第3話

初恋の人は、私が通っていた高校の1つ上の先輩で、同じ吹奏楽部に所属していた。

吹奏楽部は県内のコンクールで毎年優勝するくらいの力があり、学校側も特に指導に力を入れている部活動であったため、部員数も多く、また、先輩とは演奏する楽器も違ったので、挨拶くらいしか交わしたことがなかった。


恋をした理由も今となっては曖昧だが、先輩のバイオリンを弾いている姿はとてもステキで、先輩が友人たちと話している時の笑顔や話し方がとても好きだったのは覚えている。

そして、先輩には同学年の彼女がいて、つまり私は最初から失恋していた。

だから、気持ちを伝えることもしなかった。


思い出はひとつだけ…。


地元の神社で毎年開催される桜祭で、一緒に訪れていた友人とはぐれた私は、お堂に続く階段に座り込んでいた。

あいにく携帯電話も家に忘れてきてしまい、友人を探し回るよりは、動かずじっとして、みつけてもらえることに賭けていた。


ぼんやりと境内に並ぶ屋台を見ていた時、「あれ?」と顔を覗き込まれた。

そこにはいつも遠くから見つめていた顔、先輩がいた。

心臓だけじゃなく、身体中の臓器が跳ねた気がした。


「こ…こんばんは!」

咄嗟に挨拶したものの、自分のどこから声が出ているのかもわからないくらい、上擦っていた。

「一人で来たの?」

先輩がそう言って、いちご飴を手に、私の横に腰を下ろした。

「いえ!あの、友達とはぐれてしまって!」

脳がパニックを起こしている。

自分がきちんと言葉を発しているのかも曖昧だった。

「そうなんだ。実は俺も。」

先輩はいつもの笑顔で笑って言った。


ー続くー






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