第7話レオン君の右足

 家出したボクは転移装置で、遠い国に転移。

 ダラクという都市国家に到着。


 駆け出しだけど、憧れの冒険者のなることが出来た。


 泊まる場所に困っていた時、神官見習いの少女マリアが助けてくれた。

 でも彼女の家には、片足を失った弟がいた。


 ◇


「呪いがある魔物らしくて、司祭様でも回復できない欠損なんです、レオンの右足は……」


 明るかったマリアの顔が、急に曇る。

 彼女の中で心配ごとなのであろう。


「ちょ、ちょっと姉さん! お客さんがいるのに、そんな顔しないでよ! それよりも、このお兄さんのことを、紹介してちょうだい!」


「あっ、ごめんね、レオン。えーと、この人はハリト君。他の街から来た人で……えーと仕事は……」


「ボクは冒険者です! 合格したばかりの駆け出しだけど」


「えっ⁉ ハリトさんは、冒険者なんですか⁉」


 レオン君の目が急にキラキラする。

 松葉杖を器用に使って、こっちに迫ってきた。


「ボ、ボクも幼い時から冒険者に憧れているんです! こんな右足だから武器は使えないけど、一生懸命に勉強して、魔法使いになって、冒険者になりたんです!」


 レオンは真っ直ぐな目で、ボクの顔を見てきた。

 口調も熱く、心が籠っている。


 だからボクも応える。


「そうか……冒険者、絶対になれるよ。どんな大きな夢でも、信じて努力していけば、必ず道は開けるから!」


「そ、そうですか! ありがとうございます、ハリトさん!」


 レオン君は本当に喜んでいる。

 本当に冒険者になりたいんだろうな。・

 こんなハンディキャップがあっても、心が全くぶれていない。


 それに比べてボクは弱い。

 十四歳になるまで、家族に言いなりになっていた。


 真っ直ぐなレオン君は、本物の男なのだ。


「ごめんなさい、ハリト君。弟が強引で」


「いや、大丈夫だよ、マリア。すごく立派な弟さんだね」


「ありがとう。私もレオンのことは応援してあげたいの。でも、この街の状況で、その足だと生きていくこも精一杯で……」


 マリアはまた暗い顔になる。

 弟のことが、よほど可愛いのであろう。

 何とか力になってあげたい。


 あっ、そうだ。


「ねぇ、レオン君。ボクにちょっと足を、見せてもらっていいかな?」


「えっ、はい。どうぞ?」


 ボクは膝をついて、レオンの右足の状況を確認する。


 うーん、たしかに呪いがあるような気がする。

 だから普通の回復魔法では、欠損を治せないのかもしれない。


「ちょ、ちょっと、ハリト君? 何をするつもりなのですか?」


「よし。ちょっと試してみるけど。大丈夫かな? レオン君?」


「えっ……はい、大丈夫ですが、何を?」


 ボクは意識を集中。

 魔力を自分の手に集める。


「それじゃ、いくよ……【完全解呪エクス・ディスペル】&【完全治癒エクス・キュアー】!」


 キュイーン! ボァーン。


 レオン君の全身が、眩しい光に包まれる。


 ニョキニョキ♪


 直後、レオン君の右足が、欠損部分から生えてくる。

 しばらくすると完全な右足が完成。


 よかった。

 なんとか成功したぞ。


 よし、レオン君とマリアに報告だ。


 ん?

 その時だった。

 様子がおかしい


 二人とも目を点して、口をあんぐり開けていた。

 何か凄い物を見てしまった……そんな表情だ。


 どうしたんだろうか?


「ハ、ハリト君……もしかして今の【完全解呪エクス・ディスペル】と【完全治癒エクス・キュアー】?」


「えっ、うん。そうだよ。家庭用の簡単な聖魔法だったけど、なんとか解呪できてよかったよ。もしかしたら呪いも弱かったのかもね?」


「いやいやいやいや……何を言っているんですか、ハリト君! あの呪いは強力すぎて、この街の最高司祭でも、解呪できなかったんですよ!」


「へ? そうな?」


「そうです! それに【完全解呪エクス・ディスペル】と【完全治癒エクス・キュアー】なんて超上級の聖魔法を、ハリト君は使えたんですか⁉ 【神聖浄化乃光ホーリー・ライト・ブレス】だけじゃなくて⁉」


「えっ、うん。そうだよ。【完全解呪エクス・ディスペル】は家の掃除とかで便利にだから、よく使っていたんだ。マリア、知ってた? 汚れって呪いの一種らしいよ。あと【完全治癒エクス・キュアー】は、かすり傷の治療に使っていたよ、我が家では。ほらツバを付けて治す感じで?」


 我が家の母さんは、もっと本格的な聖魔法を沢山使える。

 あれ、でも、冒険者ギルドでも、みんな【完全治癒エクス・キュアー】に驚いていたような気がしたな。


「はぁ……超上級の聖魔法を家の掃除と、ツバ変わりですか……ですか……何となく、思っていましたが、ハリト君……あなたは“普通”ではないのですね……」


「えっへっへへ……なんか、困らせてごめんね」


「いえ、大丈夫です。墓場の【神聖浄化乃光ホーリー・ライト・ブレス】で、何となく感じていました。だからハリト君のことを、あの後に探していたんですけど……」


「えっ? ボクのことを?」


「いえ、何でもないです。それよりも……レオンの足、ありがとうございます」


 マリアは頭を深く下げてきた。


「レオン君、大丈夫? どこか痛くない?」


 先ほどから自分の足をじっと見つめているレオン君に確認。

 大丈夫かな?


「……はい、大丈夫です。まるで夢のようなことに、言葉が出ずに……動けなかっただけです……ハリトさん」


「そっか。それじゃ、ちょっと歩いてみようか? 回復したてだから、あまり無理しないでね?」


「は、はい……では、いきます。ふう……ああ、歩けます! ボク、歩けます!」


 レオン君は見事に歩くことが出来た。


 まだ危なげだけど、松葉杖を外し、自分の両足だけで歩いていたのだ。


「レオン! 本当に良かった……」


「お姉ちゃん……」


 二人の姉弟は抱きしめ合う。

 この数年間、本当に辛かったのであろう。

 姉弟の絆の深さを感じる、温かな抱擁だった。


 見ているボクも、ジーンと心が温かくなる。


「ふう……それじゃ、晩ご飯の準備をしましょう」


 落ち着いてからマリアが、動き出す。

 夕食の準備をしてくれるという。


「せっかくの快気祝いだから、なにかご馳走にしたいけど、いつもの質素なご飯になっちゃうけど、ごめんね。レオン」


「うんうん、大丈夫だよ、お姉ちゃん! こんなご時世だから、食事を食べられるだけでも、神様に感謝しないと!」


「そうね……そうよね」


 このダランの街は、今は非常時。

 お祝いだからといって、ご馳走の食材も買えないのだ。


「あの……よかったら、“ちょっとくらいの料理”なら、ボクもお手伝いしようか、マリア?」


「えっ、ハリト君。料理も出来るのですか?」


「あっ、はい少しは。でも今回はお祝いだから、プロの人に作ってもらったのを出すね」


「えっ? 『プロの人に作ってもらったのを出す』……ですか?」


「それじゃ、このテーブルの上を借りるよ。いくよ……【収納・出】!」


 ボワン!


 収納魔法を発動。


 スゥ、トン。


 マリア家のテーブルの上に、収納していたものが出現。


 今回出したのは、出来立ての大皿を三品。

 あとナイフやフォーク、飲み物などワンセットだ。


「え…………?」


 またマリアは目を点にして、言葉を失っている。

 出現した料理を見つめながら、硬直していた。


「あっ……もしかして、グラタンとパスタ、チキンの丸焼きは苦手だったか? ごめね。準備する前に、確認しておけばよかったね」


「い、いえ、グラタンとパスタ、チキンの丸焼きは全部大好物なので、問題はないです……と、というか、これは何ですか、ハリト君? どうして食事がいきなり出てくるんですか⁉ しかも料理から湯気が出ているんですか……?」


「あ、そういうことか! これは実家の料理人シャフに作ってもらった料理を、【収納】魔法の中に入れておいたんだ。あっ、ちなみに収納は頑張ると、中の時間も止めておける。だから出来立てなんだ!」


「しゅ、【収納】魔法って、たしか伝説級の特殊魔法ですよね……Sランクの人しか使えない……しかも中の時間を止めることが、出来るんですね……」


「あっ、ごめん。なんか、やりすぎちゃったかな? やっぱり、もう少し落ち着いた感じの料理にすれば良かったかな?」


「うっ……レオン……姉はハリト君が……怖いです」


「あっはっはっは……姉ちゃん、諦めなよ。ボクは良く分からないけど、ハリトさんは凄い冒険者なんでしょ? だからありがたく、ちょうだいしようよ!」


「うっ……分かった……」


 なんとかレオン君さんが仲介して、マリアは落ち着てくれた。

 まだ少し涙目だけど。


 ふう……これでひと段落。

 皆で準備して、食卓に着く。


「それではレオン君の全快を祝って、乾杯!」


「「「かんぱーい!」」」


 三人で乾杯する。

 ボクとマリアは十四歳で成人だけど、果実ジュース。

 未成年のレオン君もジュースだ。


「うん、美味しいね! こんなに美味しい料理、ボク生まれて初めてだよ!」


「そうね……こんなご馳走は、数年ぶりね」


 二人とも本当に美味しそうに食べてくれた。

 ボクも一緒に食べていく。

 食事をしながら二人の話を聞いていく。


 マリアとレオン君が、今までどんな生活をしてきたか。

 二人の将来の夢も聞いていった。


「あ、そういえばハリトさんは、すごくお姉ちゃんの好みのタイプなんだよ!」


「へっ?」


「だから、この家に泊めてあげるだと思うよ!」


「ちょ、ちょっとレオン……あなた何を言っているのよ!」


「えっへっへへ、果実ジュースで酔っ払っちゃったのかも、ボク」


「もう、仕方がないんだから……」


 そんな感じで、楽しい宴だった。


 ここには実家のように、豪華なオーケストラの生演奏や、宮廷のフルコースもない。


 でも今までボクが食べた中で、一番楽しい夕食会だった。


「ねぇ、ハリトさん。この街で住む所がないなら、しばらくウチにいればいいのに?」


「えっ……でも、マリアが……」


「わ、私も大丈夫ですよ。ハリト君には返しきれない恩が出来たので……」


「ありがとう! それならお言葉に甘えて、新しい住居が決まるまで、よろしくお願いします!」


「やったね、お姉ちゃん!」


「も、もう……」


 有りがたい提案を、二人から頂いた。

 これで明日からの冒険者ギルドの任務に、集中できるぞ。


「それじゃ、そろそろ方付けをしまよう」


 そんな楽しい宴も終わり、就寝の準備となる。


「ごめんね、ハリト君。せまい寝床しかなくて」


「うん、大丈夫だよ。ボクは基本的に、どんな所ででも寝られるから」


「それじゃ、お休み……お姉ちゃん……ハリトさん……」


 三人で川の字になって、寝ることにした。

 真ん中はレオン君。

 狭くてギューギューだけど、温かみのある雰囲気だった。


 ◇


 翌朝になる。

 今日から、冒険者ギルドに本格的に通う日。


 窓から入ってきた朝日の光で、ボクは目を覚ます。


(ん……なんだ。この柔らかい感触は?)


 でも何かがおかしい。

 ボクの身体の上に、何かプニプニした感触があるのだ。


(何だろう……これは? ん マリア⁉)


 目を開けると、目の前にマリアがいた。

 ボクの身体に抱きついていたのだ。


 もしや……寝癖が悪いのであろう。


 薄い寝着の胸元から、彼女の白い肌があらわになっている。

 目のやり場に困る。


「ふにゃ……ふにゃ……ん?」


 マリアも目を覚ます。

 でも、まだ寝ぼけている。


「ねぇ……マリア。朝だよ?」


「えっ? ハリト君? し、失礼しました!」


 寝ぼけていたマリアが、一気に目を覚ます。

 立ち上がって、乱れた寝着を直そうとする。


「えっ? キャッ?」


 でも足を引っかけて、転んでしまう。

 寝着のすそが大きくまくれて、彼女の薄桃色の下着と、真っ白な太ももがあらわなる。


 プライベートのマリアは、かなり“うっかりさん”なのかもしれない。


(ふう……これから大変なことになりそうだな……)


 こうしてマリア姉弟との共同生活をスタートするのであった。


 でも、大丈夫かな……色々と心配だ。

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