第12話因縁の依頼

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 盗賊団を皆で退治して、隣街との交易ルートの足がかりを作れた。


 そんな中、新たな依頼人の騎士ハンス。

 なにやらゼオンさんと因縁がありそうだった。


 ◇


「依頼内容は前と同じように、北の城壁の夜間警備だ」


「やっぱり、そうか。また、あのクソッたれ場所の仕事か……」


“北の城壁の夜間警備”と聞いて、ゼオンさんの顔が急に曇る。

 あまりよくない仕事の依頼らしい。


「それでは依頼したぞ。さっそく今日の夜からだ」


 そう言い残し、ハンスという騎士は話を終える。

 この人はゼオンさんと、どういう関係なんだろう?


「何を見ている? ん? 子どものくせに冒険者か、お前は?」


「あっ、すみませんでした」


 あまり凝視しすぎていたらしい。

 怒られたので、素直に謝る。


「ふん。こんな年端もいかぬ子供までいるとは、ダラク冒険者ギルドも堕ちたものだな。ふん!」


 そう言い残し、騎士ハンスギルドを立ち去っていく。


 ふう……何だろう。

 冒険者ギルドに対して、やけに厳しい言い方の人だったな。


 特にゼオンさんに対して、辛辣しんらつな感じだった。

 二人は、何か関係があるのかな。


 ちょっと、聞いてみよう。


「あの……ゼオンさん」


「あいつ……ハンスは、このダラクの街の警備担当の騎士だ」


「えっ? あ、そうだったんですか」


 どうやらボクは顔に出ていたらしい。

 素直にゼオンさんの話を聞くことにした。


「アイツとは昔からの関係で……まぁ、同じ歳の幼馴染というヤツだ」


「同じ歳……ゼオンさんの方が上に見えました」


「うるせー。ふう……少し昔話をしてもいいか?」


「えっ……はい、お願いします」


「ハンスは昔から正義感に溢れて、真面目な男だった。努力して騎士になって、街の平和のために必死に頑張っていた」


「えっ……正義感に溢れて、真面目な……」


 先ほどの印象と、まるでイメージが違う話だ。

 何かあったのかな?


「数年前から、このダラクは魔物や盗賊団に襲われるようになった。オレもアイツと一緒に、街を守るために戦った」


 ダラクの城の宝物庫には、お宝がある。

 数年前から、急に魔物の群れや、盗賊団に狙われるようになったのだ。


「戦いの連続でダラクの街は、段々と疲弊していった。そしてある夜、北の城門が巨大な魔物によって破壊され、街の住人も被害が出ちまった」


「巨大な魔物……ですか」


「ああ。その被害者の中に、ハンスの家族もいた。特に、息子は崩落した家の下敷きになり、寝たきりになっちまったのさ。それ以来、あいつは変わっちまった。北の城壁を担当していた冒険者ギルドと、責任者だったオレを、憎むようになったのさ」


「そんなことがあったんですね……お二人には……」


 話を聞いて何となく分かった。

 ハンスさんが、あそこまでゼオンさんに厳しくあたる理由が。

“北の城壁の夜間警備”と聞いて、ゼオンさんが顔を暮らせた理由が。


「それでも今回も、仕事は引き受けたんですよね?」


「ああ。北の城壁はダラク外壁の中でも、一番損傷が激しい。今度の『満月の襲撃』からは守り切る必要がある」


「なるほどです……ん? 『満月の襲撃』?」


 初めて聞く単語だ。

 なんだろう。


「『満月の襲撃』は月に一度、近隣の魔物が活性化。その悪影響で魔物群れが、ダラクを襲撃してくることだ」


「満月による魔物の活性化……ああ、なるほどです」


 野生の魔物や魔獣は、満月の時期になると凶暴性が増す。


 特にダラク城の宝物庫は、近隣の魔物によって狙われやすい。

 そのため満月の夜近辺は、ダラクの襲撃が多いのだろう。


「でも大きくは損した北の城壁の夜間警備……かなり危険じゃないですか? どして冒険者ギルドが、また担当を?」


「この数年間の戦いで、騎士と兵士の数も大きく減っている。だから魔物との戦闘に慣れているオレたちが、踏ん張らないといけないのさ。このクソッたれな街を守るために」


「なるほど、そうですよね。それならボクも微力ながら、お手伝いします!」


「お前に、そう言ってもらえると助かる。それなら準備をしておいてくれ。あと明け方までの長期戦なる。週末は昼のうちに、仮眠もしておけ」


「はい、分かりました!」


 城壁の夜間警備の任務を、ボクも手伝うことになった。


 ◇


『満月の襲撃』まで数日ある。

 それまでの期間は、ボクは冒険者ギルドの雑務の仕事をこなしていく。


 そういえば城壁の夜間警備のことを、マリアに話をしたら心配された。


 ダラク市民にとって、『満月の襲撃』はかなり危険な夜。

 当日は彼女も、お手伝いとして、教会で待機しているという。


 ザワザワ……ザワザワ……


 そして『満月の襲撃』の日が近づくにつれて、市民たちの様子も変わっていく。

 せっかく明るくなってきた雰囲気が、また暗い感じなっていた。


 それほどまで『満月の襲撃』はダラクの街にとって、死活問題な夜なのであろう。

 改めて実感する。


 ――――そして『満月の襲撃』の当日となる。

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