第19話城へ

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 隣街との交易ルートの足がかりを作り、の城壁の防衛の任務も完了。


 そんなある日、騎士ハンスさんが冒険者ギルドに駆け込んできた。

 昨夜、城に賊が侵入して、王族の人が危ない状態だという。


 ◇


 王家の人を助けるには、優れた聖魔法の使い手が必要だという。


「急いでいくぞ、ハリト君!」


「えっ? ボク……ですか?」


「もちろんだ、さぁ、私が同行するから、城に行きます!」


「早くしろ、ハリト! 人命救助だ!」


「は、はい!」


 よく分からないけど、人命が危うい。

 騎士ハンスさんとゼオンさんに連れられて、ボクも城に向かっていく。


 街の中心部に向かうにつれて、段々と城が大きく見てきた。


「うわ……あれがダラク城か……大きいな」


 街の中心部の丘の上に、ダラク城はある。

 周囲を何重も城壁に囲まれて、かなり堅牢だ。

 城壁の中には王宮や詰所などもあり、規模はかなり大きい。


 そんな様子を見ながら、城の正門に到着。


「おい、止まれ!」


 数人の番兵に止められる。

 昨夜の賊の侵入で、かなり殺気だっている。


「あっ、これはハンス殿。失礼しました!」


 だが、こちらの先導人は街の守備隊長のハンスさん。

 番兵の態度から、ハンスさんは地位は高いのであろう。


「ハンス殿、後ろの方々は?」


「彼らは冒険者ギルドのメンバー。特務で城に中に案内する。これが許可証だ」


「はっ、失礼しました! どうぞ、お通りください!」


 おお、無事に通過できた。

 普通は一介の冒険者は、城には入ることは出来ない。


 Sランク冒険者など、よほどの英雄クラスじゃないと、格式ある城には入れないのだ。


「こっちです。皆さん!」


 ハンスさんの案内で、城の中を進んでいく。

 正門を潜り、中庭を通り、また曲がって門をくぐっていく。


 まるで迷路な行き方だ。


「ハリト、城は敵のあざむくために、ワザとこうした複雑な作りをしているんだ」


「あ、なるほどです、ゼオンさん」


 またボクは顔に出ていたのであろう。

 移動しながら、ゼオンさんが説明してくれた。


「この建物の中です!」


 ハンスさんが案内してくれたのは、敷地内にある建物の一つ。

 貴族が住みそうな作りの、豪華な屋敷だ。


「止まれ! ん? これはハンス殿⁉」


 屋敷の周囲は、今まで以上に厳重な警備。

 話によると昨夜の賊は、まだ捕まっていない。


 未だに城の中は臨戦態勢なのだ。


 ここもなんとか、ハンスさんの顔で通ることが出来た。


 だがボクに対する、警備の人の視線が痛い。

 一行の中で子どもっぽいのはだけだ。

 異質で怪しく見えるのであろう。


(うっ……こんな事になるのなら、もう少し、ちゃんとした服を着てくればよかったな。あっ、でも服は、これしか持っていないからな)


 ここ毎日、着ているのは、家出の時に着ていた服。

 シンプルな作りで動きやすいけど、見た目は少し地味だ。


 ちょっと恥ずかしい。

 そんなことを考えながら、屋敷の廊下を進んでいく。


「この部屋の中です」


 屋敷の奥の部屋に到着。

 扉の前に衛兵が立っていて、ひと際厳重な警備の場所だ。


 ここもハンスさんの顔で、なんとか許可が出る。


「ハリト君、ここから先は口調や態度に、気を付けて。王族の方がいます」


「あっ、はい。分かりました」


 最年少なボクは釘を刺された。

 そうか……王族の人と、これから対面するのか。


 かなり緊張してきたぞ。

 部屋に入る前に、頭の中で予習しておこう。


 参考にするのは愛読書“冒険王リック”の冒険譚。


 あの本によると……たしか王族の人には、こちらから話しかけてはいけないはずだ。


 あと大きな声を出したり、許しがあるまで相手の身体を触ってはいけない、はず。


 とりあえずは、こんなところだったなかな?

 とにかく部屋に入ったら、礼儀正しい子でいこう。


「それでは中に入ります。失礼します、ダラク守備隊長、騎士ハンス。入ります」


 ギギギー。


 重厚な扉を開けて、ハンスさんを先頭に部屋に入っていく。


 中も豪華な感じだ。

 ここは女の人の部屋かな?


 家具の色合いや、部屋の雰囲気が女性的だ。

 しかも若い感じの雰囲気だ。


 中には女性の騎士や、メイドさんたちも控えている。

 王族の人の世話係だろう。


 ここにいるのは、どんな王族の人なんだろう?


「ハリト君、それではこちらに来てください」


「あっ、はい、失礼します」


 ハンスさんに案内されたのは、奥にある寝室。

 大きなベッドの周りに、カーテンみたいな幕で囲ってある。


 侍女の人が、その幕を開けてくれる。


 そこにいたのは銀髪の少女。

 しかも見たことがある。


「えっ……マリア?」


 なんとベッドの脇に立っていたのは、神官着の少女マリア。


 えっ……もしかして、マリアは……王族だったの⁉

 今まで身分を隠して、一緒に暮らしていたの⁉


 ど、どうしよう。

 ボク不敬罪で逮捕されてしまう。


「いえ、違います。ハリト君。私も治療のために呼ばれたのです」


「えっ、そうか。ふう……心臓が止まるかと思ったよ」


 そういうことか。

 今やマリアは噂の【次世代の聖女候補様】。


 王族の人の治療のために、ボクよりも先に呼ばれていたのであろう。


 それならマリアと一緒に治療の作業をしよう。


「えーと、マリア。どんな感じ? もしかしたら、もう治しちゃったかな?」


「それがハリト君……この方の容態は少し複雑で、今の私でも対応できないのです」


「えっ……マリアでも?」


 これには驚いた。

 何しろ今の彼女は、【次世代の聖女候補様】と呼ばれる聖魔法の使い手。


 普通の賊が使う毒なら、一瞬で解毒できるはずなのだ。


「えーと、ボクも見ていいかな? 触らないから」


 ベッドの枕元には、厳しそうなメイド長さんがいた。


「……はい、どうぞ」


 その人に確認しながら、枕元に近づいていく。

 ベッドに寝ている人の顔が、見えてきた。


「ん……これは……」


 その人の顔を見て、思わず声を漏らしてしまう。

 何故ならその日は……その少女は“普通の状態”ではなかったのだ。


(これは……たしかに。マリアが言っていたとおり、複雑な状態だな)


 ベッドにいたのは少女だった。

 歳はボクやマリアより、少し下であろう。


 でも異様に痩せすぎていて、正確な年齢が分からない。

 成長が滞って、普通に発育をしていないんのだ。


(原因は間違いない。この子の顔と身体に浮かんでいる、コレか)


 ボクが驚いた理由は、少女の身体の様子にあった。

 幾何学きかがく模様のような文様が、全身に浮かんでいたのだ。


(これは賊の毒の影響じゃない。これはこの子が幼い時から施された……呪印だ!)


 少女の身体の浮かんでいたのは、人工的な呪印だった。

 呪印を得意とするウチのお婆ちゃんから、前に教わったことがある。


(全身を見ないと分からないけど、この形式は何だろう? でも何故、誰が、こんな酷いことを⁉)


 普通は人の身体には、呪印なんて施さない。

 何故なら力を得る以上に、危険が大きいのだ。


 これほどの大規模な呪印なら、命の危険性もある。

 間違っても、王族の少女に施すものではない。


 ――――そんな時だった。


 寝室に誰かが入ってきた。


「あなたたち、早く出ていきなさい!」


 ヒステリックな叫びと共に、飛び込んできたのは大人の女性。

 豪華で派手なドレスを着た、貴族風の人だ。


 いったい誰だろう?

 ハンスさんが女性に駆け寄る。


「王妃様、どうぞお静まりください。この者どもは、クルシュ姫様の治療のために……」


「そこをどくのだ、ハンス! 我が娘クルシュには、誰にも触れさせないわ!」


 王妃様?

 えっ、ということは、この国の王様の奥様な人⁉


 そして呪印のこの少女は、王女様?


 なんか……普通の治療は不可能な感じになってきた。

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