第4話
時間は何時くらいだったのだろう。
空は夜に向かい群青色をして、屋台から漂う甘辛い匂いと、咲きはじめた花たちの匂いがしていたように思う。
人々の喧騒と、どこかで流れるラジオの音楽は、私の耳には遠く聞こえていた。
先輩とその時どんな会話を交わしたのか、私は思い出せない。
きっと部活内の他愛もない話をしたのだろう。
時間も友人たちと合流できるまでの、ほんの数分だったはずだ。
現在の私の記憶に残るのは、曖昧な祭の色と光と匂いと音。
時々、さわさわと風が吹き、人々の頭上を流れるように舞う桜の花びら。
そして、自分の細胞がその空気全てに染められて、泡立つような感覚。
ずっとこうしていられたらと願ったこと。
あまりに美しいその時間は、夢だったのかもしれないと、今でも思うくらい、
私の初恋、大切な思い出だった。
雑誌で先輩の写真を見た時も、あの桜祭りの景色がまず最初に思い浮かんだ。
そして、あの時のように、まるで何もかもからはぐれて動けなくなっている私の横に、
再び先輩が現れてくれたような気がした。
ー続くー
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