第10話盗賊退治

 家出したボクは転移装置で、遠い地に転移。

 ダラクという都市国家に到着。


 駆け出しだけど、憧れの冒険者のなることが出来た。


 冒険者としての初の任務は、商隊の護衛。

 危険な街道沿いの森を前に、盗賊団を探知した。


 ◇


完全探知エクス・スキャン】で、森の隠れている盗賊団を丸裸にした。


「よし、それなら行くぞ、野郎ども!」


「「「おー!」」」


 リーダー格のゼオンさんの号令で、ギルドメンバーの奇襲部隊が出撃。

 防衛が得意な者を、商隊に残していく。


 奇襲部隊は街道から、森の中に侵入していく。


「それにしても、ハリト。この【探知共有スキャン・リンク】というのは便利すぎるな。相手が動いているのも、丸分かりなんだな?」


「はい、ゼオンさん。今はボクが常に【完全探知エクス・スキャン】を発動しているので、相手の動きを皆さんに共有しています」


「そうか。よく分からないが、とにかく有り難いな」


「いえいえ、どういたしまして。あっ、その先に罠があるので気を付けてください、皆さん。とりあえずボクの方で解除しておきます」


 進行方向に巧妙に隠された、危険な罠を発見した。

 おそらく盗賊団が設置したものであろう。


 簡単な物だったので、先頭のボクでパパっと解除しておく。


「お、おい、ハリト⁉」


 だが後ろのギルドメンバー。

 森の中を得意とする森林狩人レンジャーの人から、声があがる。


「ハリト……その罠が見えていたのか、お前? しかも、そんなあっさり解除を?」

 」

「えっ、はい。すごく雑に設置されていたので、見つけるのは簡単でした。簡単な罠だったので、解除も簡単でした? それがどうしかしましたか?」


「いや、『簡単』じゃなかったぞ⁉ 一応はプロであるオレでも、遠目には気がつかなかったぞ⁉ もしかしたら、また魔法で見つけたのか?」


「えっ? いえ。魔法は使っていません。実はボク小さい時から、森での活動は、厳しく教えられてきたもので」


 家の人たちは何でも、ボクに厳しく教えてきた。

 森の中での活動も、その一つ。


 お婆ちゃんが担当で教育されてきたのだ。


 あれは本当、大変な訓練。

 裸同然で、見知らぬ樹海に、放り込まれたりもした。

 お蔭で色んな知識と、技術を会得。


 でもボクは森林狩人レンジャーの才能がなかった。

 だから簡単な罠しか見つけられないのだ。


「い、いや、お前の森の中での動きは、間違いなくAランク森林狩人レンジャー以上の実力だぞ⁉」


「えっ? どういうことですか……?」


「ふう……剣術や聖魔法、特殊魔法だけじゃなくて、森林狩人レンジャーも達人級だったのか……まったく、ウチのスーパールーキーときたら……」


「えっへっへへ……なんか、よく分かりませんが、ありがとうございます」


 そんな感じのことを話しながら、森の中を進んでいく。


 しばらく進むと、賊の根城らしき場所を発見。

 移動を中断して、ゼオンさんに指示を仰ぐ。


「みなさん、止まってください。見張りもいます。これから、どうしますか、ゼオンさん?」


「そうだな。出来れば奇襲をしかけて、一網打尽にしたいが、なかなか堅牢なアジトだな、ありゃ」


「そうですね。手前の見張り台に手こずったら、更に奥に逃げていきそうですね」


 盗賊団のアジトは何段階にも、森の要塞と化していた。

 さすがは大規模な盗賊団だけある。


「さて、どうしたものか? 出来たら一気に、相手を無力化したな」


「あのー、ゼオンさん。もしかして、こういう場合って、直接武器で制圧しなくても、いいんですか?」


「ん? 何を言っているんだ、ハリト? もちろん、こちらが無傷で終わるなら、それに越したことはない」


「分かりました。それなら“ちょっと”試してみます」


 ボクは意識を集中。

 目標は【完全探知エクス・スキャン】で補足している、全ての盗賊団員。


 よし、準備はOK。


「いくよ……【電撃麻痺ライトニング・スタン】!」


 術を発動。

 数十の電撃が、右手から発射されていく。


 ヒュイーン……ビリビリビリビリビリビリビリビリ!


 おっ、全弾命中。

 一応【完全探知エクス・スキャン】で確認しておこう。


 よし。

 盗賊団の全員を、麻痺状態にしたぞ


 ふう、これで終わり。

 盗賊団を無力化できたぞ。


 さて、これ脅威は収まった。

 ゼオンさんたちにも報告しないと。


 ん?

 後ろのゼオンさんの様子が、何かおかしいぞ。


「「「なっ…………」」」


 全員が目を点して、言葉を失っている。

 身体も固まっていた。


 あっ、もしかして今の電撃攻撃で、皆まで麻痺させちゃったかな?


 そんな中、ゼオンさんが口を開く。

 よかった、麻痺させていなかったんだ。


「ハ、ハリト……今のは、何だ?」


「えっ? 今のですか? 【電撃麻痺ライトニング・スタン】という攻撃魔法です。とりあえず盗賊団は全員麻痺させて、無力化しました」


「な……あの一瞬で、全員をか?」


「あっ、はい。ゼオンさんが『出来たら一気に相手を無力化したい』と言っていたのでので。あ、もしかしたら何かマズかったですか? ギルドの暗黙のルール的にとか? 人道的にとか?」


「い、いや、問題はない。あまりに一瞬で終わったんで、オレたちは唖然としていたんだ」


「そうだったんですか」


「ふう……それにしてもお前、攻撃魔法も使えたんだな? 聖魔法と特殊魔法だけと思っていたが、まさか攻撃魔法まで達人級だとはな……」


「えっ? 基準がよく分かりませんが、我が家ではボクは、それほど攻撃魔法が得意な方ではないんですよ……」


 兄ラインハルトは魔法を得意としていた。

 世間的に兄が、どのくらいのレベルか分からない。


 でも魔道学園にも行かず、いつも兄は家にいる。

 だから、それほどレベルは高くはないのであろう。


 そんな兄にさえ、ボクはまるで勝てない。

 つまりボクには魔法の才能はないのだ。


「はぁ……お前んちの基準は、相変わらずよく分からな。とにかく今後は攻撃魔法を発射する前に、オレに確認をとってくれ」


「あっ、はい、分かりました。ちなみに、どうしてですか?」


「いや、お前の場合だと術の選択をミスったら、この森ごと消し炭にしかねないからな」


「あっはっはっは……肝に命じておきます」


 ふう……危なかった。

 森ごと賊を焼き払うのは、やっぱり駄目だったのか!


 電撃の方にしておいて、正解だった。

 とにかく今後は、ゼオンさんたち大人に確認してから、攻撃魔法は使うようにしよう。


「よし、それじゃ、賊どもを捕縛にいくぞ! 西の街に行ったら、たんまり懸賞金も貰えるぞ!」


「「「おー!」」」


 こんな感じで、街道沿いの盗賊団の退治は、無事に成功した。


 ◇


 それから日が経つ。

 商隊は無事に、西の街ユフクに到着。


 凶悪な盗賊団は麻痺したまま、街の憲兵隊に引き渡していた。

 あの盗賊団はこの街でも、かなり厄介な存在だったらしい。


 憲兵から感謝を受けて、ギルドは懸賞金を沢山もらった。


 ちなみにボクの分は辞退して、全部ギルドの運営資金にしてもらった。


 理由は、早くダラク冒険者ギルドを“正常化”させたいから。

 冒険譚に描かれているような、夢と活気があるギルドに。


「さて、野郎ども。仕事はまだ終わってないぞ! 商隊の荷物を降ろしたら、次は生活必需品の積み込みだ!」


「「「おー!」」」


 街に到着しても、ギルドメンバーは忙しい。

 困窮しているダラク市民のために働く。

 詰めるだけ生活必需品を買い込んで、帰還しないといけないのだ。


 そんな中。

 作業している商隊に人たちの会話が、ボクの耳に聞こえてきた。


「ふう……でも今回は上手く到着できたけど、今後はどうなることやら……」


「ああ、そうだな。あの危険なルートを、今後、何往復もすると思うと、気が滅入るな……」


「だが、待っている家族や、ダラクの市民のためにも、この商隊は最後の生命線だからな……」


 話して内容は、今後の活動について。

 危険な往復の街道を、誰もが不安がっていた。


 そうか、そんな問題があったのか。

 出来ればボクも微力ながら、助けてあげたい。


 問題の解決方法を模索してみる。


「危険な街道を、往復しないで済む方法。あとは安全に物資をダラクに届ける方法。なおかつダラクの特産品を、このユフク街まで持ってきてくる方法。ん? あっ! そうだ!」


 その時だった

 あるアイデアが浮かんだ。


 さっそくゼオンさんに相談してみよう。


「あのー、ゼオンさん。今後の商隊の輸送に関して、相談があるんですが?」


「ん? どうした、ハリト? また悪いことでも考えたのか?」


「い、いえ、違います。仮にです、この街とダラクの間で、商隊の荷馬車を使わずに、物資だけ移動で出来たら、特に問題はありませんか? 商隊の人の商売的に?」


「ん? 変なことを聞いてくるな? それなら問題はない。むしろ商隊の連中は大喜びだろうな。危険な商隊に人員を割かずに、商売だけに専念できるからな。それがどうした?」


「分かりました。えーと、あっ、この倉庫の使わない扉を、少し借りてもいいです?」


「ん? ああ、別にいいが、そんな壊れた扉をどうするつもりだ?」


 ゼオンさんの言葉で、倉庫の中の人たちの注目が集まる。

 商隊の人も手を休めて、何事かと見てくる。


「ちょっと待っていてくださいね……」


 ボクは意識を集中。

 目標は目の前の扉。


 ダラク街のマルネン商会の倉庫を、思い出し頭の中でイメージする。


「よし……いくぞ、【転移門付与ゲート・エンチャント】!」


 ポワン。


 扉が明るく光る。

 おっ、成功した。


「ん? ハリト、今は何したんだ? 扉の修理の魔法か?」


「いえ、違います、ゼオンさん。試しに、この扉を開けてみてください?」


「ん? 不思議なことを言うな? どれ、何が出てきもて、オレは驚かないぞ、今回は?」


 ガチャ。


 ゼオンさん扉を開ける。

 倉庫内の全員の注目が、その先に集まる。


 どれどれ、ボクも確認してみよう。


 おっ、成功していた。

 ちゃんと転移先が繋がっているぞ。


 ねぇ、どうですか、ゼオンさん?

 ん?


 ゼオンさんの様子がおかしい


「な…………」


 また目を点にして、言葉を失っている。


 そして他の人たちも。


「「「なぅ…………」」」


 倉庫内にいるギルドメンバーと、商隊の全員が固まっていた。

 扉の向こうを凝視したまま。


 そんな中でゼオンさんが、いち早く復帰。


「お、おい、ハリト……この扉の向こうに見える倉庫は、見覚えのある倉庫は、もしかして……」


「あっ、はい! ダラクのマルネン商会の倉庫です!」


「ど、どういうことだ……オレにも分かるように説明してくれない……か?」


「実は、この扉に転移魔法を付与したんです。だから今後はダラクとここは、一瞬で移動が可能です。例えばダラクの特産品を向こうから送ってもらい、こちらか生活必需品を送り返す感じです」


 今回の作戦は転移魔法を付与したもの。


「あっ、でもボクは未熟なので、問題もあります。生きたものは、この転移門を通過できません。死んだ肉や魚は大丈夫ですが、人や生きた家畜などは弾かれてしまいます。未熟で申し訳ないです」


 転移は付与魔法の中でも、かなり難しい。

 ボクは才能が無いので、無生物だけしか通せない。


 お爺ちゃんやラインハルト兄さんは、こういうのが得意。

 だから生物も通過可能。


 本当に自分の才能の無さに、悲しくなってくる。


 ん?

 倉庫の中が、急に騒がしくなったぞ。


「「「えー⁉」」」


 説明を聞いて、誰もが叫ぶ。

 徳碁ヘナヘナと、その場に座り込む。


 一体どうしたんだろう?


「いや……今回のは、あまりにも規格外すぎて、全員が腰を抜かしているだけだ。あまり気にしないでやってくれ、ダメージが増えるからな……」


「あっ、そうですか……よく分からないですが、なんか申し訳ないです」


 もしかしたら皆さんの仕事モチベーションを、ボクが下げてしまったのだろうか?

 ちょっと心配になってきた。


「いや、そんなことはない。むしろ有りがたいことだ。何しろ安全に、この街との輸送が可能になったんだからな。これでダラクの市民も……あのクソッたれな街も、爆発的に良くなっていくぞ!」


「えっ……? はい、それは嬉しいです、ボクも!」


 この転移門の影響で、今後はどうなるか分からない。


 でもダラクの人たちの生活が、どんどん良くなっていく。


 その言葉だけでも、救われた気がした。


「ふう……だがハリト。この魔法も使用する時は、オレに判断を仰いでからにしてくれ。間違いなく大陸の経済流通と、各国の軍事バランスが一気に狂っちまうからな!」


「あっ、はい……肝に命じておきます……」


 なかなか魔法の使い方は難しい。


 今後のことが、少し心配だ……。

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