ? そうでしたか? 家族は、今よりももっと数が多いので、ボクはまだまだなんですよ」


「ああ、そういうことか。ふう……相変わらずだな」


 なんとかゼオンさんも納得して貰えた。


 でも未熟なボクの攻撃魔法は、危険な存在なのかもしれない。

 今後も気を付けていこう。


「おい、ハンス、大丈夫か? 初見でアレは、腰が抜けただろう?」


「ああ……大丈夫だ……だが、今、目の前に何が起きたんだ、ゼオン……?」


「上手く説明できないが、ウチのスーパールーキーは、オレたち凡人の常識では、理解が追いつかないということさ」


「ああ、そういうことか……だが、お蔭で街は守られた、ありがとう、ハリト君」


「あっ、ハンスさん。どういたしまして! ボクでよければ、いつてもお手伝いします!」


「嬉しい言葉だな。それにしても……キミのような頼もしい存在が、あの夜にいてくれたら……ウチの息子も」


「ん? あっ、そういえばハンスさんには、怪我で寝たきりになってしまった、息子さんがいるんですよね?」


「ああ、そうだが?」


「もしも良かったら、明日にでも、お宅にお邪魔してもいいですが?」


「ん……キミがか? だが、どうして?」


「ハンス、とりあえず診てもらえ。このクソッたれな街にも、“奇跡”ってヤツが起こることを信じてな?」


「なんだと……?」


 ◇


 翌日になる。


 昨夜の魔物は、全員で無事に止め刺した。


 他の城壁の守備兵の人たちは、何が起きたか理解が追いつてなかったらしい。

 その辺は守備隊長のハンスさんが、上手く誤魔化しておいてくれた。


 これで来月の『満月の襲撃』まで街は、とりあえず一息つける。


「こんにちは!」


 ボクは約束通り、ハンスさんの屋敷を訪れる。


 ベッドの上で寝たきりの息子さんに、手を触れて意識を集中。


「それでは、いきます……【完全治癒エクス・キュアー】!」


 キュイーン! ポワーン。


「パ、パパ……ボクの身体が……動くよ……立って歩けるよ!」


 ハンスさんの幼い息子さんの治療は、何とか成功した。


「ああ……ハリト君……本当にありがとう! 本当にありがとう! キミは我が家の恩人だ!」


「いえ、冒険者として、当たり前のことをしたまでです。それでは失礼します!」


 ◇


 それから数日が経つ。


 ハンスさん、また冒険者ギルドにやって来た。


「ハリト君! キミのような崇高な存在は、こんな場所にいるべきではない。私と一緒に王城に上がり、地位のある職に就くべきだ!」


「へっ……ハンスさん?」


「おい、ハンス! なに勝手にスカウトしてやがる! ハリトはウチの大事なスーパールーキーだぞ!」


「何を言っている、ゼオン。ハリト君のような存在は、こんな場所には似合わない」


「なんだと、テメェ! 西の城壁で助けてやった恩を、もう忘れたのか⁉」


「私はハリト君に助けてもらったのだ。お前ではないぞ、ゼオン」


「なんだろ、この野郎! 裏に来い!」


「ああ、望むところだ! 昔の喧嘩の決着を、つけてやる!」


 何かよく分からないけど、二人とも楽しそうだった。

 ゼオンさんとハンスさんは、無邪気な子どものように遊んでいるようだった。


 仲直りして、本当に良かった。


「……ハリト君。私は諦めた訳はない。また誘いに来る」


「えっ……」


 でもハンスさんは度々、スカウトに来るようになってしまった。


 どうなるんだろう、これから。

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