第13話城壁の防衛の任務

 魔物は月に一度の“満月の夜”に、活性化する。


 常に魔物に狙われるダラクの街。

 いつも以上に魔物が押し寄せる『満月の襲撃』の当日がやってきた。


 ◇


「いよいよ今日か……」


 ボクたちギルドメンバーは陽が落ちる前に、北の城壁に到着。

 明日の日の出まで、ここを死守する任務だ。


「ここが北の城壁か。改めて見ると、酷いな、これは……」


 到着して実感する。

 街を囲む城壁が、至る所が壊れている。

 崩れた石を登っていけば、子どもでも中に入れるぐらいだ。


「ん? というか、ここはボクが最初に、街に入った城門かな?」


 ふと思い出す。

 ダラクの街に初めて来た日のことを。


 そんな時、ボクに近づいてくる人がいた。


「おお⁉ やっぱり、あの時のボウズか? 冒険者ギルドに無事に入れたのか?」


「あっ、おじさん! その節はお世話になりました! はい、お蔭さまで無事に入団できました!」


 やって来たのは、最初に話をした門番の人。

 口は少し悪いけど、親切で冒険者ギルドの場所を教えてくれた人だ。


「うーむ。あれから少しの期間しか経っていないが、いい顔になったな、ボウズ?」


「えっへっへへ、ありがとうございます。まだ駆け出し中ですが」


「それに今宵は、ここの警備か? あまり無理はするな。死んじまった何も残らないからな!」


「はい、肝に命じておきます!」


 やっぱり優しい人だった。

 ボクのことを色々と心配してくれた。


 そんな時、ゼオンさんから集合がかかる。


「おい、集まれ! 今日の作戦を確認するぞ!」


 ゼオンさんを中心に、ギルドメンバーが集合。

 持ち場など、全体の最終確認をしていく。


 説明によると、北の城壁はボクたち冒険者ギルドが担当。

 

 他の東と西、南の城壁はハンスさんたち守備隊や、ダラク兵団が担当だという。


「作戦を頭に叩き込んでおけ。特に、そこの城壁が崩れた場所は、絶対に死守だ! 魔物や魔獣を、絶対に中に入れるなよ!」


 話によれば『万の月の襲撃』時の魔物は、それほど強力な個体は来ないらしい。

 

 だが、とにかく魔物の数が多い。

 面倒な戦いになるという。


「なるほど。分かりました!」


 説明を聞き終えて、ボクも持ち場に移動。

 城壁に上がって、遠くまで広がる荒野を監視ていく。


 時間が経っていき、段々と陽が傾いていく。

 城壁を守るギルドメンバーの緊張が、高まってくる。


 いや……ギルドメンバーだけではない。

 この町全体の緊張が高まっていた。

 

 市民たちは家の中に閉じこもり、自衛の武器を構えている。


 教会には灯り点いて、負傷者の受け入れを態勢。

 あの中に神官見習いのマリアと、避難したレオン君もいる。


 また他の三方の城壁も、同じような緊張感に。

 ハンスさんたち守備兵と正規兵が、緊張感を高めていた。


「ふう……いよいよ魔物が来るのか。緊張してきたな」


 そんな中、もちろんボクも緊張していた。

 何しろ初めての防衛戦の任務。


 色々と考えてしまう。

 特に半壊した城壁ことが、気になっていた。


 ん?

 そんな時、あることに気が付く。


 隣にいるゼオンさんに、ちょっと聞いてみよう。


「あのー、ゼオンさん。この北の城壁って、けっこう前から壊れていたんですよね。ダラクの国で直したりしないんですか?」


「ん? いきなり何だ。もちろん国でも城壁は直したい。だが職人が足りなくて、今まで放置していた。それが、どうした?」


「なるほどです。ということは、この城壁はギルドの方で、修復してもOKなんです?」


「ん? まぁ、直せるに、こしたことはない。だがオレたちの中には職人はいないからな。いたら、すぐに直したいところだ、オレも」


「ふむふむ。ということは、ボクが今、直しても大丈夫ですか?」


「ああ。ん? 『今』だと? って、お前は何を……」


 ゼオンさんから許可が出た。

 ボクは意識を集中。

 目標は、城門が大きく破損した箇所だ。


「よし、いくぞ……【究極石壁エクス・ストーン・ウォール】!」


 大地系の魔法を発動。


 スー、ドン! スー、ドン! スー、ドン! スー、ドン! 


 おお、成功した。

 巨大な石の壁が、地面から生えてきた。


 結構な数を発動しておいた。

 お蔭で、ちょうど城壁の破損した部分を、綺麗に修復できたぞ。


 あっ、一応、ゼオンさんにも仕上がりを、確認してもらおう。


「こんな感じで、大丈夫ですか? ん?」


 横を向くと、ゼオンさんの様子がおかしい。

 あと他のギルドメンバーの様子も


「「「な…………」」」


 出現した石壁を見ながら、みんなは言葉を失っている。


 あっ……。

 もしかしたら、不出来な仕上がりを見て、怒っているのかもしれない。

 謝らないと。


「い、いや……怒っているわけじゃねぇよ! 単純に驚いているだけだ。というか、あの巨大な岩盤はなんだ?」


「え? あれは大地系の【石壁ストーン・ウォール】の魔法で作りました。結構有名な魔法ですよね、たしか?」


「ああ。オレも冒険者の端くれだから、知っている。だが普通の【石壁ストーン・ウォール】は、一メートルぐらいしかなくて、薄さもこのぐらいしかない。しかも発生時間は長くはない」


「えっ……そうだったんですか。初めて知りました、無知で申し訳ないです」


「ふう……いや、謝ることじゃない。オレ、他の奴らも唖然としていただけ。まさか、こんな大地系の魔法まで、極めていたとはな……と」


「いやー、それでもボクはまだまだ未熟で。兄やお爺ちゃんは、【石壁ストーン・ウォール】で巨大な城とか作れちゃうので」


「はぁ……まぁ、そういうことにしておく。とにかく、でかしたなハリト。これで防衛戦が格段に楽になった!」


「はい、ありがとうございます。あと、魔物が近づいてきたので、また探知魔法を共有してもいいですか、皆さんに?」


「ん、あれか? ああ、頼む」


「それでは、みなさん、いきます……【完全探知エクス・スキャン】&【探知共有スキャン・リンク】!」


 前の盗賊退治と同じ、探知魔法を発動。

 各ギルドメンバーの目の前に、探知の表示が出現する。


「ん? 今回は、この赤い点の群れが、魔物か?」


「はい、ゼオンさん。赤が魔物と魔獣。白が人です。分かりやすく色付けしておきました」


「そうか。相変わらず、これは便利すぎるな。こんな暗闇でも、魔物の位置が丸分かりだな」


「恐れ入ります。ん? あれ、赤い点が迂回している?」


 その時だった。

 こちらに直進していた魔物の群れが急遽、進路を変更。


 別の方向……西の城壁に向かっていく。


「ん? どうしてだろう?」


「あー、ハリト。これは、アレだ。弱い魔物たちは本能で避けているんだ、ここを」


「本能で避けている……“何を”ですか?」


「“規格外の存在”をだ。ん? だが、この数はマズイな……西の城壁が、このままじゃ修羅場になるぞ⁉」


 ゼオンさん言っていた通り。

 魔物の群れは、極端な動きをしていた。


 そのため守備の薄い西が、危険になりそうなのだ。


「ちっ……西にはハンスの野郎がいる。おい、野郎ども、西の城門に移動するぞ! ここは最低限の見張りが残れ。何かあったら、合図しろ!」


「「「へい!」」」


 ゼオンさん指示で、ギルドメンバーが動き出す。

 守りが弱い西へ、援軍に向かうのだ。


「ボクも行きます!」


「ああ、そうだな。頼りにしているぞ! よし、急ぐぞ!」


 こうしてハンスさんたちの守る西の城壁へ、ボクたちは救援に向かうのだった。


 頼む……間にあってちょうだい。

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