フリップ!テレポート!

白楼 遵

1-1 俺の能力、当たりなのか外れなのか。


(・・・今年も、綺麗に咲いたな・・・)

中学二年生、いや二週間後には三年生になるのか。

俺――佐倉さくら 祐司ゆうじは、川沿いの道もぼんやりと歩く。

(桜、ほんと見てると時間忘れそうだな・・・)

ラノベを買いに、本屋へ行った帰り。ふと川沿いの桜が満開になっており、そこをふらふらと散歩している。土手を歩き、土を踏む感触が少し心地よい。

春風が短い黒髪を揺らし、少し垂れた枝の桜を眺める。

(こんな時、身長が170あって嬉しいと思えるな・・・)

手に持った袋をうっかり落としそうになるほど、綺麗な色合い。

(現代社会に足りないの、こういう綺麗さだろ・・・)




家の近所まで戻って来る。春の日差しがぽかぽかと暖かい。

「お!!佐倉じゃん!!」

クラスの一人。名前なんか覚えてない。嫌いだから。

「何してんの?ちょっと遊びにいこーぜ!!」

「・・・・・・」

無視する。目線も合わせない。

「なぁなぁ!!いいだろ!?」

よくねぇよ、家に帰らせてくれ。

その瞬間の事だった。


じゃれ合いのつもりか、肩を少し押される。

ふらついた俺は何かを踏んだ。空き缶だ。

空き缶が転がり、俺は後退。縁石につまずき、後ろに倒れる。


俺を待っていたのは大型トラック。

国道で出せる最高時速60キロを維持して走るトラックは俺を気にすること無く突進。

俺を跳ね飛ばしたトラックは急停止するが、俺は空中に舞い上がって止まらない。


骨が折れ、内臓がひしゃげるのが分かる。血管がちぎれ、体が宙を舞い、体表がちぎれて血煙が散る。


体が地に落ちる。口から血を吐く。何かが抜ける感覚、自分の体温が下がるのが分かる。目の焦点が合わない。汗も止まらない。

(・・・死んだか、俺)


死ぬ時まで冷静。

佐倉祐司、享年14歳。





何故か、目が開けれる。光が眩しい。

「・・・なんで、目を開けれるんだ・・・あれ?」

見慣れた家でも、近くの病院でも、本屋でも学校でもない。

見渡す限りの草原。風が吹き、そこら辺を水色のスライムが闊歩している。

「・・・ってスライム!?」

そう、スライム。あのスライム。ゲームなんかで雑魚キャラ扱いされるスライム。たまにもの凄く強いスライム。女性の服だけ溶かすような都合のいい種のいるスライム。

何故スライム。

「・・・これまさか、俺転生しちゃった!?」

死んでからの転生来ちゃったパターン!?俺勝った!勝ち組だ!!

「きっとあのスライムも睨んだだけで倒せるんだろ!?」

ラノベでよくあるチート展開。今ばかりはテンションが上がって仕方がない。

という訳でじーっとスライムを見つめる。


何も起きない。

「そうか、きっと武器だな!?チート武器がどっかに」

ない。周囲を見渡すが何も無い。立ち上がってみたり、落ちてないかと探してみたり。

何も無い。本当に何も無い。

「あぁあ!!なんでないんだよ!!」

ふと足下に思い物がのしかかる。


スライムだ。

「うおわぁ!!ちょ、乗るな!!」

脚を振り、スライムを振りほどく。

起こったスライムは俺の方へと飛びかかってきた。あのぷよぷよの体でどうやって跳んでるのだろうか。

「ってそれどころじゃねぇだろ・・・」

急に素に戻る。ふと手を出し、スライムに触れる。


スライムが吹っ飛んだ。

文字通り吹っ飛んだ。草原の真ん中から端っこくらいまで飛んでった。

「・・・あれ?」

スライムが爆散し、水色の粘液をぶちまかれる。

「・・・何これ、ノックバック?」





その後スライムを吹き飛ばしまくって、自分の能力が本当にノックバックである事を確認した俺は、他に何か出来ないか考える。

「とは言っても、この身なりだしな・・・」

現在の服装は、ジーンズに適当な長袖シャツ、黒パーカー、スニーカー。それにスマホと財布。黒パーカーに至っては事故った時の血がまだ付いてるし、袖はスライム汁に塗れている。

「・・・何か、でもあれば便利なんだけどな」

ふと、近くの草を掴もうとする。


自分の手から草が消え、代わりに目の前に掴んだ筈の草が現われる。

「・・・あれ?」

ふとその変のスライムに触れる。

今度は、触れた所から30センチ右にずれたところでスライムが出現、触れたスライムはいない。

「・・・これまさか」

石を真上に投げ、タッチ。少し向こうの虚空から石が落ちる。


「・・・ノックバックとテレポート・・・何これ不遇じゃね・・・?」


ノックバック。それは後ろに飛ばすだけの技。

テレポート。ただ単に別の場所に飛ばすだけ。

飛ばし技二つ揃っても、俺の無双撃は始まるのか・・・

「まぁ、街に行くか・・・幸い、そこに壁があるからそこに行けばいいんだし」

打ちひしがれた俺は、街に向けて歩き始めるのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フリップ!テレポート! 白楼 遵 @11963232

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る