第13話 捨てないで

血が滲む手を握りしめながら、彼は泣き出した。

ボロボロ泣きながら


「捨てないで。」と、ポツリとつぶやいた。



彼は震え出し、嗚咽を漏らしながら泣き出した。

私は落ち着くまで背中をさすった。

頭にはまたモヤがいっぱいかかり、ぼんやりとしていた。


少し落ち着きを取り戻した彼は小さな震える声で話し出した。



「初めてだったんだよ。こんな好きになれたのは。」

小刻みに震えながら話続ける。


「俺さ、母親に捨てられたんだよ。」

彼の目からまた涙が溢れる。



「中学3年生の時にさ、両親が離婚したんだよ。母親はさ、俺が怪我で入院してる間に男作って出て行ったんだよ。俺たち子供みんな置いてさ、1人で男と出て行ったんだよ。」



彼が離婚してお父さんが彼のお姉さん2人と彼を育てたという事は聞いていたが、お母さんの話は初めてだった。



「それからさ、女なんて信用出来ねぇって思ってさ適当に遊んでたんだよ。どうせ裏切られるなら、こっちから裏切ってやろうって適当にさ。

でもさわに会って初めて信じたい。大切にしたいって思ったんだよ。それが本心なんだよ。」

また泣き始める。


頭が混乱する。

モヤは一層濃くなってまるで霧がかかったように目の前が真っ白になっていく。


「正直に話すとさ、実家帰った時に女友達に会ったんだよ。で、2人で飲もうとした。だけど、さわの顔が浮かんでやっぱり会いに行かなかったんだ。

直前で断ったんだよ。信じて。」


私の腕を掴み泣きながら私を見つめる。

私の白いブラウスが彼の手から流れた血で滲んでいく。


「なら携帯見せて。見せれるよね?本当なら。」

彼の目を真っ直ぐ見つめて、言った。


「わかった。」


彼は携帯を私の手の中に渡した。

彼から少し離れて携帯を開く。





先程のメール画面を開く。

メールのメッセージを一つ一つ開けていく。

先程見たメッセージから見直していく。


『久々だったね。懐かしかったわー。俺3日ぐらいこっち居るんだけど、華英は時間ある?久々に飲もうよ!』



華英『私今日の夜しか空いてないんだよね。今日ならいいよ!』


彼『じゃ今日の夜に』


華英『わかった!じゃ家に迎えにいけばいい?』


彼 『よろしく。』


というものだった。

もっと読み進めていく。

手が震える。

動悸がしてくる。



うまく操作が出来ない、、、

なんとか携帯のメッセージをあけていく、、、


…ドクン…

心臓がなみうった。


華英 『今家の前についた。』


目の前が真っ暗になっていく。

会わなかったって言ってたよね?会ってるじゃん…

メッセージを読み進めていく。


彼『ちょっと待って…』


華英 『わかった!早くね』



読み進めていくうちに違和感に気づいた。

このやりとりしてる時間って、、、、




昨日の胸騒ぎを思い出す。そう。私に寝ると電話をしてからのやりとりだったのだ。

最初から寝るつもりなんてなかったのだ。


メッセージ画面から発着信履歴画面に変える。


…やっぱり、、、。



華英が着いた後に私に寝ると電話をしていたのだった。その後私が間違えて発信してしまった時間に外に出ようとしていた。

そしてその後の30分間は華英と電話していたのだった。


もう一度メッセージ画面に戻る。


華英との電話後であろうメッセージを開く


彼『ごめん。やっぱり行けない。ばれそう。』


華英『やりたくないの?』


彼『したいけど、、、ばれたらめんどうだし。』


華英『彼女に寝たって事にしとけばいいじゃん。早くしてよ。』


彼『今日は無理。帰って。』


ここまでが昨日のやりとりだった。



確かに行ってはいないようだ。

でも私が大切だったから行かなかった訳ではない。ただばれたらめんどうだから行かなかったのだ、、、。


ズキズキ、、、頭痛がする。

また頭にモヤがかかる。

目眩がしてくる。


「どう?気が済んだ?ほんとに行ってないでしょ?」

彼が言い放つ。


…どの口で言ってんだこいつ。

彼を睨みつけ、携帯を投げつけた。


「勝手に他の女とやってろ!クソ野郎!」


怒鳴りつけて外に飛び出した。

まだ肌寒い季節だったが、上着も荷物も持たず飛び出してしまった。


…寒い。

身体をさすりながら、行く宛もなく歩く。

涙でぐしゃぐしゃの顔でどこか座れる場所を探した。

薄暗い路地を歩くと公園が見えてきた。


公園に入りベンチに腰掛ける。

どっと張り詰めたものが切れたように力が抜ける。


…なんでこんな思いしなきゃいけないんだろ。

悔しくて情けなくて涙が溢れた。

声を殺して泣いた。

ギリギリっと唇を噛みしめる。

プツッと音かして唇に血が滲む。


1時間位経っただろうか、、、

肌はすっかり冷えきり身体はガタガタ震え始めた。




…とりあえず荷物を取りに帰ろう。

そう思い、重たい身体で立ち上がった。

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