第8話【閑話】ハリトの家族の視点
《ハリトの家族視点》
時間は少し戻り、ハリトが家出をした当日のことだ。
王都にある巨大な屋敷。
彼の実家シーリング家は大騒動になっていた。
「ね、ねえ、大変よ、みんな! ハリトの奴が家出しちゃったよ! 部屋に置き手紙だけあって、家の中のどこにもいないのよ⁉」
最初に家出に気が付いたのは、姉のエルザ。
日課である早朝のトレーニングに弟が来なくて、心配して部屋に行ったのだ。
「まさか、あのハリトが家出だと? この手紙……本当だ。ちょっと待って、エルザ。探知魔法で探してみるから」
兄ラインハルトは大魔導士の杖を持って、意識を集中。
「……【
探知系の超上級魔法を発動。
国内の全部の生物を、スキャンして調べていく。
「ん? ハリトが、どこにもいないぞ? まさか、国外に家出したのか? この短期間で、やるな、アイツめ」
「どうしたライン。どれ、父さんが調べてあげよう」
次に来たのは父親バラスト。
特殊な魔道具を取り出す。
彼は大陸最高峰の【天才魔道具士】。
自らが発明した魔道具で、息子の所在地を探知していく。
「スイッチオン! おや? この大陸のどこにも、ハリトがいないぞ? これはどういうことだ? そうか! もしかしたら痕跡を消す技を、会得していたのか、ハリトは⁉」
「お父さん? 次は私がやってみますわ。少し“天神様”に聞いてみますわ」
次にチャレンジするのは母親のララエル。
彼女は【聖女】の称号をもつ、大陸最高峰の聖魔法使い。
天神に万物の真理を、訊ねることが出来るのだ。
「うーん。あら? 駄目でしたわ。もしかハリちゃん、天神様にも根回してから、家出したのかもねー?」
「えー⁉ あのハリトが⁉ そんな訳ないでしょ、母さん! それに兄さんも、父さんも、どうしてあんな半人前を、見つけられないのよ⁉ あの子は私たちが側にいないと、何も出来ない子なのよ!」
姉エルザは、歳が一番近い。
その分だけ弟のことを、昔から溺愛していた。
とにかくハリトのことが心配なのだ。
だから他の子どもにイジメられないように、今まで護身術として剣術を教えてきたのだ。
だが、そんな半人前なはずのハリトが、このシーリング家の英知でも見つけられない。
“ハリトはどこに消えた?”
集まった家族は、頭を悩ませている。
自分たちとは違い才能がなく、半人前なハリト。
うかうか家の外に出て、交通事故にでも遭遇したら大変だ。
そんな感じで家族が、リビングで困っていた時だった。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。ハリトの奴は、地下の転移門で、家出したようじゃぞ」
「「「おじいちゃん⁉」」」
リビングにやってきた祖父ゲンイチロウ。
彼の所有していた転移門が、使われた形跡があるという。
「それなら、お爺ちゃん! 早く、その転移門を使わせてよ! ハリトを早く連れ戻さないと!」
「それがハリトの奴、転移門を壊していったぞ。しばらくは使えん」
“あのハリトが転移門を壊せた⁉”
祖父の言葉に全員が驚く。
何故なら元勇者である祖父の転移門には、強力な結界が張られていた。
普通の攻撃では、傷一つ付けることすら出来ない
それを半人前で、か弱いハリトが破壊できた。
だから家族は驚きでしかないのだ。
「うっ……あんなに小さかったハリトが、そこまで成長していたとは、パパは嬉しいぞ……」
「ちょっと、パパ! 感動して泣いている場合じゃないわよ! いくら転移門を破壊で来ても、あのハリトはまだ半人前なのよ!
姉のエルザは、とにかく弟が心配。
「こうなったら私が探しに行くわ! お爺ちゃん! 転移門の先は、どの辺にあるの?」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。ロッキーズ山脈の頂上じゃよ、エルザ」
「えー、ロッキーズ山脈⁉ 大陸の反対側じゃない! 私が全力でも、結構かかるわね……でも行くしかないわ!」
エルザはリビングを飛びだしていく。
自室に戻って、旅の支度をするのだ。
「あら、エルちゃん? 【剣聖】の公務はどうするの?」
「あー、ママ。悪いけど、適当に言っておいて、ちょうだい。ハリトを見つけ出したら、魔道具で連絡するから! それじゃ行ってくるね!」
そう言い残して、エルザは屋敷を飛び出していく。
向かう先は大陸の反対側ロッキーズ山脈。
「あの馬鹿ハリト……絶対に見つけて、連れ戻してやるんだから!」
こうして最強の剣士【剣聖】姉エルザによる、弟ハリト追跡がスタートするのであった。
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